3.単純だから

朝からウシジマさんと出会えてラッキー、みたいな気分でスキップしたい気持ちになりながら少し早めに部活につけば早いね、なんて先生に言われ、そうですか〜と笑顔で返した。何故か首を傾げられたけど何でだろう、そんな変な笑顔だっただろうか。確かにいつもより表情筋が緩んでる自覚はある。
顔はともかく気持ちは引き締めなければ、と制服から渡された服に着替えつつ思う。
ジャージは入部がちゃんと決まってから渡されるらしい。それまでこの練習着か自分で動きやすい服を持ってくるとかなんとか。




斉藤先生や鷲匠先生から細かい仕事内容を教えられながら、話だけじゃなく実際にやってみたりして何とか動いている。
先輩のマネージャーはいないのかなと聞けば、一昨年はいたらしいけど卒業してしまい、新しくマネージャーはいない状態だったそうだ。マネージャーがいないぶん1年生とかがその仕事をしていたらしく、それは練習も重なるし大変そうだな、なんて他人事のように思ってしまった。
今は少しの休憩で、みんな思い思いに体育館に寝っ転がったり、外に出てドリンクをのんだりしている。初めて作ったけどまずくないかな、大丈夫かなと不安だけど特に何も言われないあたり普通なのかな。
その中にはウシジマさんの姿もあって、思わず視線を向けてしまうのは許して欲しいと思う。練習中も凄くかっこよかったです。ドリンクを渡す時に緊張してて声絶対裏返ってた気がする、あんなの勘のいい人に見られたら絶対好きだってバレるでしょ、いや良くない人が見てもわかるなアレ…。

「ねーねーマネージャーちゃん。」
「えっ?あ、はい?」

突然先輩らしき人から話しかけられてしまった。赤い髪で赤い目の男の人。そして大きいなぁ、首もげそう。
「うちに入部してくれてありがとネ〜。今までマネージャーがやる仕事は1年がやってたんだけど、やっぱり練習もあるから大変そうでさぁ〜。」
「まだ仮入部ですけどね。邪魔になってないなら嬉しいです。」
「あ〜女の子の後輩って感じだよ……むさくるしくない…」

男の人同士はそんなにむさくるしいんだろうか。
先輩はその後も話しかけてくれて、休憩中じゃない時もなんか手伝おうか?なんて言ってくるから鷲匠先生に怒られていた。サトリィ!と思い切り怒鳴っていたのであの先輩の名前はサトリさんらしい。
気にかけてくれている、というよりは休憩したいって雰囲気だった。
考えたけどここって部員数多いような気がする。マネージャーやるなら部員の顔と名前一致させなきゃじゃない…?
後で朝練が終わったら先生達にそういう資料がないか聞いてみよう。





「…牛島若利、さん。」

入学してから数日、やっとウシジマさんのフルネームを知ることが出来た。
部員の顔と名前を覚えようと、先生達にそういう資料がないか聞けばすんなり渡してくれた。それで一枚目をめくった瞬間飛び込んできた顔と名前は、間違いなくウシジマさんのもので。
やっぱり主将なんだな、若利って名前似合うな、かっこいいなぁ。
やっぱり私は単純なのか、名前が知れただけでもなんだか嬉しくて、足取りが軽くなったように感じた。

牛島さん…牛島先輩と会えるのは朝練と放課後の部活だけ、もしかしたら校内でばったりもあるかもしれない。

せっかくバレー部に仮入部してるんだから、自分なりに色々行動してみようと思う。勿論邪魔しない程度にだけど。

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