青の破軍

3


……


『……さん』


……


…………


……だれか が

だれ か が よん で いる?


『アイリンさん……』


しってる

わ たし し ってる あな たのこ と

ダン ジ?


『アイリンさん 助けて 痛い 痛いよ』


ダンジが 泣 いてる

あなた 死ん だは ず? なの に?


『痛いよ 苦しいよ 悲しいよ』


ダンジが ぐにゃり と ゆが む

くちびる は大き く さけて
 泣い ているの に
不 自然 な く らいわら っている

それは どんどん まっか に染まって
赤黒く なっ て
 ぐるぐる と ま ざってゆく


『痛い 苦しい 辛い 悲しい 憎い 恨めしい 恨めしい ……』


どろどろ と 粘り けを お びたもの は 
 ゆっ く り混ざって
うずに なり延々 と まわっていく

延々と 
延々と 
渦は あた まの なか を 回ってい く

頭の なか の
感情も 
きお く も
すべて の み こ  んで 延々と 延々と……


『うらめしい うらめしい』


どろ どろと

どろど ろ と


どろどろ……と……


…………


………………


……?


だ れ?

遠くで 誰かが 私 を 見てる

……私を

ほかの 誰 でもない 私を

私自信 を 私ひとりを?


『……ニュータイプ……は……戦争の生み出した人類の悲しい変種かもしれんのだ……』


誰かの声がする 誰かが……

呼んでいる? とても なつかしい?

優しい? 声がする?

でも待って まだそこにはいけないの

まだ 帰れない だって……




…………だって?



「だって……。……っ!!?」


……!?

ゆ、め?

誰? そこにいるのは……?

ユージン?

……ユージン!!?


「ユージン!? 戦いはどうなったの? いつから寝てたの!?」


私はベットから飛び起きた。

倒れる前の記憶があやふやで、何も覚えてない。

みんなはどうなったの? 敵は?


「三日月のMSが動かなくなってからだ。丸一日眠ってた。オルガは忙しいからな、俺はその代わりだ」


……。

そうだ。思い出してきた。

三日月が敵を追い払ったあと、音信不通になったんだ。それで、オルガたちがガンダムと三日月を回収しようってときに、私、頭が痛くなって倒れたんだ。

うわあ、どうしよう、MWに思いっきし吐いちゃったよ。コクピットに流れてなきゃいいけどなあ。

誰か知らないけど、整備する人、ごめん。


「ごめんなさい、忙しいときに」

「色々あったからな。それにお前、MWに乗ったんだろ? 始めてであんなに動いたら、そりゃ気持ちも悪くなる」


ほんとは、倒れた原因はそれじゃないんだけど、説明できる気分じゃなかったから訂正しなかった。


「あんだけイカれたらお前の体調の方が心配だ。おまけに、無茶苦茶うなされてたぞ」

「うん、知ってる」


あれだけ気持ち悪い夢をみたら、うなされもする。

……嫌だな。一度始まると、しばらく続くんだもん。何日かは寝不足になるな、こりゃあ。


「あんまり無理すんじゃねえぞ。死んだらなんにもなんねえからな」

「わかってる」


まだ割れるように頭が痛かったけど、無理に笑った。


「ユージン、優しいね」

「当たり前だろ。……仲間……なんだからよ」


ユージンは「仲間」のところで少し視線をそらした。

いつも私がからかってるから、言いにくいんだろう。ごめんよ。

これからは感謝の意を込めてあんまりからかわないようにするから。感謝の意を込めてるときだけ(たぶん三日したら忘れる)


「お、目が覚めたかアイリン」


タイミングよく、オルガがひょっこり顔を出した。

後始末で忙しくて寝てないんだろう。疲れている。それに、顔にいくつもアザがある。今回の責任を問われたんだろう。

オルガのことだ。きっとひとりで背負い込んでひとりで多く殴られたに違いない。

私は倒れていたことをさらに後悔した。


「オルガ。ごめんね迷惑かけて」

「別に。お前も大分活躍してたろ。切迫詰まってたし、倒れるのも無理ねえよ」


オルガは椅子に腰をおろした。


「それよか、少し話がある」

「それが本題ね」


オルガの目付きからして、相当重要なことなんだろう。

私は、まだ痛む頭をムリヤリ叩き起こした。


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