青の破軍

3


「そろそろ、全員目が覚めたか」


部屋のざわめきを聞きながら、オルガが言った。

決戦の時だ。今、1軍は全員向こうの部屋にいる。

私たちが盛った薬入りスープが効いて眠ってるときに、全員ここまで運んで手を縛り付けておいたのだ。

全く……、大の大人を担いで運んで来るの、大変だったんだからね。


「アイリンってけっこう力あったんだな。俺よりつえーんじゃねーの?」

「私がノルバより肉弾戦強かったら、あんたのアイデンティティーなくなるわよ」

「ああ!?」

「うるせえそこ。行くぞ」


オルガがドアを開けた。

1軍の皆様は、腕を後ろに座り込んだり寝転がったりしていた。全員がこちらに注目する。何が起こっているのか、さっぱりわからないらしい。


「おはようございます。薬入りの飯の味はいかがでしたか?」


オルガの言葉に、全員が信じられないといった様子でざわついた。真っ先に出っ歯(ササイ)が参番組に向かって叫んだ。


「薬だぁ!?」


続いてハエダ(ちょび髭)が噛みつく。


「ガキがっ、なんのまねだ!」

「まあ、はっきりさせたいんですよ。誰がここの1番かってことを」

「はあ!?」

「ガキども! 貴様ら一体誰を相手にしてると……」

「ろくな指揮もせずこれだけの被害を出した、無能を、ですよ」


私はひゅう、と小さく口笛を吹いた。


「よく言う、オルガのやつ」


1番隊のリーダーであるハエダはうまく身動きが取れないのか、地面に這いつくばっている形をしている。

絶対に逆らってこないという自信からか、オルガの態度はいつもより高圧的だ。


「ふっ、ふざけんな!」


ハエダがオルガに向かって唾を吐いた。

オルガは、気に入らなかったのか、それとも見せつけか、思いっきりハエダの肩を蹴った。ぐうう、とハエダが低く唸った。


「わ、わかった!わかったから! とりあえずこいつを取れ。そしたら命だけは助けてやる」

「はあ? お前、状況わかってんのか? そのセリフを言えるのは、お前か俺か、どっちだ?」


ハエダは、憎らしそうに歯軋りをする。

どんなバカでも、どっちが立場が上なのか一目瞭然だ。全員それがわかっているから、なにもせずに苦い顔をしている。


「無能な指揮のせいで、死ななくてもいいはずの仲間が死んだ。その落とし前はきっちりつけてもらう」

「はっ?」


三日月が前に出た。ハエダに銃を突きつける。


「待て! 何を……!」


ぱん、ぱん。

乾いた音が二つ、鳴り響いた。

さっきまで吠えていたハエダは静かに倒れた。じわりじわりと、ゆっくり赤い水溜まりができてくる。


(ミカちゃんのやつ、やるぅ)


銃で殺すときは、一撃で仕留めたとしても、確実に仕留めるため用心してもう一発入れるものだ。

よく、ドラマや漫画であるように、頭を一撃、なんていうのは演出だ。

それだけでミカちゃんがどれだけクールなのかを思いしらされる。


「さて、これからCGSは俺たちのものだ。さあ選べ。俺たち宇宙ネズミの下で働き続けるか、それともここから出ていくか」

「こいつ! おいアイリン!」


ササイが私を見た。


「なにぼーっと突っ立つてんだ!さんざん可愛がってやったろうが! さっさとこいつらを……」

「三日月」


三日月は問答無用でササイを撃った。

ササイは全てを言い終わることなく、床に倒れた。


「好きで可愛がってもらったわけじゃない」


そんなこと言って、私が助けるとでも思ったのだろうか? あんな酷いことを平気でして? それでも慕われているとでも?

生憎、私はそんなかわいそうで間抜けな女じゃない。


「どっちも嫌ならこいつみたいに、ここで終わらせてやってもいいぞ」


正に下剋上だ。

1軍と参番組の立場が、たった今、逆転した。


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