樋「お誕生日おめでとうございます{emj_ip_0792}」


朝、ポートマフィアの拠点内にある廊下を歩いていたふみは、自身の部下である樋口一葉から突然言われた言葉に目をきょとんとさせると首を傾げた。




ふ「誕生日?誰の?」




樋「えぇ{emj_ip_0793}ふみ先輩と芥川先輩のですよ{emj_ip_0792}」





もしかして、忘れておりましたか?と言う樋口の言葉にふみは、コクリと頷いた。



そう、今日は3月1日。
梅も咲き乱れ見頃を迎えた頃、芥川龍之介と芥川ふみは、この世に生を受けた。
だが、気づいた時には貧民街で妹・銀と共に3人で彷徨い、また、龍之介とふみは男女の双子であった事から通りすがりの見知らぬ老人などからは「汚らわしくいやらしい」と罵られた事があった。


その時は、幼く理由が分からなかった龍之介とふみだったがポートマフィアに入り、調べる機会があった時には、二人で顔を見合わせたのを覚えている。


そんな事をボーッと考えているふみの名を樋口が不思議そうに呼ぶとふみは、「なんだ?」と返事をした。
樋口は、もじもじと恥ずかしそうな素ぶりを見せるとふみへ紙袋を差し出した。


ずいっと目の前に出された紙袋にふみは、首を傾げると「此れは…?」と樋口に問いかけた。

樋口は、少し頬を赤らめながらふみに視線を向けると言った。





樋「僭越ながら私からふみ先輩にお誕生日のプレゼントです。




その、良かったら受け取ってください…」





そう言うとぎゅっと目を瞑る樋口の姿を数秒見つめたふみは、樋口の手から紙袋を受け取った。
樋口は、目を開き目の前に立っている紙袋を手に持つふみを見つめるとふみは、少し目を細め、「ありがとう…」と小さく恥ずかしそうに呟いた。




樋「{emj_ip_0793}は、はい…{emj_ip_0792}」



ふみの小さなお礼に樋口は、嬉しそうに微笑むと背を向けて歩きだしたふみを見送った。








「お、ふみじゃねぇか。」



ふみは、樋口と別れた後、歩いていると再び名を呼ばれた。
振り返ると其処には上司である中原中也が先程の樋口と同じ様に紙袋を片手に立っていた。


ふみ「お疲れ様です。中原さん」


中「あぁ。手前は、任務の帰りか?」


中也に問いかけられたふみは、首を横に振り「今日は、昨日の報告書を提出しに来ただけです。提出し終わりましたので今から帰るところです」と答えると中也は、「そうか」と言い、手に持っていた紙袋をふみへと軽く掘り投げた。

ふみは、持ち前の反射神経で放り投げられた紙袋を受け止め、中也に再び紙袋を返そうとすると「何で返してくんだよ。」と軽く叱られた。
叱られたふみは、少しムッとしながら「中原さんが投げるから…」と答えると中也は、はぁーと大きな溜息を吐いた。



中「手前…今日、誕生日だろうが。」


ふ「?えぇ、そうです。先程、樋口が言うまで忘れていましたが」


ふみの口から出た“忘れていた”と言う言葉に中也は再び溜息を吐き、ふみの頭をぺしっと叩くと「おら、プレゼントだ。芥川と仲良く食えよ。」とだけを言うと中也は、ふみに背を向け歩き出した。




ふみ「中原さん、ありがとうございます。」




中也の言葉の意味を理解したふみが少し遅れて背を向けている中也にお礼を言うと中也は片手を上げ、ひらひらと左右に少し振ると去っていった。


中也から貰った紙袋の中からほのかに香るバターを焦がしたような甘い匂いにふみは、胸を躍らせた。














ポートマフィアの拠点を後にしたふみは繁華街へと足を運び、悩みに悩んだ末に片割れである龍之介の誕生日プレゼントを購入した。


龍之介とふみと銀は、貧民街の出故に誕生日を祝うと言う事がなかった。
生まれてから「汚らわしい、いやらしい」と罵られてきた事もあった自分達を祝う意味さえ分からなかった、誕生日など自分達には必要ない。
そう言う事すら考えていたのだった。


だが、このポートマフィアに入り、部下や上司が出来、自身達の誕生日を祝ってくれると言う事は嬉しい事だとふみは知った。


そんな事を考えながら海沿いを歩いていると突然、ふみは背中にトンッと衝撃を感じた。
ふみは、素早く振り返りその衝撃を確認すると其処には藍色の髪を揺らし赤色の着物を纏った少女が背中に抱きついていた。






ふ「鏡花」




ふみが名を呼ぶと少女は、ふみの背中に埋めていた顔を上げると嬉しそうに顔を綻ばせた。




鏡「ふみ、会いたかった。」



ふ「久しぶりだな、鏡花。元気だったか?」



ふみが鏡花に問いかけると鏡花は、コクリと頷くとふみの顔をジッと見つめた。
ふみは、そんな鏡花に「どうした?」と尋ねると鏡花は、自身の着物の袖中に手を伸ばし一つの小さな包みを取り出しふみへと差し出した。




鏡「今日…誕生日だと聞いたから…」





受け取ってほしい…と頬を染めながら言う鏡花にふみは、小さく微笑むと「ありがとう」と受け取った。
鏡花は、受け取ってもらえたのが嬉しかったのか嬉しそうに微笑むと何かを思い出したかの様に首元に掛けてあった携帯を手に取り何処かへ電話し始めた。

ふみは邪魔にならない様にその場を去ろうとしたのだが、鏡花に手を掴まれ去る事が出来なかった。
ジッとふみを見つめながら行っちゃ駄目と言うように左右に首を振る鏡花にふみは、振り払う事も出来ずにそのまま大人しくいる事にした。



鏡「うん…見つけた……」



ボソボソと話す鏡花にふみは、首を傾げながら電話が終わるのを待っていると背後からバタバタと走ってくる足音が聞こえた。
ふみは、背後から聞こえる足音に目を向けると其処には花束を抱えた敦が息を切らしながら現れた。

敦の姿を目に移したふみは、凄く嫌そうな顔をしたがそんなふみに鏡花は頑張れと言う様に背中を軽くぽんと叩くとふみに「頑張って」と言い去って行った。



その場に残されたふみと息を切らす敦と言う二人が残された。


ふ「何の用だ、人虎」


敦「あははは、良かったぁ!ふみさんに会えた!」



ふみの問いかけに敦は嬉しそうに笑うと怪訝な顔をするふみを気にする事なく敦は話を続けた。


敦「朝から、街を彷徨いたり異能を使ってふみさんの匂いを探してみたりしたんですけど中々、見つからなかったので今日は会えないんじゃないかと心配になりました。」



ふ「さらりと怖い事言った気がする…匂いって何だ、匂いって。後、異能をそう言う事に使用するな。」



さらりとストーカーっぽい発言をした敦にふみは、若干背筋が冷たくなるのを感じながらジト目で敦を見つめるが敦は特に気にする事も無くにこにこと笑っていた。



敦「まぁ、普段からふみさんに会いたくて異能は使ってるんですけど…
今日は、絶対に会いたかったんです。
なのにふみさんは、見つからないし…鏡花ちゃんも会いたがっていたので二人してふみさんをほか…手分けして探す事にしたんです。」



ふ「今、捕獲って言おうとしたな?」



敦「本当に今日中に会えて良かった…」




そう言うと敦は、手に持っていた花束をふみへと差し出した。




ふ「え…?」



突然差し出された様々な色合いの美しい花束にふみは、戸惑い如何すれば良いのか分からなかった。
目を見開き驚くふみを敦は、愛おしい者を見る様に優しく見つめていた。


敦は、花束を受け取らないふみの手を自身の片手で優しく掴むとふみへその花束を握らせた。




敦「昨日、太宰さんからふみさんが誕生日だって聞いたんです。
本当は、アクセサリーとか結婚指輪とか贈りたかったんですが…間に合いませんでした。」




ふ「結婚指輪は、要らない。」



敦の言葉に心底間に合わなくて良かったとふみは思った。



敦「何を贈ったらいいか分からなくて…探偵社の女性陣に聞いたら思いの篭った花束が良いんじゃないかと助言をいただきましたので今回は、ふみさんに僕の想いを込めた花束を贈らせていただきます。」




そう言って微笑む敦にふみは視線を逸らすと敦から受け取った花束を見つめた。




敦「アザレアは“恋の喜び”

ペチュニアは“貴女と一緒なら心が和らぐ”

ピンクのアンスリウムは“飾らない美しさ”

青のヒヤシンスは“変わらぬ愛”



そして…
赤のゼラニウムは“君あっての幸福”






貴女に出会い貴女を好きになり僕は幸せです。




お誕生日おめでとうございます。
生まれてきてくれてありがとう、ふみさん」


そう言って敦は、花束の中に一本入っていた薔薇の花を抜くとふみの耳元に髪飾りの様にさした。

花束の中に一本だけ薔薇が入っていたのに気づいていたが敦が説明してくれた花言葉の中に薔薇の花言葉は無かった。


ふみは、昔読んだ本に薔薇の花は色や本数によって意味合いが変わると言う話が載っていた事を思い出した。



ふみの顳*に飾られている薔薇の花は赤色。
花束の中には一本しか無かった。





確か…意味は…





敦「赤色の薔薇の一本の意味は…





“一目惚れ”





そして“あなたしかいない”です。」



ふみが思い出したのと敦が口に出したタイミングが同じだった為、ふみは驚いた。


そして、言葉の意味を理解するとふみは自身の顔が赤くなるのが分かった。
早くなる心臓にふみ自身も驚きを隠せなかった。

赤くなる顔を見られたくなくて貰った花束で顔を隠すふみに敦は微笑むと再びお祝いの言葉を言った。




敦「生まれてきてくれてありがとう。ふみさん。」














ふ「ただいま。」


ふみが敦と別れ家に帰り玄関の扉を開けると黒い靴が置いてある事に気がつき、片割れである龍之介が任務を終え帰宅している事が分かった。

ふみは、靴を脱ぎ玄関に置かれたスリッパに履き替えるとそのままリビングへと足を向けた。


ふ「ただいま、龍之介」



リビングへ足を踏み入れると片割れである龍之介が部屋着でソファーに座り本を読んでいる姿が其処にはあった。
荷物をテーブルに下ろすと龍之介は、先程のふみの言葉に読んでいた本に栞を挟むとふみへ顔を向け「おかえり」と言った。


龍「やけに大荷物だな。」


ふ「皆さんが誕生日だからと私と龍之介に贈ってくださった物だ。」



後で食べようとふみが龍之介に言うと龍之介は、コクリと頷いた。







龍「……ふみに渡したい物がある。」





そう言うと突然、立ち上がり寝室の方に向かう片割れにふみは首を傾げながら龍之介が再びリビングに帰ってくるのを待った。

数分も経たない内に龍之介は、リビングへと戻るとふみの名を読んだ。


ふみは、自身の名を読んだ片割れに近づくと龍之介は、小さな箱を一つ差し出した。



龍「誕生日だろう。受け取れふみ」


そう言って龍之介は、ふみの手に箱を握らせた。
ふみはその箱を開けると中には小さな石がついたシルバーのネックレスが入っていた。



ふ「ネックレス…」



ネックレスを見つめるふみに龍之介は、優しい眼差しを向けた。



龍「その中央の石は3月1日…僕とふみの誕生日石のフローライトだ。


神など僕は信じて居ないが…



僕の半身であり家族であるふみの事は、守りたいと思う。



だから、御守り代りに身に付けろ。」




片割れしか知らない優しい笑みで言う龍之介にふみは嬉しくて涙が出そうになるのを耐え、ふみは龍之介に紙袋を一つ差し出した。

その紙袋に龍之介は、見覚えがあった。





龍「此れは…」




ふみ「双子故に考える事は一緒だったな。」



“誕生日プレゼントが被ってしまった。”と笑うふみに龍之介は、驚いた様な顔を見せた。



そう、二人は時間帯が違う同じ日、同じ店でお互い片割れを思いながら同じ物を購入していたのだった。


龍「被ってしまったな。」



ふ「そうだな。」



二人は顔を見合わせるとお互いに微笑んだ。




龍「ふみ。」



ふ「龍之介」





「「お誕生日おめでとう、大切な僕の/私の片割れ」」












その後、仕事を終え帰宅した銀に二人は祝われ楽しい夕食を終え、
ふみは敦からもらった花束を花瓶へと飾っていた時だった。
ふみは、ふっと花束の中に鈴蘭が入っている事に気がついた。


鈴蘭の花は、5月の誕生花…



つまり…敦の誕生花だ。




ふみは、それに気がつくと一人敦を思い出し顔を真っ赤にさせたのだった。






ふみ「人虎の……馬鹿……」






一人呟いた言葉は、誰にも聞かれなかった。











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