Heart Doll本店の主は門を抜け、廻間を歩いている。まるでここは自分の庭だというようにしっかりとした足どりである。
彼女は少しするとその場に立ち止まり、何かに耳をすませるように両目を閉じた。
「誰?この廻間に迷い込んだ強い意志を持つ魂...」
彼女のまわりに銀色の風が集まり、やがてそれはスカイブルーの色へと変わると空間で弾け飛んだ。キラキラと舞散る光は、この廻間に住まう銀狼にも劣らない。
「私はかえらないといけない。彼と共に世界を変えると約束したの...」
目の前には泣きじゃくる、何処かの世界、何処かの学校の制服を着た高校生くらいの少女がいた。少女の身体は透けている。
魂だけの存在の少女に、彼女が生前の姿をあたえているのだ。
「世界を変える約束...いいよ、私の能力を貸してあげる。それでもあなたの世界にかえる?」
不敵に笑う彼女の顔は、光希を思わせる。いかにも胡散臭そうな言い回しだと本人でさえ笑っている。
果してこの少女は何を選ぶだろうか。
「ひっ...いやッ、化物!!」
少女の顔は恐怖の色を浮かべた。少女は必死に腕を振り回して彼女に近寄るなと態度で示している。
そんな少女を笑うと、彼女は冷たい瞳で少女を見下して言った。
「廻間に来れてもそこまでの意志でしかないのか...1つ教えてあげる。この廻間に迷い込んだ時点であなたも私と等じ化物だ」
かなしそうに笑うと、彼女は再び風を集めてスカイブルーに変わる風を無数の牙にして少女へと攻撃した。
化物の魂をも切り裂くこの風の名を“風の牙”という。
「強い意志を持っていても、しょせん変えられない運命もある...」
今の少女から貰い泣きでもしただろうか...彼女の頬には涙が伝っている。
無表情で、瞳に色を無くしていても涙を流せるだけまだマシだろう。まだ、彼らから灯してもらった想いの炎は残っている。
「銀狼、たまには私も泣いていい?」
そう呟くと、彼の優しい風が彼女を包み込んだ。その中で彼女は声をころして泣いていた。
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