08


「お前が着ると、何でも様になるな」
「消太さんも背が高いし鍛えてるから、ひげを少し整えて、背筋を良くすれば大丈夫だと思うけど」
「・・・・・」

一緒に出掛けると言っても近所への買い物ではなく、遊びに行くのだ。消太さんが嫌がらない程度にラフで良く見せる服を選んでくるのは難しい。何より首巻が問題ありだ。良く見せようと思うのなら外してほしいが、彼にそんなことは言えないし、言うつもりもない。常識人のはずの彼の中に容姿に関しては世間体と言う言葉はない。だから、自然と寒い時期に出かけることが多い。私もまだサングラスや帽子は被るようにしているし、お互いなんだかんだこそこそと出かけることになるのだ。

「消太さん、こっちも着てください」
「・・・まだやるのか」
「まだやります。ついでにスーツとかもウエスト大丈夫ですか?確認しなくていい?」
「体型は維持してる」
「少し太りしましたよね」
「・・・・・お前が食わせるからな」
「嫌ならゼリー取り上げます」
「・・・・・・」
「食わせるって言っても、たまの昼と夜じゃないですか」
「・・・・・・」
「顎使わないと、早いうちに入歯になりますよ」
「・・・・・・」
「やっぱり、こっちが好きだなぁ」
「新零」
「何ですか?」
「別に、お前が着ろって言うなら何でも着る」
「・・・・・本当ですか」
「あぁ・・俺はそういうのできないからな。お前が選んだものを着るだけなら別にいい」
「じゃぁ、これ着てください。あと、これと、これ合わせて」
「・・・・お、」
「それから、これ見てください。おそろいのサングラスです」
「・・・・・・」
「おそろい」
「・・・・・わかったから」

渡したサングラスと対のものをかけて、顔をあげれば、しばらくじっとこっちを見てから、少し顔を逸らしてサングラスをかけてくれた。なんだかんだ、それくらい1時間くらい消太さんを着せ替え人形にした。珍しく付き合ってくれる彼に感謝しつつも明日着てもらう服を決めれば、「もう寝る」と言ってベッドに逃げられた。

「おやすみなさい」と声をかけても返事はなかった。今日は自分のベッドで寝よう。一緒に寝るときは消太さんのベッドで寝るが、別々に寝ることもある。リビングに戻って寝る支度をしていると、そろっと部屋から出来てた消太さんに驚いて変な声が出た。

「寝ろ」
「うん・・今、寝る支度してる」
「・・・早くしろ」
「先に寝てて」
「・・・・」
「何?」
「こっちで寝ろよ」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・うん」

のっそりと部屋に戻った消太さんを目で追っていたが、慌てて支度を整えて彼の部屋に向かった。寝息の聞こえる中、そっと彼が空けて置いたスペースに転がった。なぜわかったか、わからないが、そんなに私の添い寝を希望だとは思わなかった。

「・・・・・」

この人は、人の命も責任も背負いすぎではないのだろうか、そう思う時がある。
ヒーローでありながら、教師であり、私と結婚までして・・・私のことを捨ててくれてもいいよなんて言ったら彼は怒るのだろう。

「また、ごちゃごちゃ考えてるのか?時間の無駄だ、やめろ」
「・・・起きてたの?」
「まぁな」
「・・・・・」
「俺に気を遣うな」
「・・・・・」
「俺がお前にいてほしいんだから、それでいいだろ」
「・・・・・・ありがと、消太さん」
「わかったら、さっさと寝ろ」
「うん・・・明日、楽しみだね」
「そうだな」

少し笑った息が聞こえた



自分の縁を見ることができないのは、一番の欠点だと思う。これだけ人の本当の感情を見ていたら、相手が自分に見せる顔を疑わなければならない。それがたとえ消太さんだとしても。彼がいくら触らせてくれも、私は言葉と態度を貰わないと不安になる。彼に限ってなんてことはない。どれだけ信用していても、きっと一生だ。それだけ人の感情は変わりやすい。

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