この世界、廻間の神、権力者の銀狼の了解も得ずに勝手に事を成してしまったルキは、みっちりと怒られていた。
そう、ルキがした事は禁忌に当たる行為だ。そのため銀狼にそれが反った。
「銀風と世界を越える能力は好きに使ってもいいと言ったが、こっちの能力は俺が許可を出さないかぎり使うなと言ったはずだ」
「ごめんなさい...」
仮の地に立ち、ルキは逃げられないように銀狼の銀風で縛されていた。
地味に痛い...動けば痛みを加えるタイプのものを使われているために、逃げればもっと酷い事になる。
「お前は余計な事をするな。次にやったらお前を消してやる」
そう言うと銀狼はルキを縛していた銀風を解いて、姿を銀色のオオカミへと戻して何処かへ行ってしまった。
ドサッと仮の地に倒れ込んだルキは、彼の姿を首から先を動かして探した。
「銀狼ッ...いかないで・・・」
彼を怒らせて、置いていかれるなんて...ルキには耐えられない。
いっそのこと独りになるくらいなら、一思いに世界から消してほしいと願う。
「銀狼...」
何故こんなにもまぶたが重いのだろう...。
ルキは涙を流しながら、意識を手放した。
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先ほどルキを置いて来た銀狼は、この廻間の片隅にある城に来ていた。
「おい、いるか?」
門が閉まっている事などお構いなしに綺麗に整えられた城の庭を通り、いろいろな種類の木々や花達を踏み散らかして...開いていたベランダから銀狼は城の中へと入る。
部屋の中には、ずらりとガラスケースの中に並ぶ人間サイズの人形。さまざまな形の物がある。
「いらっしゃいませ。ようこそHeart Doll本店へ」
まるでこの城に住むお姫様を思わせる女性が出迎えてくれた。彼女は銀狼の姿を認めると、微笑みながら答えた。
「あの人なら出掛けていていませんよ」
「何処に行った?俺は急ぐ」
何だか余裕の無い様子の銀狼。軽い殺気さえ感じ取れる。
まるで不思議なものを見るかのようにキョトンとした彼女は、どうしたらいいのか分からず部屋の奥にあるガラスケースの前まで行って扉を開けた。
「ゆなの手には余るお客様ね」
ガラスケースの中の人形が動き、喋る。
“ゆな”と呼んだ先ほどのお姫様のような彼女を下がらせて銀狼の前まで来た。
「何をお望みですか?」
「あの馬鹿が俺の役目を代わりやがった」
一見かみあっていない会話。だがもう必要な物は分かったと、彼女は彼に少し待つように言うと急いで部屋を出て行った。
少しすると彼女は小さな瓶を持って戻って来た。
「こちらです。お急ぎください」
銀狼は彼女から小さな瓶を受け取ると、両足に力を込めて走り去って行った。
先ほど彼のいた場所を見れば、床が大変な事になっている。それを見詰めながら彼女はため息をついた。
「ルキというあの少女、余程大切のようですね...これではあの人も報われません」
彼女はそう言うと自分の能力を使い、床を整えたのだった。
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