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明け方、いつもより少し早く目が覚めた。隣に寝ている新零が枕から外れて少し丸まって自分の胸の当たりに頭を置いていた。枕で寝ても大方、この形で寝ていることが多いため自然と抱きすくめていることもある。今日は自分が仰向けで起きたため、そうではなかった。体を起こしかけたところで、新零が自分の服の袖口を掴んでいることに気づいて、片手で体を支えた状態で止まった。

「・・・・・・」

たまにこれもある。無意識だろうが、ガキのように人の服を掴んで寝ている。いい年してとも思うが、相手が新零となれば話しは別だ。愛しさ余って顔が緩む。
最近は魘されることも少なくなり、穏やかな寝顔をしていることが多い。話を聞けば、昔から魘されることは多かったらしい。起きると夢の内容は覚えていないことが多く、今日の年月日と時間を確認すると安心するらしい。現実か夢か確かめるためだと言うことは、夢の内容は13歳より前のことなのだろう。一緒に暮らすようになってからは、俺の顔を見ると安心するらしいが、たまに帰らない時は同じようにするそうだ。

さて、どうしたものかと支えていた手で髪をかきあげてから、袖口を上げないようにしたまま隣に胡坐をかいた。布団を新零に被せて寝返りを打つのを待つ。この手をなんとなく引きはがせないのはいつものことだが、今日は時間があるためのんびりと構えることにした。

相変わらずの容姿だが、それでもこの距離で見れば歳をとっているのはわかる。そんなことを言えば怒られるだろうが、当然少女ではないのだ。2年後の引退を決めたころからは、メイクや衣装が大人っぽくなったが、もとから精神的には大人びているところがあったため、普段の様子はそれほど変わっていない。年齢の割には人への諦めが強く、同年齢の若者の興味とは少しずれた考えをしていたと思う。それでも、たまに見せる子供っぽさに裏があったとしても、それが自分の前だけだと気づいたときは、底知れぬ感情が湧いた。

新零が変なところで世間知らずで、ガキっぽいのは、本来ガキのころに感じるべきもの取り落としていたからだ。そういう家庭環境だったのだ。あまり聞いてほしくなさそうなので、根掘り葉掘り聞いたりはしていない。その必要もないとは思っていたが、当時の新聞を見れば、そこそこのことが書いてある。
小さなころからの父親からの暴力、DVを理由に離婚した母親が親権を持ちながら父親の元に新零を置いて行ったこと。13歳の時に父親の暴力が原因で意識不明の重体で病院に運ばれ、奇跡的に助かったこと。
よく、こんな可愛い娘を殴れたな・・・と思う。



「男親の方は、無個性だったの。私の個性は母親から来てる」
「なら名字も母親のか」
「うん。親権も一応母親にあるから・・・・」
「そうか」
「私ね、最初、自分の能力が個性だって気づかなかったの。皆同じものが見えてると思ってた。だから周りと話が食い違うことが不思議で仕方がなかったの。・・母親に、見えることを言ったら少し驚いた顔をしてたのを覚えてる。それから私に触らなくなったし、触らせてもくれなくなった」
「・・・・・」
「見られたくなかったんだよ。不倫とかそういうの」
「・・・・お前は、母親似なのか?」
「隔世遺伝でおばあちゃん似だよ」
「ご健在か?」
「写真でしか見たことないから。今生きてるかもわからない」
「・・・そうか」
「私の話し聞いて楽しい?ロクな話ないよ」
「楽しいは語弊があるが、お前のことを知りたいと思うのは自然なことだろ」
「・・・・・・消太さんって、真面目なのか、変わってるのかどっちなの?」
「・・・・・変わってるのは、そっちだろ」




ぼーっと昔の事を思い出していると、ごそごそと寝返りを打った新零が手を放した。
それを待っていたのに、少し残念に思った

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