12.思考回路大爆発

一旦落ち着いて確認しようと思う。何をって、目の前の先輩と自分の関係をだ。関係っていうかもしかしたらこの人は本人じゃないかもしれない。誰かが変装してるんじゃないかと思う。なんかきっと私を動揺させるために。その人は大成功してるからだからとりあえずあのだめだとりあえず私は逢坂弥子でバレー部のマネージャー。現在牛島若利先輩に絶賛片思い中の1年生です。
そして目の前の先輩は私が片思いしているバレー部の我らが主将の牛島若利先輩だ。3年生です。
なんで私がこんなにも動揺して状況整理をしてる理由は、大体五分前の牛島先輩からの発言のせいである。

「逢坂、後で二人になれる時間を取れるか。」

これです。
何ですかこのカップルが約束するみたいな発言。いや私恋人出来たことないからわからないけど…。
とりあえずそのまま動揺して持ってたドリンクを思い切り落として固まって今の状況整理の状態。
無駄に働く頭は動いてるけど状態は固まったまま。そんな私を見て牛島先輩が少しだけ困惑した表情になってきている。新しい表情見れたやったぁって思う反面どう返したらいいんだろうのスパイラル。助けて恋愛経験豊富な人。
普通に取れます!!貴方のためならいくらでも!!って言えばいいのかな。いや多分最後のはいらない。
とりあえず牛島先輩をいつまでも待たせるわけにはいかないしドリンク落としっぱなしだと監督にまた怒られちゃう。
よし平然と、いつもと変わらないように返すんだ。

「とっ、とっと取れます!!!!」

食い気味にそして声が裏返りましたダメでした。





後で、とは部活終わりだろうなぁなんて予想はしてたけど、まさか自主練を見ることになるとは。
でも約束?通り牛島先輩と私以外は誰一人いなくて、牛島先輩がボールを打つ音と私がボールを追って走る音だけが体育館に響いてる。
時間を取れるか、というのは何か話があるのかなと思っていたけどどうやら自主練に付き合えって意味だったみたいだ。変な勘違いをしてしまった自分が恥ずかしい。
…ただ、その………多分、あの私の結論は間違ってないんだけど、あの、さっきから気になることが一つある。
自意識過剰ならそれでいいんだけど、なんか牛島先輩が異様にこっちを見ている気がする。それはもう私の体に穴が開きそうなほどに。視線も相まってなんかこう睨みつけられているような気もする。いや牛島先輩に見つめられているという事になんかもう私の思考回路は大爆発寸前だ。
…………やっぱり自意識過剰じゃないよねこれ、もう牛島先輩ボール打つ時にも私の方見てるしなんでなの、私後ろにいるから打てませんよそれ牛島先輩ご乱心ですか。それにしては真顔だ。

「あ、あの牛島先輩…こっち見てたらボール打てませんけど…?」
「知っている。」
「えっ、………打たないんですか?」
「そもそも今日逢坂を呼び出したのは自主練を手伝ってもらう為ではない。」
「えっ。」

重ねられる言葉にひたすらに動揺を誘われる。
えっと?え?牛島先輩は今日自主練付き合えって意味で私を誘ったんじゃないってこと?
じゃあなんで?
私の疑問が顔に出てたのか、牛島先輩は一度深く息を吐いてからボールを置き、大きい一歩でこちらへ進んでくる。えっ!?

「待て、何故後ずさる。」
「無言で近づかれたら驚きますし恥ずかしいですから!!」
「恥ずかしい?」

そう言っている間にも牛島先輩はこちらに近づいてきていて、対する私は後ずさっていたので壁に背中をぶつけた。痛い。そして逃げ場ゼロ。

「お前に聞きたいことがある。」
「ひぇ、な、なんでしょう、か。」

目の前で私を遥かに高い位置から見下ろす牛島先輩と、距離がいつもより近いのと牛島先輩に思い切り見つめられてて呂律がまわらなそうになってる私。勝者!牛島若利!わーっ!!

そんな現実逃避をしてる場合ではない。
何やら牛島先輩は私に聞きたいことがあるらしいです。なんだろうかもうどうにでもなれ。

「逢坂は、何故俺が好きなんだ。」


真っ直ぐに紡がれた牛島先輩の言葉。そしてそれは私にとっての物凄い爆弾発言だった。

大きく見開かれる自分の目と、ただただいつも通りの牛島先輩の目が重なり合う。
それはおそらく数秒で、そんな短い時間の中で牛島先輩の意図を知ることは不可能で、多分本当ただ単に純粋に知りたいのかな。そういえば私なんで牛島先輩が好きなのかって言ってなかったっけ。

でも、それでも

「それは本人に言うことははじゅかし、恥ずかしいことでして牛島先輩!!」
「落ち着け。」

はい。
なんだか色々雰囲気というものが台無しになった気がする。
それでも片思いしている相手に自分を好きになった理由とか聞かれたら誰だって答えられないしまず恥ずかしいと思うんですよ。


「えっと、その、恥ずかしいから言えないですね〜…なんて…。」
「そうか、それなら別にそれでいい。」
「ちょちょちょまってください牛島先輩やっぱり聞いてください。」

あまりにもあっさり返されて何故かこっちがすがり付いてしまった。恥ずかしいのは本当だし本人に言うとかきっと拷問でしかないけど、もしかしたら牛島先輩が私に興味を持ってくれたのかとかいうめちゃくちゃ薄い希望を持ちました。はい。
言うといったからか、一度踵を返した体制から元に戻った牛島先輩は再び私をじっと見下ろしている。

「…言いますけど、その、引かないで、笑わないでくださいね?」
「あぁ。」

告白するよりもこっちの方が数倍緊張するのかどうなのか、心臓が壊れそうなほどに動いている。
落ち着いて、と一度深呼吸をして言うべきことを色々まとめた。
………よし、

「…一目惚れ、でした。」

貴方に助けてもらったあの日に、私は貴方に惹かれた、貴方の事を好きになった。
表情が変わらない牛島先輩は何を考えているのかわからなかったけど、何も言わないあたりまだ話を続けていいということかもしれないと判断した私は話を続けることにした。

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