06



「消太さん、だめ・・半分、私」
「いいって言ってんだろ。今日は、俺が出す」
「いや」

ぎゅううっと腕にしがみついて駄々をこねる新零に、店員も苦笑いをしている。
自分の酒の上限もわからずに飲んだ結果がこれだろう・・・まぁ、そうやって上限を知っていくものなんだろうが。・・・こうやって会うのが2度目の男に向ける顔じゃない。・・・ただでさえ、告白紛いの言動に終始気が休まらないでいる俺に追い打ちをかけるのはやめてほしい。

店を出たところで、「ごちそうさまです」と申し訳なさげに言うのは、彼女の中に“助けてもらったお礼”というのがまだ含まれているのだろうか?そうだとしたら、もう忘れてほしいとさえ思う。この前の話を聞いている限りでは、それはありえないことなのだろうが今となっては複雑なところだ。ヒーローとしての俺と、ただの自分と、切っても切り離せるわけではないが、あの時助けなかった自分には今の時間はなかったのだろう。

「・・・消太さん」
「なんだ?」
「私のことアイドルだと思ってますか?」
「まぁな。背徳感がないわけじゃない」
「・・・・消太さん、俺なんかがって思ってませんか?」
「・・・・・・」
「もし思ってたら、どうしたら、私」
「・・・・・・」
「消太さんみたいな人、私、初めてで、嬉しくて、助けてくれたからとか、イレイザーヘッドだからじゃなくて、相澤消太さんがいいって思ってて。だから、消太さんが、藍川ニーナだからじゃなくて、愛繋新零だから会ってくれてるとしたら、嬉しくて・・・それで」

酔ってるせいか、どんどん目じりに涙がたまっていくのが見て取れると同時に、いっぱいいっぱいになりながら必死に言葉で伝えようとする姿が、小さな子供のようで庇護欲を掻き立てられる。俺なんかがっと思ってるのと一緒で、こいつはこいつで自分なんかがと思っているのだろうか?彼女の中じゃ藍川と愛繋は別の人物なのだろう。俺とは違って、切って切り離せるのだろう・・・。
それで、それで・・・となかなか次の言葉が出ないのは酔いが回っているからなのか、適切な言葉が見つからないのか、少し待ってみたものの口を閉じてしまったので、入れ替わりで口を開くことにした。

「正直、まだ夢かなんかじゃないかと思ってるが」
「夢じゃありません」

何を焦ったのか、俺の頬を抓ってきた。痛くはないが、ムキになった新零が子供のようで思わず笑ってしまった。俺も相当酔いが回ってきたのだろう、なんだか楽しい気分で体以外もポカポカと暖かくなってきた。もっと話がしたいところだが、大通りでタクシーに詰め込んでしまおう。頬に残っている手を離させ、そのまま握って「そんなことはわかってる」と言ってやった。

「引っ越す前に、また会いたいんだが、都合はつくか?」
「!・・・・・つけます」
「わかった。じゃぁ、次は俺が店を選ぶ」
「じゃぁ、次は私が払う」
「させねぇよ」
「男が女を驕る時代は終わったんです」
「へいへい」
「絶対次は」
「わかったから。声がでけぇ、TPOを弁えろ」
「急に教師ぶりましたね」
「うるせぇ」
「思い返せば、最初の時も未成年がどうのこうの言われましたね」
「そうだな」
「・・・・じゃぁ、次、楽しみにしてます。また電話してくださいね」
「おう・・・タクシー乗るまで見送る」
「ありがとうございます」

こんな風に屈託なく笑いかけられれば、心のうちに帰したくないという気持ちが湧いてしまうのが男というものなのだろう。

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