青の破軍

7


結局、なんだかんだでユージンとシノに荷物運びを手伝ってもらっちゃった。

中身ばらして整理するのも手伝ってもらったけど、そのほとんどが衝動買いによるものだった。よく考えたら使わない飾り物とか、いつ使うかもわからない勝負服とか。

わけのわからないものを見つける度に、ユージンやシノに小言を言われてしまった。

ま、まあ、女の子は買い物してストレス発散するっていうから。目を瞑ってくだせえよ。たぶんこんなに大人買いするのは今回で最後だと思うから。たぶん……。

一応ほとんどのものを片付けたところで、みんなにお土産を配っていった。中身はピンキリだけど、ちゃんとシノやユージンとかにも買っておいたんだからね!


「オルガ、ただいま〜」

「おう、お疲れさん」


オルガは外で基地の壁を見ていた。そこにはライドを筆頭に何人かが壁に引っ付いていて、先程の赤いペンキを塗りたくっている。

何を描いているかは布で隠れてよくわからないけど、確かあそこは、でかでかと『CGS』って社名が書かれていたところだよね? 今はもうCGSじゃないから、最近は白いペンキでばってんが上塗りしてあったけど。


「これお土産ね」


私は、オルガに紙袋を手渡した。


「サンキュ。……ってなんだこれ」


ずっしりと思い紙袋を持って、オルガは怪訝な顔をする。がさがさと音をたてながら取り出されたものは、全20篇からなる、そこそこ分厚い本。

ちなみにタイトルは『よくわかる女心』。内容はもちろんそのまま。


「……俺、あんま字ぃ読めねえんだけど」

「学んで」


朝のこと、まだ根に持ってるんだからね。こいつ下手したらキスで子供が産まれるとか思い込んでそうだからな。……売春婦知ってる時点でそれはないか。


「あとオルガ、話があるんだけど」

「ちょっと待ってくれ。ようやく完成したみたいなんだ」

「オルガさーんっ、できましたよー」


いつのまにかペンキ塗りを手伝っていたらしい。タカキくんが遠くから叫ぶ声が聞こえた。


「おーう! じゃあ剥がしてくれー!」


オルガも負けじと叫んで返した。タカキは壁の上にいる何人かに指示を出した。すると基地の屋上から人が表れて、上から布を剥ぎ取った。


「へえ……!」


私は思わず目を見張った。

そこに書いてあったのは、あの忌々しい会社の名前でも、新しい団の名前でもない。

恐らく、鉄華団のロゴマークであろうものが描かれていたのだ。

赤一色に大きく描かれているそれは、団員の心を奪った。ひとり、またひとりと手を止め新しい自分の会社のマークを見つめる。


「ライド! なかなかいい出来じゃねえか!」


誇らしげな笑みを浮かべて、タカキくんと共にやって来たライドに、オルガが言った。

なるほどさっきライドが忙しいと言ったのはこういうことだったのか。

それにしても、確かに素晴らしい出来だ。ライドが絵を描くのが上手いのは知ってたけど、こうやってロゴマークまで作ると圧巻だな。これでお金を取ってもいいって思うくらい。それくらいすごくいいデザインだと思う。

オルガも気に入ったらしく、口元に笑みを浮かべながらそれをまじまじと見つめていた。

しばらくタカキくんやオルガたちとマークを見ていると、外からMWがやって来た。

MWには、操縦者はわかんないけど、上にビスケットやクーデリアお嬢さん、それにその側近? メイドさん? のフミタンさんが乗っていた。

珍しい組合せだな。どこに行ってたんだろう。

じっとMWを見ていると、タカキくんが説明してくれた。


「三日月さんたち、今日野菜の収穫に行ってたんですよ」


ああ、ミカちゃんが「さくらちゃん」って呼んでる、ビスケットの祖母のとこか。時々農業の手伝いをしてるとか言ってたっけ。

それでミカちゃんとビスケットならともかく、どうしてお嬢さん達まで?


「三日月さん! あれ、見てください!」


MWのコクピットが開くと、タンクトップ一枚のミカちゃんの姿が。鍛えぬかれた筋肉が、レバーを動かすたびに盛り上がる。

ミカちゃんたちはタカキくんに促されて、新しいロゴを見た。全員が息をのみ、ビスケットなんかはおお、と感動を口に出した。


「これが鉄華団のマークだ」

「団長に頼まれて俺が考えたんだぜ」


へへん、とライドが得意気に鼻を鳴らす。


「上手いもんだなあー、魚か?」


いつのまにか、ライドの隣にいたシノがあてはずれな事を言った。側にいたタカキくんとライドが呆れてがくんと肩を落とした。


「花だよ花!」

「花ァ? どう見たって魚だろ!」

「魚なんて鉄華団にカンケーねぇだろ!」

「はあ!? なんだとコノヤロー!」


シノとライドはロゴマークそっちのけで、んぎぎぎぎ、とお互い睨み合った。


「バーカ!」

「バーカ!」

「バァァァァーカッ!!」


まるでおうむ返しのように、ふたりでバカバカバカバカ。

子供の喧嘩かよ!あっ、二人とも子供か!


「ふたりともいい加減にしなよ。特にシノ」

「なんで特に俺なんだよ!?」


シノがさも不服そうに叫んだ。


「あんた年上でしょう? 年上ならもっとそれらしい態度を取りなさいよ」

「どーいう意味だよそれ!」

「落ち着けッてんの!」

「俺は落ち着いてるだろ!」

「いやどう見たって落ち着けてない」


そうやってムキになって叫ぶところがダメなんだと言おうとしたら、先に、さらに頭に血を上らせたシノに悪口を叩かれた。


「アイリンのバーカ! さっきチビ共に女らしくないって言われてたくせによ!」


かっちーん。

今、こいつ人が一番気にしてたことを言った!


「はあ!? 人のこと言えんの?そうやって人の弱味につけこむとか最低! 人でなし! 筋肉しかない奴! バカ! アホ! ハゲ!まゆげ!ド低脳! いつもいつもうるさいしデコ広いんだよ童貞! あとはえーとえーと」

「あの、もうやめてやれよアイリン。シノ涙目だぞ」


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