息が詰まりそうだった。
自分が何故こんなに血まみれで、無様で、滑稽で、それを何故好意を寄せられている女に見られているのか。
「イェスパーッ!!」
死なないでと何度も俺を呼ぶユースの姿を捕らえる。
せめてユースは連れてくるべきではなかった。隣には弟のベルドリトの姿も目に入った。
ユースの額から流れる赤い液体に殺気が沸く。
だが。これはまずい。
前にいるのはただの<長命竜>だ。そう、ただの。
「兄、貴、やっぱ、り兄貴が強く、ても咒弾が、一切、無、しじゃ…」
「黙れ」
ベルドリトが言うように、最悪な事に度重なった任務で咒弾が切れていた。
不意打ちで傷ついてしまったユースに使った咒弾もある。
使えるのは自らの剣術のみ。
だが、咒力の乗らない刀では<長命竜>への致命傷を与えるのは難しい。時間があまりにもかかっていた。
「ベルドリト、ユースだけでも逃がせ」
「いや、いやだよイェスパー!!!」
「兄貴、俺の咒弾は数発ならある。兄貴も逃げ」
「………ユースが怪我をしているだろう」
それはユースの治療に使いたい。
誰でもない。逃げる訳でもない。ユースの安全のために。
刀を握り締める。残る低位咒弾が1つ。次の一発で決めなくてはならない。
必ず致死させる1撃。
未熟な俺に出来るのだろうか。
死ぬ気でいい。ユースが助かるのなら。
「ユースちゃん行こう」
「やだ絶対いる。イェスパーが勝つの!!!!」
泣いているのはユース。
息をすぅと澄ませた。
「イェスパー、それはあまりにも短慮だ」
聞こえた声があまりに力強くて、俺はそちらを見た。
見えたのは桜の小枝。
次には倒れた<長命竜>だった。
咒式の波動は0だ。つまり剣術だけで倒された<長命竜>。
それも一撃で、とき澄まされたまま。
「………オキツグ師」
現れた我が師に呟いた。
だが、俺の心情は現れた師への感謝よりも他の所にあった。
「ユース!」
身体の怪我などどうでもいい。俺は頑丈だから。だがユースは違う。ユースは危ない。俺はユースの身体をただ抱きしめた。
俺の血に汚れるユース。ぐすんと泣き声を上げたユースが呆然と俺の血に恐怖を見せていた。
だが、そんなの気にしてられない。
腕にある暖かい彼女が必要で、冷たくなる俺など気にしてられないのだ。
「ユース…すまない。怪我をさせて…」
「大、丈夫だかっ、ら、イェスパー、血ッ!」
「ユース…」
「や、やだっ、よぉ」
ユースが何故か嫌がる。
泣き出しながら俺の身体を引き離そうとする。
ふと俺の身体に体温が戻る。
見ると優しい表情をしたサナダ・オキツグ師が俺を治療していた。
「お嬢さん。これで少しは安心しただろうか」
コクンと頷くユース。
そのあとユースの治療も行われた。
「………よかった」
呟く俺はふと気付く。
ユースは俺が嫌だった訳ではない。
ユースは俺の負傷が、俺の死が怖かったのだ。
だからから離れず、治療よりもユースを抱きしめていた俺を拒んだ。
無様だった。
俺はを倒す所か無様にやられ、師に助けられ、ユースを守るつもりが傷付け。
「………」
今もユースを慰めている師。
弟もユースの涙を拭っていた。
「……師、お久しぶりです」
「イェスパーにも春か」
何を言うのだろうか。今現在俺の心境は冷たく凍っているのに。
あまりにも師との差。
それは力的なものもあったが、違うものも混ざっていた。
回りを見る能力や、大事なものを守り切る力。
「イェスパー、私はもう平気だよ」
ユースが俺の手を握った。
あぁ、ユースにまで気を使わせているのか。
「………ユース…」
名前を呟き、もう1度ユースを抱きしめた。
暖かい彼女を抱きしめながら、俺にあるのは確かな焦りだった。
(実力の断層)
力を望み追いつけるように
追いつきたいのは師なのか、ユースとの距離か