上顎を舐めると、瞳先輩が身体を預けてきた。
これはきっと、このまま床に寝かせろというサインなのだろう。
たぶん。そうだよな? そうだと思うのだけれど。
唇の端の裏側を、掠めるようにして舐められた。じんっと痺れる熱が、下半身に集中してゆく。
獣のようだ。瞳先輩はとても、キスがうまい。
――俺以外とも経験をしたのだろうか。まさか、セックスもすでに済んでいる、とか。初めての俺と、過去の人を比べられたりしないだろうか。行為が終わって下手糞、と鼻で笑われたら流石に落ち込みそうだ。
にゅるりと舌が絡まった。凄い、気持ちがよくて――と、何故そこで唇を離すんですか。
「まだ押し倒さないのかてめぇは」
ああ、やはり床に寝かせるのは正解だったのか。迷っていて馬鹿を見た。
ため息をつかれてしまう。瞳先輩が、さらりとした動作で離れていった。
慌てて声をかける。
「すみません! 俺、セックス初めてなので、あの、その……」
瞳先輩の目が見開かれた。
「まじか。お前、モテそうなのになぁ。ヘタレだけど顔立ちは整っているし。優しげっていうのか? そんな感じにさぁ。髪型だって茶髪でウエーブさせてて、中々洒落てんのに何でだ」
褒められたっ!
頬が赤くなることが自分でもわかる。
「告白されたことがありませんし、好きになったのは市川先輩が始めてなので」
瞳先輩の唇が妖艶に吊り上がる。
「ん、じゃあ俺が初恋か」
何も言えなくなり、何度も頷く。
瞳先輩が頭を乱暴に、がしがしと掻いた。
「ったく仕方が無いなこの阿呆は。じゃあ俺がリードしてやるから」
と言い、学ランの上着を脱ぎ始め――カッターシャツのボタンが外されていって――睨まれたっ。
「お前も脱げ阿呆」
「す、すみません」
見とれている場合じゃあなかった。
慌てて学ランを脱ぎ捨てる。カッターシャツのボタンを弾き飛ばす勢いで外し、それも脱ぐ。ベルトを素早く外してズボンと一緒にパンツも足から引き抜いた。
全裸になって、先輩の前へと立つ。
……どうしてそんな、驚いたような表情を浮かべているのでしょうか。
「いや、いきなり全部脱ぐとは思わなかったわ」
「あ、え? あの、す、すみません手順とかよくわからなくてですね」
「そうじゃあなくて。お前には羞恥心ってもんが無いのか」
言われてみれば急に恥ずかしくなり、急いで股間を両手で覆う。
「ばーか。もう見たっつーの」
鼻で笑われた。ああ、どうして自分はこうも、格好がつかないのだろう。こうなったらせめて堂々と、瞳先輩の脱ぐ姿を見よう。
カッターシャツを脱いだその肌は、暗がりの中でもその滑らかさがわかった。腹筋が割れている。俺だって割れている。こうなる日のために毎晩腹筋を鍛えてきたんだ。
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