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ああ、夢でよかった。こっちが本当の現実。
朝、目を覚ましたら外は雨が降っていて。携帯電話を確認したら、康太からのメールなんて入っていなくて。履歴を見てもそこに彼の名前はない。
幼馴染だなんて、馬鹿な妄想をしていたからかな。康太と話をしてみたくて、でもどんな話をしてみたらいいのかわからなくて。挨拶くらいしか交わせなかったから……授業中はいつも、そんな妄想ばかりしていた。
夢の中ではどうやって帰ったっけ。
そうそう、確か康太の部活が終わるのを待っている鳥井さんにまた明日ねって挨拶をして、一人でしょんぼり帰ったんだった。晩御飯が、好きなハンバーグで……余計に胸が切なくなったな。
学校に行く支度をして家を出る。雨は一瞬降っただけのようで、外は晴れていた。
まだ濡れている道路を歩き、康太にどんな顔を向けようか悩んでいるうちに教室へ着いた。
自分の机まで行くと、そこには康太が座っていた。
「おはよ」
「うん、おはよう」
声が、喉に張り付いてしまったみたい。しわがれてしまって見っとも無い。
康太は携帯電話を手にしていた。
「メアドとか教えて」
と、言われて慌てる。
連絡先を交換している間も、そわそわしてたまらなかった。
「今日さ、部活あるけど……終わるの待てる?」
切れ長な二重まぶたが涼しげで、綺麗だなぁ。
頷いたら、その綺麗な顔がくしゃりと笑顔になった。
「じゃあ、昇降口で待ち合わせな」
去り際に軽く肩を叩かれて、もうそれだけで魂が天に昇ってしまいそうになる。
ホームルームが終わって、一時間目が始まって。休憩時間になってからやっと、康太の方を見ることができた。僕の、斜め前の席に座っている彼は友人らと談笑している。
そこに混ざった方がいいのかな。友達だよって、周囲にアピールしとかないとまずいんじゃあないのかな。
でも、足が動かない。だって、康太の考えなんてわからないもの。何で僕を好きになってくれたのかも謎。
僕が好きになった理由なんて簡単なもので。高校に入学しても部活はしないと決めていたのに、テニス部の勧誘がしつこくて、困り果てていたら康太が助けてくれたんだ。
その広い背中に守られて、すごく安心した。それから康太を目で追う時間がどんどん増えていって、ああ、これは恋をしたなってわかった。二年に上がって同じクラスになれたって知った時にはもう嬉しくて、中々眠れなかったなぁ。
授業は、蛇口から水が流れるように、滞りなく次々と終わった。
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