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何度か会合に足を運ぶようになって初めて見かけた白いワンピースの少女に目がとまった
人だろうか?自分と同じくらいの歳のように思うが、人と言い切れない雰囲気に疑問を持ってしまう

「周一くん、どうかしたのかい?」

「え、あ、はい」

「あぁ、明翠ちゃんか」

自分が見ていた方向へ目を向けたタクマさんが、察したように話を続けた

「椿明翠。彼女もかなりの有名人だ・・まだ16歳だというのにね」

「16ですか・・・人間なんですね」

「人の子だよ。静司くんと同じ、着物の柄が見えるタイプだが、今のところはおそらく彼女の方がもっとよく見えているというのが周りの見解かな」

「的場静司よりもですか」

「あくまでも、周りの予想の話だ。それに、明翠ちゃんは静司くんとは幼馴染でね、許嫁なんじゃないかっていう噂もある」

「許嫁?!」

「噂とはいえ、ありえない話ではないだろう。昔から2人とも仲がいいからな」

あの静司と仲がいいというのは、どんな性格なんだろうか
さっきから見ていても周りへの態度は酷いものだ、その点は静司とは違うのかもしれない

「昔のこともあって周りから奇異の目で見られるせいか、少し威圧的なところがあるんだが。妖力、祓い人としての腕は、あの年じゃ群を抜いているし、並みの大人じゃ敵わないだろうな」

「彼女も、的場一門ですか?」

「いいや、椿はどこにも所属していない」

「昔のことっていうのはいったい」

「・・・彼女がずっと幼いころに家に伝わる禁術を使ってしまったらしいんだ。年端も行かない子供がそうしなければいけない状況に追い込まれたなんて、どんな状況だったんだろうなと考えてしまうよ。周りからの話じゃ偏見が多くて、詳細は知らないんだが」

「・・・・・・・」

「最近は減ったけど、少し前までは生傷が絶えなくてね。まったく、君といい明翠ちゃんといい、子供が首を突っ込むところじゃないというのに」

タクマさんは叱るように、そして心配するように彼女のことを話した
周囲から聞こえる声は、“妖の血を頭からかぶった娘”と忌み嫌う言葉が頻繁に聞こえた


「椿、明翠か・・・」

『私が何か?』

「え、いや」

『貴方が名取の?的場から少しだけ聞いたわ』

長い黒髪に白いワンピース、整った顔に小柄な背、人を見定めるような目、人を見下すような話し方
16歳にしては少し大人びているのは、こうして大人たちに囲まれているからなんだろうか

「名取周一」

『椿明翠です。以後お見知りおきを・・・。本当に名取の人なのね』

「よろしく・・・あぁ、そうだよ」

『・・・廃業した家って、どんな感じなんですか?』

「・・・は?!なんで、そんなことを」

『私の母方は、すでに廃業しているの。だから、もし私が訪ねたら迷惑なのかと思って、それに』

「そんなもの、母親に聞けばいいだろうが。おれは答えるつもりはない!大体、失礼だと思わないのか」

『・・・聞きたいことを聞いただけじゃない』

彼女の、どこか馬鹿にしたような言い方と表情が腹立たしくてその場を後にした
彼女の母親がすでに妖に襲われて他界していることを聞いたのは、その後のことだった
あんな言い方になってしまったのを少し申し訳ないとは思ったが、
それにしたって聞き方というものがあるのではないだろうか



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