ああ、ほら。やっぱり夢だった。

 起きてみてわかった。窓の外で雀がちゅんちゅんと、憎らしいくらいに明るく鳴いている。

 馬鹿な僕。

 康太とは幼馴染なんだ。同じクラスなのは本当。康太がテニス部なのも本当。ただ、あまり話したことがないなんて嘘。

 枕元に置いていた携帯電話を手に取ると、ほら、康太からのメールが来ている。遅刻するぞ、さっさと外に出て来いなんて――やばい。確かに時刻は八時半を回っている。いくら学校が近かろうと、このままのんびりしていたら遅刻してしまう。

 慌てて支度をして外に出ると、そこには康太と、康太の彼女である鳥井さんが並んで立っていた。

「遅いぞ。お前が幼馴染じゃなけりゃあ、おいてくところだ」

 顔を顰めている康太の背中を鳥井さんが軽く叩いた。

「もう。そんなこと言わないの。ほら、学校行かないと本当に遅刻しちゃうよ?」

 三人並んで登校するのはこれで四度目だ。そろそろ僕は邪魔なのではないかと思うのに、鳥井さんが、幼馴染である僕たちに気を遣ってくれている。康太はきっと彼女と二人で登校したいだろうに……申し訳ないとは思うのだけれど、鳥井さんの気遣いに乗っかるしかない。

 だってずっと好きだったんだ。好きで、好きで。幼稚園で出会った頃から僕の目は、康太に釘付けられて離れない。

 でも、そんな風に親切にしてくれる鳥井さんを嫌いにもなれない。康太に今までできた彼女といえば、僕を邪険にするばかりで――あれ、本当にそうだったかな? 彼女らの顔が思い出せない。

 忘れようと思っていたからかな。受けた嫌がらせのひとつひとつを、思い出しては悔し涙して。

 教室の前に着いたら鳥井さんは、康太に手を振って、長い髪をなびかせながら隣の教室へ入っていった。隣のクラスでまだ助かったよ。もしも同じクラスだったらば、この二人が親しくしているシーンを四六時中見せられることになってしまって発狂しただろう。

 席に着くとすぐに朝のホームルームが始まった。ああ、眠たいな。夢の中はあんなに幸せで、本当に、今が辛い。

 好きだって言ってくれたのにな。嬉しかったのにな。

 なぁんて、シャーペンを転がしながら悔しく思うのだけれど、でも、仕方がない。夢と現実は違うのだ。

 違うのだ――……

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