01


外套の懐から煙草を取り出し咥えながらライターを出そうとポケットに手を入れる。
しかし目当ての物が見つからず中原中也は眉間に皺を寄せた。

(…落としたか)


静かに舌打ちをして煙草を口から離そうとすると鼻先に微かな熱を感じ、動きを止める。息を吸い込み、煙をくゆらせながらその正体である人物に視線を向ける。



「…点ける時は声掛けろっつってんだろ」

火傷するだろうが、と再び煙を吐き出す。
しかしその声に怒気が含まれていない事を知っている彼女は臆する事なく、未だ小さな炎を灯している手のひらを握る。
再び開かれた手の平には先程までの灯は無くなっていた。


「大丈夫、ちゃんと狙ってる」
「そういう問題じゃねェよ吃驚するだろ」
「……ごめんね?」
「…ったく、」


以外にも素直に謝罪の言葉を口にするナマエに多少面食らったものの、しゅんと小さくなった彼女を見てこれ以上の言葉が思いつかず、中原は首裏をかく。



「謝る事など微塵も無いさ。何なら顔ごと焼いてしまっていい」
「…喧嘩なら買うぞ太宰」


いつの間にか二人の背後にいた男、太宰の言葉に中原は眼光鋭く声の主を睨みつける。



「喧嘩?とんでもない。私は君の為に云っているのだよ中也」
「あ?どういう、」
「焼いて顔ごと変えれば少しはマシになるんじゃないのかい?あ、でも矢張り身長はどうしようも無いか」
「手前なァ!!!」


繰り広げられる二人の言い合いにナマエは溜息を吐く。
仕事においてのこの二人のコンビネーションは素晴らしく機能してくれるが、顔を合わせれば子どもの様な喧嘩を始める。
この場面だけを見てしまえば、横浜の闇と恐れられるポートマフィアの大幹部と誰が思うだろう。



「…後始末はもう終わったの?」


この喧嘩の発端になった(ほぼ毎回)男である太宰にナマエは声を掛ける。
すると自然と罵り合いは止まった。



「嗚呼、問題無く」
「そう」



太宰の言葉で今回の任務、反マフィア勢力の一部である組織の殲滅が確実に終わった事を確認する。
先程まで怒声、銃声、そして組織の人間達の断末魔が響いていた目の前の倉庫を振り返り、ナマエは最後の仕上げに入る。

目を閉じ倉庫内、周辺に埋めてある爆薬の起爆装置に意識を集中する。手の平に炎を宿し、静かに息を吹きかけると炎は散らばり飛んでいく。





「帰ろう」





背後で爆発した倉庫には目もくれずナマエは二人へ声を掛ける。

燃え盛る炎を背後に歩みを進める彼女の表情は、妖艶さを感じせる程の綺麗な笑顔だった。




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