「よく、動けましたね」

『・・・・そうだね。ちょっと体がふわふわしてる』

寝たきり状態だったにも関わらず
体を起こして、外へ出て行ったのだ

「無理をしないでください」

『・・・・・』

「?」

先ほど新零が寝ていた部屋まで連れ戻し
最低限聞いておかなければならないことを聞いた
本来なら、もっと落ち着いた状態で聞くべきことではあるが
彼女が生きて戻って来たことは、的場に集っている祓い人の間に
あっという間に広まったのだ
ある程度、上の人間のとして説明をしておかなければならない
時間が経つほど、話がこじれることを防ぐためには
仕方がない

彼女の話しに耳を傾ける
他人事の様な客観的な物言いに
的場静司にではなく
的場の当主に話しているのだとわかる
話している、というよりも
報告というのが正しいのかもしれない


「・・・・・・・・・・・」

概ね記憶が残っている
喰われる前の記憶は、そのまま
喰われた後の記憶も、ほぼ残っている
その動きと感情の関係は、複雑で
彼女の意識とは別に妖の体は動くものの
無意識に動きに彼女の意思が反映される
その強さも色々で、一概には言えない

喰われている間は、記憶が薄れて行き
自分が誰であることも喰われる前の記憶も
ほとんど覚えていなかった

妖の目を通して見た物、体感したものを
全て明翠自身も受けていた

「・・・なら、4年前に私に近づいたのは、明翠の意思だったんですか?」

『・・・・・・・うん』

視線が下がる

『あの時は、記憶も動作も、全部リンクしてたの
 喰われて時間も経ってなかったから』

「・・・・・痛かったですか?」

『うん。そこは、さすが的場というところですね。焼ける感じに』

「すみません」

『・・・・・・的場が謝るところじゃないわ。喰われた私の過失でしょう?』

「・・・・・・・」

『ねぇ、このことは、周りにはどう残ってるの?』

「世間的には、捜索願が出ているところです。
 こちら側は、明翠の力故に引き起こした惨事・・・というところですね」

『・・・・そう』

「私は、貴女の妹あたりが噛んでると踏んでますが・・・・本当のところどうなんです?」

『・・・・・私が原因ということにしておいて』

「・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・』

「何が起きたのか知ってるんですね」

『妖の記憶も残ってるもの、どうして狙われたのかだってわかる』

視線をずらして、息を吐く様子を眺める
話すつもりはないのだろう


「明翠は、これからどうしますか?」

『妖祓いとして・・・・やっていくつもり』

「この際、このまま的場に入りますか?」

『・・・いいの?』

「はい」

『・・・・・・やっぱり』

「無理にでも、うちに入れるつもりなので何を言っても無駄ですよ」

『なっ・・・どういう』

「どうせ、自分が的場にいたら邪魔になるとか、迷惑をかけるとか考えてるんでしょうけど
 ここを出て、行く当ても、何もないのに他の選択肢があるんですか?」

『・・・・・・それは』

「今の貴女は、危険因子でしかない。的場が預かることが最善だ」

『・・・・・・・・そう・・だね』

消えそうな声に、またいなくなってしまうのではないかという不安に駆られる

「今は、体調を整えることだけを考えなさい。
本調子になるまで、邸の外にはでないと約束してください」

小さくうなずいた
視線は外へと逃げる

「・・・わかるのか?」

『外に雪がいる、少し遠いけど』

「・・・・・・」

『目・・・・痛くない?』

「・・・・・・あぁ」

『・・・そっか』

「・・・・・・・」

『・・・・・私』

ちゃんと、人間なのかな

そう呟いて、ふっと意識を失った



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