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消太さんが家に帰ってこないことは、たまにある。
だから特別淋しいなんて思ったり、夜1人で家にいるのが怖いなんて子供の様なことは思わない。病院から戻れば玄関先に飼い猫が座っていた。ゲージに戻し忘れたらしい。落ち着いているつもりでも、実際はそうでもなかったようだ。

能力としての個性の出現で奪われる命も増えたかもしれないが、救われる命も増えたように思う。実際のところどちらが多いのだろうか。そんなことをたまに思う。

結婚して3年。雄英で働き始めて2年。彼に出会って8年。アイドルを辞めて6年。
第二の人生が15年過ぎて、すでに今の人生の方が長くなった。もう15年も生きている。私を必要としてくれる人がいる。心配してくれる人がいる。慕ってくれる人がいる。信じてくれる人がいる。愛してくれる人がいる。前の私が持っていなかったものを、今の私は数えきれないほど持っている。
こんな時に思うのも間違っているけれど、幸せだなぁと思う。だから、それを壊そうとする人たちが許せない。雄英の門が破壊されたことも、今回の襲撃も、何かが起きている証拠だ。この先も何か悪いことが起こる。
以前、塚内さんが言っていた捜査協力に応えれば状況は変わるのだろうか。
あの時は消太さんが駄目だの一点張りだった。消太さんは、私がヒーローではなく一般人だから、そんな危険なことに首を突っ込む必要はないと言い切った。その時は、少しくらい力を貸してもいいのにと思っていたところがあるが、今は少し違う。あの時よりもずっとことを重く受け取るようになった。それだけ敵の凶悪化が進んでいる。彼らはプロなのだ、そこに一般人の私がほいほいと混ざっていいわけがない。

「もし、誰かに力を貸せと言われたら必ず俺に言え」と消太さんが言ったのは、彼自身の個性も個性だけでは相手を倒すことができないからだろう。彼の今の戦闘スタイルは、ここまでの努力と苦労の結果だ。あくまで彼の肉体は一般人と変わらない。あまり見たことはないが、鍛えていなければあの動きはできないはずだ。・・・敵を前にして私は無力すぎるのだ。消太さんは、それをひどく気にする。私の個性が人より先に何かに気づく可能性があるからもあるが、他にも理由があるのか、その手の話をするときはいつも以上に優しく触れられる。その表情にこちらがどこかせつなくなるのだ。

「・・・・・」

足元に擦り寄って来た猫を抱き上げれば、すこし不服そうにじっとこっちを見ていた。お腹が空いたのだろう。「ごめんごめん」と謝って、猫を降ろして餌の用意をした。

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