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「なら、私を負かせてみて」
「…、でも」
「もちろんハンデを貰うわ。貴方は匣とリングを使わない。どう?」
「……了解」
言い出したら私がひかないことを感覚で悟ったのかしょうがない、と苦笑して武は刀を握り直した。
その目に、笑みはない。
いい目をするじゃない、と口の端を上げてすぐさま間合いを取る。
とん、と足がついた瞬間、武の鋭い突きが私の脇腹をかすった。…もちろん、怪我はない。
ワンステップで横にずれるとすぐさま一撃が飛んでくる。
なかなか…だけど、やっぱり、勿体ない。
逃げてるばかりは性に合わないのでもうワンステップ踏んで―――
しゃがみ込んだ反動を使って一気に武の後ろを取り、何の躊躇いもなく武の首に刀を突きつける。
…危ない…後少しでも力の加減を忘れてたら首を飛ばしてるところだった…
「私の勝ち、ね」
「…すげぇのな、翠徠」
「貴方の方がすごいよ」
「へっ?」
翡翠をゆっくり首から離していき、ゆっくり鞘へと戻す。
武は私の言葉が理解できないのか…しがたいのか、わからないけどキョトンとしていた。
ここで嫌味だと取らないのが武の天然さゆえよね。
少し乱れた髪を一つに纏めてポニーテールにし、再び武に目を向けた。
「貴方の強さは匣とリング、刀の三つを柔軟に使いこなせるところにあるわ。
もしリングと匣両方使われたら…私も刀だけじゃ勝てない。
もっと刀の腕の精度をあげてみたら?
…一度でいいから任務に刀だけで勝負してみたら何か違うものが見えるんじゃない?」
まぁ、私の勝手な想像だけど。
と言葉を足しておいたけど武は聞いてないみたいで、なんだか妙に目を輝かせて、ニコニコ笑っていた。
呑気なのかなんなのかわからないのもこの人の特徴よね。
なんでそんなにニコニコしているのかわからないから怪訝そうな視線を送ると武も刀を竹刀に戻していた。
「翠徠ってやっぱいい奴なのな!」
「…そう言われたのは初めてだけど」
「そうなのか?ならみんなわかってねぇのなー」
「私は武の方が変だと思った」
「酷でぇ!」
私書類渡さないといけないから、と笑っている武に言って背を向ける。
歩き出すとその背に「ありがとなー!」という大きな声が聞こえてきた。
…なんだか武に言われると嫌味に聞こえないから、照れくさくて。
私はわざと何も返さずに、ただ書類を強く握り締めただけだった。
助言、なんてものは
(あんまり役に立たないかも知れないけど、喜んだならいいかな)
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