好きで好きでたまらない


 歯軋りをする。またやられた。

 せっかく昨夜から電柱の陰へ張り付いていたのに。いつの間にか転寝をしてしまい、目が覚めた時には目当てのものが無くなっていた。桜並木から白い花弁が降ってくる様を呆然と眺めてしまう。

 次の燃えるゴミの日は木曜日だ。まだ一度も手に入れられていないのに今回もチャンスを逃してしまった。

 欲しい。いけないことだとはわかっているのだが、羽島君が捨てたゴミをどうしても持ち帰りたい。その中身を、宝箱を開く子供のようにわくわくとしながら漁りたい。それなのに、絶対に犯人はあいつだ。

 いつも俺の邪魔をしてくる学ラン姿の多分、高校生。まだ幼さを残すその顔は妙に小奇麗でこんなことをするようには見えない――ああ俺も同じ穴の狢か。

 自分をストーカーだとは思いたくないのだが、第三者的立場より見てみたらきっとそうとしか考えられないだろう。けれど、止められない。

 同性を好きになった事なんてこの三十九年間一度も無かったんだ。まずは彼がどういう人間なのかをリサーチしてからアタックをしたいと考えることはそんなにおかしくは無いだろう。その方法がこんなものになってしまうのも仕方が無い、と思いたい。

 こうなったらとりあえずこのまま羽島君が家から出てくるその姿だけでも目にしよう……と思いつつも、腕時計で時刻を確認するとすでに九時。会社に遅刻してしまう。

 諦めのため息をついたその時、背後からふっ、と笑うような息遣いが聞こえてきた。これはもしかして、あの糞餓鬼か。

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