赤いジャケットに捕まった
多分、多くの人はそれを否定したと思う。
甘えるな、とか。信じてもらうには自分から歩み寄れ、とか。
そういうことを言ってた思う。
だけど私たちはそれを否定するし、問いかけることもしない。
分かり切った答えほどつまらないものはないし、価値もない。
大人を信じれないで
双子だけが全てで
冷めた目をした私たちは異端で
それを否定するつもないし、だからと言ってどうにかしようとも思わない。
分かっていないのは、誰か。
答えは、気付かないふりさえすれば真実にはならないのだ。
***
side.千尋
動かない私たちに、ブルードの手が伸びる。逃げる気も失せて私たちはそれを黙って見ていた。
捕まってどうなるのだろう。“天使の涙”について色々聞かれるんだろうか。
そんなもの、全然知らないのに。
「…千尋」
俯く私に真白の声が落ちる。大丈夫、大丈夫。私が護るから。お姉ちゃんだもん。しっかりしてるのは私だし、真白はずっと自由に生きていればいい。
不安な心を隠すように繋がれた真白の手を握り返すと、くい、と引っ張られる。そこで漸く俯いていた顔を上げると、すぐそばにいたブルードの体が逆光で見えなくなった。
「!」
「な、何だ!?」
眩しくて目を細めると、小さな車のシルエットが見えた。そしてそれがさっき無理やり乗せられたルパンたちの車だってことが分かる。
「よォ、昼間ぶりだな」
「ッテメェ、…ルパン!!」
私たちと少し距離を置いたブルードの間にルパンがすらりと身を滑らせた。赤い背中を見つめながら、よくこんな銃に囲まれた中に飛び込めるものだと思う。
すぐ近くに黄色の車が停まって、その中に五ェ門と次元の姿もある。二人ともクールな表情のままで全然焦りの色が見えない。
泥棒にとって、銃なんて日常的なものなのだろうか。
「コイツは俺たちが先に見つけた獲物だ!手を引いてもらおうか」
「ヌフフフ。なぁ〜に言っちゃってんの!そんな態度でいちゃあ女の子にも嫌われちまうぜ?」
「あぁ!?」
「レディには紳士に接しなくちゃ。ねぇ?」
「ああ、例えば無理やり誘拐するとか?」
「あと食い逃げに付き合わすとかね」
「…手厳しいのね」
同意を求めるように振り向いたルパンに事実を突き付ければがっくりと項垂れた。
何を期待したのか知らないけど、とりあえず紳士ではなかったと思う。
強制的が多かったもん。連行されたりとか。
そんな私たちの会話に、一発の銃声が割り込んだ。
パンッと短い音の後、ルパンの足元に黒い影が刻まれる。
初めて聞く銃声に、びくりと肩が震えた。
「テメェらこの状況分かってんのか!」
ついに切れたらしいブルードがそう叫ぶ。
この状況、というのはまさにこの状況で。
ルパンたち3人とブルードたちの10人以上の多勢。
そしてよく分からないけど巻き込まれてしまった私と真白。
どっちが優勢かだなんて、きっと小学生でもわかってしまう。
「そっちこそ。誰を敵に回したのか分かってんのか?」
「あ!?」
苛々とした表情のブルードと違って、ルパンは呆れるぐらい余裕の表情だ。
ポケットに手を突っ込んだまま飄々と笑ってる。
そりゃ、世界的に有名なのは分かる。
ルパンの名前を知らないものはきっといない。
だけど、だからと言って無敵なわけじゃないでしょう?
どうするのかと見守ってると、突然ぐいっと腕を引っ張られる。
目を後ろにやると、いつの間にか近くに来ていたらしい次元にまた無理やり車に乗せられた。
声を発する間もなく、車に体が沈んだ瞬間喫茶店の時のような赤い煙で車が包まれる。
ちらりと見えた次元は、口元を楽しげに歪ませ手には黒い銃を握っていた。
「天下のルパン三世様だぜ」
不覚にも気を失ってしまったらしい私の耳に、ルパンの不敵に微笑む姿が安易に想像できそうな、愉しげな声が届いた。