青の破軍

2


私の名前はアイリン・レア。平和な日本で生まれた、ごくごく普通の学生だ。

……訂正しよう。学生、だったんだ。トリップするまでは。

あっ、なんでミドルネームが洋名かって? まあ色々あってね。もとの名前だと面倒だったから変えちゃった。


話を戻すとして。


ぶっちゃけ簡単に言うと、なんか色々とあってガンダムの世界にもトリップしたわけですよ。

で、なんだかんだと戦争に巻き込まれてガンダムに乗ることになっちゃったんだよねえ。

ていうか、子供に戦争させるとかありえなくない? 今は16、7くらいだからまあ判別つくようになったけど、同時は12、3歳くらいだからね。トリップしたとたんすぐ戦場に放り出されて、まじで死ぬかと思ったよ。うん。超怖かった。


そんで宇宙で戦ってたら仲間とはぐれて、気がついたらまたトリップしてました。


しばらく暗く冷たい宇宙を漂って、MS内の空気や食料がなくならないかと心配しながら、ようやくたどり着いた場所が自分の知らない宇宙圏で、

あいたたた、またトリップしちゃったって頭が痛くなったんだっけ。

でもトリップして、フリーズしたり慌てたりしなくなったから、慣れって怖いね。


んで、そこで出会ったのがCGSの皆さんだったわけですよ。


行くアテのなかった私はそのままタダ働きをするはめになった。しばらくしてとんでもない所に来たなぁうわぁって後悔したけど。

こんなところすぐにでも出ていきたかったけど、愛機のHi-νガンダムが故障してしまってね。

私がパイロットってことは隠してあるから(MS乗りって色々と面倒だし)こそこそパーツを盗みながら修理しないといけないわけですよ。

幸い、おやっさんの助けもあって私の相棒はお偉方にもバレてない。

ほんとにさっさと相棒修理して、もとの世界に帰りたいわ。


そんな簡単に帰れるのかって?


ガンダムが自動的に航路を記録してくれてるから、逆戻りしたら帰れるんだよね。もともと、戦闘中で回りが見えなくなって迷子になっちゃって、ガンダム色々と故障して冷静な判断もできなかったし。



……しかし。


しかしね神様。


なんていうか、こう、トリップが2回もあるってあんまりじゃありませんか?

いや、どんな小説も数回トリップするとかあんまりないよ? Uターンしたりクロスオーバーは見たことあるけど。私どんな数奇な運命たどってんの。

しかもトリップするならもっと良いとこにしてよ。なんでこんな辛いとこにトリップさせるかなあ。何? 神様私が右往左往してるの見て楽しんでるの?

そんなことしてたら絶対許さん。万死だ万死。万死に値する。神様死ぬか知らんけど。



「一番は衛星管理と飯が不味いことだなあ……」



まいまざーの温かい味噌汁が恋しいよ。そう言えば元気かな母上。あっ、パパもいた。お父さんもバイクぶいぶい言わせてるかな。


「あーあ、 宇宙 そら にいた頃の方がまだ美味しいご飯があったよ」


怒鳴られてから、私は「ペンキにつければ汚ればれなくね?」という極論に達し、本当に似たような色のペンキにつけて昼食を取っていた。

まっ、どうせバレないよね! どうせ理由なんてどうでもよくて、ただ八つ当たりしたかっただけなんだろうし。

そんで、今はみんなが食事を取るスペースで、ノルバやユージンたちと談笑してた。ここ、自分と年の近い子供たちはたくさんいるけど、女の子は誰一人いないんだもんなあ。時々売り子が来るだけで。

でも、「ドキッ! イケメンだらけの職場で女は私一人!? 恋のオフィス・ラブ」的な展開は一切なかったからね。

ちくしょう女の寿命は短いんだぞ。こんな身近にイイ女いるんだから口説く奴のひとりやふたりいてもいいと思うんだけどな!


「そういうの大声で言ったらまた殴られるぞ、お前」

「だから大声で言ってないじゃん。ユージンはこれで満足なわけ?」

「んなわけねぇだろ。1軍はもっといい飯食ってんだからよ」


1軍と違って、私や参番組の食事はひもじい。大人に言わせれば、飯と寝床を与えてるだけ感謝してほしいだと。むしろ育ち盛りの私たちにご飯を与えてほしいものだけどね。

冷たいスープを無理矢理身体に流し込んだ。野菜も肉も冷えてかたく、全ッ然美味しくない。

これって仕事量とご飯の量絶対に合ってないよ。


「なあアイリンよお、俺たちの分のメシ作ってくれよ。女だから料理くらいできんだろ?」


すでに昼食を食べきったシノが言った。


「女がみんな料理作れると思うな。てゆうかノルバが私を女扱いしたことないくせに」

「おっぱいがでかけりゃみんな女だろ!」

「それ言ったらミカちゃんや昭弘だってデカパイだぞ」

「あれは乳じゃなくて筋肉だろうが。お前ら二人ともアホか」


知ってる。ていうか昭弘なんか、きっと私よりバストある。チクショウ。

ま、私まだ成長期だし? そのうちでっかくなる予定だし? 見とけよいつかボインボインになってやるからな。


「あっ、オルガお疲れ〜」


参番組の組長であるオルガが食事を持ってやって来た。私はオルガに向かってひらひらと手を振る。


「おう。……ってアイリンお前、またハデにやられたなあ」

「ちょっとくらい避ければよかったって後悔してる」

「あんま無理すんなよ」

「わかってるって〜」


オルガのそういうさりげなく優しい所、イケメンだよねえ。

続いてビスケット、三日月がやって来た。オルガとビスケットは、私やユージン達の向かい側に座る。


「ミカちゃんもやっほー」

「ん……」


ミカちゃんにも手を振ると、彼は小さく唸ってそのまま私の隣に座った。


「なあアイリン、その『ミカちゃん』って言うのやめてくんねえか? こいつどー考えてもちゃん付け似合う奴じゃねえだろ」

「三日月本人が嫌って言ってないからいいじゃん」


ねえ三日月! と振ると、「んー、まあ」とさも興味なさそうに返事が帰ってくる。

ユージンが面白くなさそうに舌打ちした。へへん、ざまあみろ。


「そういえばオルガ、社長に呼び出されてたでしょ。何言われてたの?」

「ああ、それがな……」

[10]

*前次#


ページ:



ALICE+