だって、せっかく力があるのよ?
それを使わないなんて、もったいない

妖なんていなければいいのにと何度思ったかわからない
幼馴染を傷つけたのも
母を殺したのも
みんな妖じゃない

妖が嫌い

本当にいなければいいのに


ずっとそう思ってた


「明翠!」

『雪!!・・・あぁあ、雪暖かい』

「私で勝手に暖を取るな!!」

『いいでしょう?暖かいんだもの、それに毛並もいいし』

「・・・・・・」

『不服そうね、どうかしたの?』

「見るたびに、傷だらけだと思っただけだ」

『練習あるのみだもの、仕方ないじゃない・・・中学のころよりはだいぶ減ったわ』

「全部私が、呑みこめばいいだろう?」

『それじゃぁ、だめよ。私の力にならない』

「だから、明翠が力を持つ必要なんてないって言ってんだよ」

『なら、雪が居ない時はどうしろっていうのよ』

「ずっと連れていればいいだろう?」

『・・・・うーん、それはちょっと。』

「・・・・・・・・」


雪と出会って3年が経った
特に契約もしていない

『今日で、雪にあって3年目ね』

「ついこの前だな」

『雪にとっては、そうでしょうけど。私にとっては、もう3年よ』

「・・・人の一生は短いからな」

『そうね・・・・ねぇ、雪、本当にいいの?』

「お前は、毎年言うんだな」

『だって、私、見境なく祓ってたんだよ』

「・・・・・・」

『雪のことも祓おうとした。陣に入れて苦しめたのよ?』

「気にしていないって言ったはずだろ。消えかけた私を助けたのはお前だ」

『それでも』

「そりゃぁ、苦しかったさ。だが、祓わなかった」

『・・・・・・・』

「なら、それでいい。恩は、ちゃんと返す」

『素晴らしい忠犬ね』

「犬じゃない」

『犬よ、小さくだって、なれるし』

「・・・・・」

『ふふっ、拗ねないでよう』

「・・・・・・」

『本当、綺麗な黒。漆黒ね・・・』

最初に出会ったときは、すごく雪が降った次の日で
降り積もった雪の中で弱った黒狼を見つけたのだ

雪の中で見つけたから
雪なんて名前、嫌味の様に聞こえるんじゃないかと思って
止めようと思ったのだけど
“雪”でいいと、擦り寄って来たので
『なら、今日から雪ね!!』と、名前を付けてしまった
本当は、もっとかっこいい名前なのかなぁなんて、考えるけれど
また、危ない線を渡るのはよくないと思って聞けないでいる

「・・・何かあったのか?」

『・・・おじいちゃんが亡くなってから、おばあちゃんもね身体崩しちゃって
 仲が良かったからかな・・・もう長くないかもしれないって』

「人は弱いな」

『そうね』

「・・・・・・」

『人は、弱い・・・・驕れるほど強くない。身体も心も、ずっと弱い』

「・・・・・・」

『なのに、妖を使役して、祓ってしまう・・・・
違うわね、弱いから、自分たちより強いものが怖い、だから自分たちが上に立とうとする
・・・いつから自分が上にいるだなんて思ったのかしらね』

「やりすぎは認める。だが、人の領域を侵す妖がいるのも事実だ
 お前が全部間違ってるわけじゃぁない」

『でも、妖の領域を脅かす人もいるわ。祓い人も見えない人たちも』

「それをどうこう言い始めたらきりがないだろう?」

『昔は、共存できていたのかしらね』

「さぁな。私は人と関わらなかったから、知らないな」

『雪って妖の中では、若い方なの?』

「ああ」

『そうなんだ・・・』

だからといって
雪のような妖ばかりではない

雪と出会って、考え方は少しだけ変わったけれど
人を襲う妖がいるのは事実
人が被害者なのか加害者なのかわからないけれど

自分も人の子だ
結局、人間の味方をしてしまう
自分の大事なものが壊れるのは見たくない
もう何も奪わないで欲しい


「明姉、買い物付き合って!!」

『えー・・・寒いから嫌』

「何言ってるの、さっきまで雪と戯れてたじゃん」

『それとこれとは、別の話・・・・何買うの?』

「何って、来週バレンタインだから、材料買いに行こうと思って」

『あぁ、それで』

「誰かいないの、渡す人」

『いるけど』

「ほら、行くよ」

『・・・・はーい。』

「ねぇ、渡すって的場さん?」

『うん?柚晴と絵梨と華蓮とお兄ちゃんと、お父さん?』

「今年も、渡さないの?」

『・・・そういう、彩季は、誰に渡すのよ』

「・・・・・・・・・」

『何々、好きな人でもできたの?』

「いいでしょ、誰でも!!」

『青春だねぇ』

「明姉は、年寄りくさい」

『1つしか違わないのに』

自分とあまり背の変わらない妹は、
現代人らしく高校生活を送っているようで何よりだなぁと思う
私も、そういう生き方も選べたんだろうかと少しだけ思う

「明姉は、今年何作るの?」

『え・・・うーん、チョコレートケーキかなぁ。去年チーズケーキだったし』

「・・・さすがですな」

『去年、マカロン作ってた彩季ちゃんには、敵いませんよ
 今年は、何作るの?』

「無難にマドレーヌかなぁって」

『私の分も、よろしく』

「余ったらね」

一番近くのスーパーには、洒落たものなんて売っていないので
凝ったものを作るのは少し難しい
ラッピング用品も必要になるので、少し離れたところまで出向いた

母が亡くなってからは、祖母に料理を習って
3人で食事担当を回していた
だから、姉妹そろって、それなりの物は作れる
まぁ、現代っ子な妹の方が、凝ったものを上手く作るのだけれど・・・

同じ材料の物は、妹が買いに行ったので
どのチョコレートを使うか、棚の前で悩む

カカオ率・・・
甘く作るなら、ミルクチョコレートを溶かせばいいし
・・・・・・?

『・・・・・・・』

男の人は、甘いのが苦手なんて聞いたことがあるけれど
我が家の男性陣はみんな甘い物好きだし・・・



『・・・・・たまには』

少し苦めに作ってみようか、なんてどうして思ったんだ

「明姉、終わった?」

『え、あ、甘いのと苦いのどっちがいい?』

「・・・・・じゃぁ、苦いの」

『じゃぁそうしよう。・・・って、何笑ってるのよ』

「えー、なんでそう思ったのかなぁって思っただけ」

にやにやしてくる妹を牽制しながらレジまで向かった
少しだけ、店の外が気になる

『見えてる?』

「見えてるよ」

『・・・・・・・そう』

店の外にいる妖が少しだけ不気味で何事もないといいのだけれど
しかし、妹のスルースキルの磨かれっぷりに驚かされる

「明姉、支払支払」

『あ、うん・・・って、何、私が全部払うの?』

「だって、お姉ちゃん稼ぎあるんだから」

それで、私を誘ったのか・・・
確かに妖祓いで、いくらかの収入はあるのだけれど

「明姉は、気にしすぎなんだよ。
あんなの見えないふりすれば手を出して来たりしないのに」

『・・・でも』

「ほら、そうやって見るから向こうも気づくんだって」

『・・・・・』

「もっと手を抜けばいいのに、真面目すぎ」

『彩季、適当なんて許されないわ』

「・・・はいはい」

『ねぇ、もう少し上の術を覚えない?』

「嫌」

『お父さんも心配してる・・・いくら護身術を覚えてても』

「・・・・・」

『・・・・・・』

「ほら、帰ろうよ」

『うん』

あの妖は、あそこで何をしていたのだろう
気になるけれど、先に歩いて行く妹をほっておくわけにもいかず
後ろ髪を引かれつつ店を後にした

家の前の階段を上がる妹を見送ってから
後ろを振り返った
あの気配を、彩季は感じつつ歩いたのだろうか
そうだとしたら、かなりの大物だ

『それで、何か用事?』

「・・・・・・・・」

『だんまりなら、祓っちゃうわよ』

「主様の献上品にする」

『そう、残念、さよなら』


私は、すごく臆病者だ
反抗する力がないことが怖い

動じない妹を少しだけ羨ましいと思う



あああ・・・なんか、前に柚晴に借りた少女漫画のような展開になってしまった
人の告白現場に居合わせるなんて、本当に空気が読めない

別に隠れる必要なんてないのに
私は、ただ下校するだけで
これから、ヴァイオリンのレッスンで

「何してるんです?こんなところで」

『・・・・・』

「妖でもいましたか?」

『・・・・・・・』

「別に、見られて困るものでもない」

『別に的場のために隠れたわけじゃないわ』

「あぁ、今日はレッスンの日か」

『何か、用事だった?』

「・・・いや」

『あ、そうだった』

「?」

『これ、作ったからあげる』

「・・・・・・」

『食べるでしょう?』

「・・・・・・・」

『?』

「・・・珍しい」

『私の作ったお菓子、食べた事あるでしょう?何言ってるのよ』

「今日、貰ったのは初めてだなと」

『・・・いらないなら、私が食べる』

「いや、ありがとうございます。明翠」

『・・・・・・・うん』

「ラッピングがされてるのを貰うのは初めてだ」

『ちゃんと頭数入れて作ったんだから、当たり前よ』

「・・・・・・・・え」

『私、何か変なこと言った?』

「・・・・・・・」

ため息を吐く的場に文句をいいつつ
途中まで一緒に帰った

小学校の時から週1で通っているヴァイオリンのレッスンも
高校2年で終わりにするつもりでいる
父は、大学に行くよう勧めて来るけれど
あまり行く気にはなれなかった
特に勉強したいこともない、妖について学べるのなら別だけれど
それなら、本格的に祓い人として仕事をした方がいい










あぁ、そうか
今日は、そういう日だったか・・・と
興味のない告白を聞き流した

それを受け取る義理もない


「・・・・・・・・」

綺麗にラッピングされたそれを開けながら思う
毎年、余ったから、失敗したからと貰ってはいたが
当日に、整った形で貰ったのは初めてだったなと
改めて思う

いつもより少し苦めの味に
違和感を覚えつつ
お返しは何がいいかと考える
妖・・・なんて、思いついたけれど
雪がいる明翠には必要ないだろう

無難にお菓子がいいか・・・

ケーキいや、シュークリームだな



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