12

その夜、夢を見た

あぁ、なんて醜い
愚かだ
無様だ
見ないで
見ないで・・・


これは、もしかしたら




「もう、逃がしませんよ・・・消えてください」

酷く冷たい声に、ぞくりとする
すでに体にできた数か所の傷から痛みが伝わってくる

荒い妖の呼吸
遠のく意識のなか
伸ばしかけた手は、妖の意思によって阻まれ

暗闇の中で
助けを求める
声が響いた




あまりの悲痛な感情の束に頭がおかしくなりそうだ

・・・・!

「・・・・・・・・・・・うっ!!」

「夏目」

「・・・・・今」

「また、妖に感化されたか」

「今、手に血が・・・・」

気持ちの悪さに口を押えた
なんだったんだ
今のは

暗闇に呑まれる瞬間の恐ろしさに背筋がぞっとする

これは、明翠さんの記憶・・・
いや、それを全部見て聞いて来た妖の記憶か?


吐き気を和らげるために
そっと窓を開けた
外の空気を吸って、息を整える

さて、寝ようと窓に手をかけた

「・・・わっ!!」

『・・・・・・・・』

閉まらないと思えば、反対側から
あの妖がそれを押さえつけていた

「お前、何をしに」

『・・・・・・最後』

「・・・・・」

『・・・・・・・・少し、思い出した』

「・・・明翠さん」

『・・・人だった、椿明翠という人だった。・・・・・的場静司、知ってる?』

「はい」

『あの人も私も、祓い人』

「そうです」

『・・・・・良かった、当たってた』

「今、明翠さんを助ける方法を考えています。だから、その記憶を忘れないでください」

『・・・・・たす・・・ける?』

「はい、まだきっとなにか方法があるはずなんです」

『・・・・・・・・・・私、生きてる?』

「少なくとも、おれはそう思ってます」

『・・・・・・・・・・・・的場、私、気づいてなかった』

「・・・・・・」

『・・・・・・・・』

「生きてます」

『・・・・・・・夏目?』

「・・・どこで名前を」

『あの猫、呼んでた』

「あぁ、なるほど・・・」

『思い出した、良かった、ありがとう・・・夏目』

「何を言ってるんですか!もう会えないみたいな」

『最後、もう近い・・・闇が来る、これで、最期』

「・・・・・・・・っ」

『もし、会うなら・・・・・』

「それは、自分で直接言ってください」

彼女はすべてを思い出したわけじゃない
断片的に自分が誰であるか
傍に誰がいたのか
何をしていたのか、
先生の言っていた情報はこれで足りるだろうか
なんとかして妖を引き離せれば

『・・・・・・会いたくない』

「・・・・・・・・」

『“小僧、私を祓うつもりか?お前ごときが?”』

「・・・明翠さんは、どうした」

『“沈めてやった”』

「・・・・・・!」

『“あれは、力がある。もう少しで、手に入る”』

「っ・・待てっ!!・・先生、追うぞっ!!」

「乗れ夏目っ!!」




それから、先生にも協力してもらって探したにも関わらず
あの妖は、見つからずに朝になってしまった

学校を休んで、塔子さんたちに心配をかけるわけにもいかない

「先生、おれが学校に行っている間も探してくれないか」

「まったく、妖使いの荒いやつだ」

「ありがとう、先生」



目次
ALICE+