07



「こっちに泊まるだろ?」
「そうですね。ホテルでもいいんですけど、消太さんの家、何もないし」
「悪かったな」
「色々持って行かないといけないし」
「嫌なら別にホテルでもいいが、1人で平気なのか?」
「・・・何がですか?」
「あんな事件の後に1人で怖くないのか?」
「怖いですよ。窓ガラスが突然割れて心臓止まるかと思ったんですから!私だって人です」
「じゃぁ、うちに泊まればいいだろ。いるもんあるなら持っていけばいい。わざわざ1人にならなくても」
「・・・・・・・」
「どうかしたのか?驚いた顔して」
「い、いえ。私の中に、その選択肢がなかったので」
「?」
「昔から、怖い時は1人で布団にもぐってたから」
「1人で暗いところにこもったら余計怖いだろ」
「だって・・・・・それしか」
「・・・・・・」
「ごめんなさい。何でもないです。消太さんのところにお世話になりま・・・・・」
「新零」
「・・ごめんなさい・・なんで、」

突然泣き始めた新零に、すぐ言葉がでなかった。こんな風に泣くのは初めて見た。本人も驚いているのか、ぽろぽろと零れる涙を必死に拭おうとしている。

「謝らなくていい、目もこするな。腫れるだろうが」
「でも・・・」
「昔の話しだろ」
「・・・・・・」
「今は、そうじゃない」
「・・・うん」
「この際、同棲でもするか」
「・・・・・っ、同棲、ですか?」
「お前の家、ぐちゃぐちゃになったしな」
「・・・・・・」
「会いに行く必要もなくなるし、合理的だろ?」
「・・・合理的ですね」
「なら、決まりだな」

同棲ということに興味があるのか、涙を溜めつつも嬉しそうにしている。現状俺の家には、ほとんど物がないため、彼女の家にある物くらいは入るだろう。新零の家もガラクタ(ガラクタというと怒る)を除けば、大した物はない。

帰り途中で彼女のマンションにより、最低限必要なものをキャリーに詰めるのを待った。雪は明日、弔うことにして、箱に入れたまま持って行くことにした。うちにも猫がいるので少しは淋しさも紛れるかもしれない。
彼女のキャリーケースを持ちながら、ふと気になったことを聞けば、普通に答えが返ってきた。

「私が静岡に来たのは、雄英高校で働きたいからです」
「・・・・・」
「消太さんと同じ職場で働きたかったわけじゃないですよ」
「・・・・・わかってる。わざわざ言うな」
「恥ずかしかったんですか」
「悪いか」
「ちょっと引きました」
「・・・・・」

冗談かと思って横を見ればいたって真面目な顔の新零が、こちらを向いていた。出会って4年目、途切れたとはいえ付き合って2年目、まだまだ彼女の知らない部分がある。どこか淡泊で、あっさりと潔い部分は少し気を付けないと、同じことが起きかねない。去る者は拒まずか・・・

「でも、消太さんがいるから、その選択肢が見えたのも事実です」
「・・・・・」
「好きですよ、消太さん」

そうやって、さらっと好きだとか愛してると言うのは、決まって目が合っていない時だ。歩いている足を止めれば、彼女も歩くのをやめて、どうしたのかとこちらを見上げた。

「お前が無事で良かったよ」
「・・・・・」
「新零」
「?」
「これから先、可能な限り俺にお前のことを護らせてほしい」
「・・・・」
「だから、理由がどうであれ、死んでもいいなんて言うな」
「・・・・」
「もっと命を大事にしろ。お前が死んだら悲しむやつがいることを忘れるな」
「・・・・」
「愛してる、新零」
「・・・・・・・今日は、何なんですか」
「?」
「色々なことありすぎて、」
「・・・・」
「どうしていいか、わからな・・・っい」
「どうもしなくていい、目でもつぶっとけ」
「・・・・っ」

目をつぶった新零の目元から溜まっていた涙が流れるのを見届けてから自分も目を閉じた



彼女と籍を入れたのは、その翌年になる



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