ユースは彼の足元に転がり、気持ち良さげに喉を鳴らしていた。
何処の忠犬かと知りたいぐらいに、ユースは彼――モルディーンにべったりだった。
イェスパーは知っている。
ユースはモルディーンを大賢者の次に、親のように慕っている。慕っていて、敬愛していて。
甘えるようなユースがモルディーンの膝に頭を置いた。
……イラッ
(いやいやいやいやいやいや何故俺は今一瞬苛々としたのか別に猊下に嫉妬したとかというか猊下に嫉妬するという何という大罪を!!)
自問自答を続けるが、表情には一切の乱れは出ない。
そんなイェスパーに、モルディーンが面白そうな視線を向けた。
が、モルディーンの視線はユースに戻る。
「ねぇ、ユースちゃん。
ユースちゃんって綺麗だね」
「っ!?」
ユースが驚き顔でモルディーンを見た。
ついでにイェスパーもモルディーンを見ていた。
「うん、可愛いし綺麗だし。肌もすべすべだね。これが若さかな」
モルディーンがユースの頬を指で突いた。ユースが擽ったそうに笑った。
「猊下様恥ずかしいー」
「うーん、あんまりやってたらおじさんのセクハラとかいう奴になるのかな。バロメロオくんのあとを追うわけにはいかないからね」
「猊下様えっちぃー」
「そんなに言うユースちゃんにはお仕置きだよ?」
そういったモルディーンの瞳がSっ気を帯びていて。ユースの頬が染まっていく。
同時にイェスパーの顔から血が引いていく。
「………………猊下そういえばユースはキュラソーに呼ばれていた気がしますし猊下御自身も職務があったじゃないですか少しユースをお借りします!」
「わ」
「クスクス、どうぞ」
何かの限界だったイェスパーがユースの首根を掴み、脱兎、モルディーンの側から離れて行った。
部屋から飛び出たイェスパーとユースをモルディーンがニコニコと微笑んでいた。
「ああでもしないとイェスパー君は動かないんだから」
見る目は優しく。微笑んでいた。
†††
「イェスパー? …イェスパーさーん?」
「………」
「怒ってる?」
「…………何故?」
「怒ってる顔してるもの」
いつの間にかユースを背負っているイェスパー。
ユースはクスクスとイェスパーの肩に顔を埋めた。
イェスパーがムスとした声でユースに話しかける。
「何故、笑ってる?」
「嬉しいの」
「何故、嬉しい?」
「イェスパーの嫉妬って初めて見た」
「嫉妬したりなどしていない」
「うん」
ユースは嬉しそうにイェスパーを抱きしめた。暖かいイェスパーの身体。
嫉妬してくれるなんて。期待してしまう。
「イェスパー、私はキュラちゃんが呼んでいるじゃないの?」
「……そうだったか?」
「イェスパーが言った!
でもイェスパーが背負ってくれるならいいよ」
幸せそうなユース。
イェスパーはふぅと溜め息をついてから、ユースを背負いなおした。
彼も暫くユースを降ろす気はないようだ。
†††
「…………」
「やっぱり昨日のイェスパーくんは嫉妬かな?」
次の日。イェスパーは散々モルディーンに弄られていた。
「ユースちゃんもよろこんでいたかな?」
「…………」
「結局、昨日はあれからユースちゃんを離さなかったって話だしね」
「………………昨日は護衛を放り投げて申し訳ありませんでした」
イェスパーがポツリとモルディーンに謝罪。
その声がまだ不満げに感じられてモルディーンはにっこり笑った。
「そうだね、昨日は有給扱いするとして。
……変わりにユースちゃんを1日借りようかな?」
「…………ッ」
無表情の中にも慌てた色を見せたイェスパー。
モルディーンはニコニコとイェスパーを見た。
「やっぱりユースちゃんは魅力的だからね…?」
これ以上からかう訳にもいかずモルディーンはただニコニコとしていたが。
イェスパーにはそれが逆に怖く見えて。
自身の君主でありながらも、性格最悪だと思ってしまった。
「猊下様、ありがと」
「いえいえ、どういたしまして」
「……イェスパーと一緒に入れてよかったです」
(性格最悪の君主)
でもユースにとっては優しい君主様
イェスパーにとっては心臓に悪い君主