青の破軍

5


「あっ、アトラ!」

「アイリン!」

「クッキー、クラッカまで! なにしてるの?」


外を歩いていると、アトラとビスケットの双子の妹、クッキー、クラッカ姉妹に会った。

三人ともナイフを持ったり、野菜とにらめっこをしている。

アトラはCGSが取引をしている、雑貨屋さんで働いている小さい女の子だ。CGSへ商品を運んだりしては、子供たちと話をしたり、時々温かいご飯を作ってくれたりしてる。

あと昔、ミカちゃんとなんかあったらしくって、彼にほのかな恋心も抱いている。アトラはいい子だから、なんとかふたりをくっつけさせたいんだけどねえ。当の本人が「恋愛お断りですよ〜」って顔してるから。

私が声をかけると、クッキーとクラッカーがちょこちょことやってきた。


「今日の夜ご飯作るの!」

「私たちとアトラと、3人で作るの!」


クッキーとクラッカは、ぷにぷにした頬を真っ赤にしながら喋った。

そのはしゃぎようの可愛さったら、もう!


「へえー! じゃあ、今日はおかわりしちゃおっかなあ」

「駄目だよー、アイリンはおかわりしちゃ」

「女の子が食べ過ぎると、太ってもてなくなっちゃうよ!」

「あっはっはっはっは! ませやがって」


こんな幼児にそんなこと言われちゃあたまんないなあ。それに、私は太ってなくてももててない……あれ? なんか自分でいってむなしくなってきた。


「アイリンも一緒にご飯つくる?」

「んー……やることあるから、いいや。ごめんね」

「ううん、私たちだけでもなんとかなるから。みんな忙しいよね」


アトラは控えめに笑った。


「でも、アイリンいなくてよかったかも……」

「だって私たちより切るの下手だもん!」

「あはははははは」


ごめん、これ以上私の女子力のなさを明かさないで。涙出てくるから。

料理のすべてをまいまざーと冷凍食品で済ませてきたことを、今さらになってとても後悔した。やっぱり、料理をいくつか覚えるべきかなあ……。

これ以上傷口をえぐられないよう、挨拶だけしてその場を立ち去った。

全く子供は無垢な顔して爆弾落とすから油断も隙もない。


私はHi-νガンダムの所へ来た。


まだ気分はよくなかったし、みんなの手伝いをする気には慣れなかった。一番落ち着ける所は、結局ここなんだ。

相棒の足に抱きついて、大きく息を吸い、吐く。火薬とサビの臭いがする。所々傷ができているし、完成していても、ボロパーツを使ってる所も多い。

私とおんなじ、と思って笑った。


「で? いつまでかくれんぼをする気ですか? お嬢さん」


私は後ろを振り返った。するとしばらくして、物陰からクーデリアさんの姿がひょっこり現れた。


「……よく、わかりましたね。一度もこちらを見てなかったでしょう?」


私は「まあね」とにっこり笑った。

お嬢さんの気配がしたから、わざわざ扉を閉めなかったんだ。1軍のみなさんにに見つかると面倒だから、またすぐに閉めたけど。

お嬢さんは申し訳なさそうにしながらこっちに来た。すぐに、大きくて真っ白なMSに目がいく。


「きれいなMSですね。これは?」

「Hi-νガンダム。私の相棒よ」


お嬢さんはびっくりして私を見た。


「あなた、パイロットでしたの!?」

「うん」

「でも、阿頼耶識は……」とお嬢さんが言ってきたので、私はぺたぺたな背中を見せた。すると今度は今度で「阿頼耶識も着けないで、こんなMSを動かすのですか?」と驚かれた。

触ってもいいかと聞かれたので、私は二つ返事でOKした。お嬢さんはまるで、始めてで犬を触る幼児みたいに、恐る恐るガンダムに触れる。


「固い……。それに、思ったよりあちこちに傷があるんですね」

「この子との付き合いもそう短くないからね」


それに、パーツだって安物じゃないし、このくらいの傷でホイホイ部品を変えられないもん。


「アイリン、あの、私……」

「革命の……」

「え?」

「『革命のことを知らないんだな。革命はいつもインテリがはじめるんだ。夢みたいな目標を持ってやるから、いつも過激なことしかやらない!』」


お嬢さんの顔はさっと血の気が引いた。

信じられない、とでも言いたげな目で私を見る。


「アムロ・レイって人の台詞。知ってる?」

「いえ。あの……」

「でも、あなたはそうならないようにここに来たんでしょ?」

「……」

「ならそれを貫き通さないと。殺した人間も殺された人間も、そのくらいの成果が出れば報われるでしょう」


お嬢さんの理由もわからなくはない。でも、死んでいった人達は、そんなこと誰一人として知らない。

もし、お嬢さんがここで『知る』ことをやめたら、彼らは無駄死にをしたことになる。それは彼らにとって、なによりの冒涜だ。


「あの、アイリン」

「なに?」

「あなたは、悲しくはないのですか?」


お嬢さんは、申し訳なさそうにうつむいた。


「すみません、失礼ですよね。でも、あなたが涙ひとつ出してないことが、不思議でしょうがなくて……」

「悲しいけど、だからといって、枕を濡らしてる場合じゃないもの」


私は笑ってみせた。


「死すら糧にするものよ。戦いって」


お嬢さんは、悲しい顔をして口をぱくぱくさせたけど、結局なにも言わずに部屋から出ていってしまった。そういえばあの人、いつも落ち込んだり悩んだりしてるな。


「悲しむ……か」


強化したときから覚悟はしていた。今回よりもキツいことだってあった。

でも戦闘で死んでいった、たくさんの人の思念が、私というちっぽけな個体を押し潰そうとしたときの。

悲しさや、怒りや、恨みが、私の中に入ってくるあの感覚。


「あれだけ気持ち悪いのが入ってきたら、同情できないよ……」


かなしい。

でも、それ以上に……。

to be continued…….


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