〇2

「周一さん、明翠と話したんだって?」

「あぁ、少しだけな」

「どう?明翠かわいいでしょう?」

「・・・まぁ、確かに見た目は悪くなかったけど・・・じゃなくて、いきなりなんなんだ」

「おれの大事な幼馴染なので、虫は払っておこうと」

「誰が虫だ」

「違いましたか」

「はぁ・・・」

「明翠に何か言われました?」

「廃業した家は、どんな感じなんだって聞かれた。お前の幼馴染は、デリカシーってものはないのか?」

「不器用なだけですよ。周一さんに対しては、おそらくね。周りの大人たちに対しては意図的に、そうしているみたいだけど」

「的場!」と呼ばれた瞬間に、ふっと表情が柔らかくなり、振り返った静司の見た先に明翠がいた。「珍しいな」と聞こえたが、何がと聞く前に彼女が傍に来ていたので開きかけた口を閉じた。

「今日は、和装なの?」

『うん・・・親の挨拶の付き合いで』

静司も好きな女の前では、そういう顔をするのか・・・。付き合いは浅いが、なんとなく察するところがあり、お邪魔虫は退散するかと場所を変えようとすれば、静司が自分の方を振り返った。

「あれ、周一さん。どこ行くの?」

『周一さん、先日のご無礼、申し訳ありませんでした。母は他界していましたので、あくまでもご意見を聞きたかっただけなんです』

「いや、そのことはもういいよ。おれも、きつい言い方になってすまなかった」

前に会った時より、少しばかり様子が違うのは隣に幼馴染がいるからなのだろうか?おれと彼女が話しているのが気に入らないのか、少し不満そう静司がこちらに不敵に笑ってくる。お前が引き留めたんだろうがと言いたいが、おそらく彼女が詫びを入れるためにそうしたのだろう。

「明翠、冬真さんが呼んでる」

『え、あぁ・・・・わかった。じゃぁ、また明日』

「明日?」

「同じ学校なんです」

「そういうこと」

「明翠の禁術の話は聞きましたか?」

「あぁタクマさんから、少し・・・・静司と明翠は、どちらが力を持っているんだ?」

「妖力は間違いなく明翠の方が上です。生まれ持ったものもあるでしょうけど、妖の血を被った分の上乗せは僅かじゃない」

「おれは初めて彼女を見かけたとき、人か妖かわからなかった」

「・・・・においというのは取れないものなんです。明翠もかなり気を遣っているので薄くはなったけど、まぁまぁ力があれば感じ取れるくらいはまだ残っている」

「彼女にも色々あるんだな・・・・・静司は、あの子が好きなのか?」

「はい」

「即答か」

「ずっと一緒にいたら、惹かれずにはいられなかった・・・・・こんな話するの周一さんが初めてだ」

「おれも、そんなことを話すお前を見るとは思わなかった」

「あげませんよ」

「男の嫉妬はみっともないぞ」

「嫉妬じゃなくて、独占欲です」

「自分で言うなよ」

「それもそうだ。今のは忘れてください・・・あまり、おれが言ったことは広まらない方がいい」

「大家も大変だな」

また不敵に笑った静司と別れ場所を変わった。有益な情報はないだろうかと思っていたが、あの2人がそろっているせいか、噂話の内容は彼らに関してばかりでため息をついた。



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