敵の異能で新双黒がもちますになりました



その日、前の日に3泊4日の任務を終え、上司である中原の気遣いにより休暇を言い渡された芥川ふみは、横浜中華街にあるとある店で大盛り麻婆豆腐を堪能しようと店のカウンターに座っていた。

目の前に美味しそうだが、細身の少女が食べるには大き過ぎる大盛りの麻婆豆腐にふみは、目を輝かせるとレンゲを手に持ち、“いただきます”と両手を合わせレンゲで掬い上げた麻婆豆腐を口に運ぼうとした時だった。

突如、テーブルに置いていた携帯がブルブルと震え出した事に気がついたふみは、レンゲ片手に携帯へと手を伸ばし画面を確認した。
自身の片割れである芥川龍之介からの着信を表示する携帯画面にふみは迷わず応答ボタンを押し、携帯を耳に当てるとパクリと麻婆豆腐を食べた。


ふ「何だ、龍之介。」


もぐもぐと口を動かしながら片割れである龍之介に電話越しに話しかけた。



「やぁ、ふみちゃん。元気かい?」



ブチッ


聞き覚えのあるイケメンボイスにふみは、無意識に携帯の通話をブチッと切ると携帯をカウンターにそっと置き、再びもぐもぐと麻婆豆腐を食べ始めたのだが、ぶるぶると震える携帯にイライラしながらも再び応答ボタンを押した。


ふ「何故、貴方が龍之介の電話を使っておられるのですか。太宰さん」


電話の向こうにいる姿の見えない人物の名前をふみが呼ぶとその姿の見えない人物・武装探偵社社員 太宰治は、戯けたように「なんででしょう{emj_ip_0792}はい、ふみちゃん答えてくれ給え{emj_ip_0792}」と言った。
更にイラっときたふみは、「戯言を仰られるなら電話の通話を切りますよ。」と冷たく言うと太宰は慌てたように「嘘{emj_ip_0792}嘘だから待って{emj_ip_0792}」と電話越しに声を荒げた。


ふ「………何なんですか。早くして頂けぬなら、首をもぎ取りますよ。」


太「ふみちゃんは、本当に私が嫌いなんだね…。
まあ、良いさ…」



太宰がはぁ…っと溜息を吐くと「ふみちゃん」と真剣な声でふみの名を呼んだ。
突然、変わった太宰の態度にふみはビクリと肩を揺らすと麻婆豆腐を食べていた手を止め、静かにレンゲを置くと眉間を寄せながら「何ですか?」と問いかけた。


太「落ち着いて聞いてくれ給え。







芥川くんと敦くんが大変な事になった…。」


ふみは、その言葉を聞いた瞬間…
目を見開き携帯を落としてしまった。











「横浜港にある第3倉庫に来てくれ給え。其処であった事を話すよ」と言う太宰の言葉にふみは、柄にも無く息を切らしながら走っていた。
任務中でもこんなに息を切らすほど走った事がないのに太宰の口から出た「芥川くんと敦くんが大変な事になった」と言う片割れの名が出た言葉にふみは、嫌な考えしか思い浮かばなかった。






“龍之介に何かあったらどうしよう…それに…人虎まで…”





ぎゅぅっと不安で胸が締め付けられるのを感じながらふみは、必死で走り太宰の言っていた第3倉庫まで辿り着いた。

第3倉庫の扉を勢いよく開け、中に入ると其処には砂色の外套を揺らした男性・太宰治がただ一人立っていた。

ふみは、太宰の名を叫ぶ様に呼びながら駆け寄ると切れる息を整える事もせず太宰に「りゅ、うのす…けは…?じん、こ…は?」と尋ねると太宰は、ふみからフッと視線を外した。


ふ「な、ぜ…何故、黙るのですか?何故、目を逸らすのですか{emj_ip_0793}」


目を逸らした太宰の態度にふみは、カッとなり太宰の外套の胸元を掴み掛かるが太宰は目を逸らし伏せると「驚かないで聞いて欲しい…」と自身の外套を掴むふみの手を優しく掴み離した。



太「芥川くんとあつしくんが…













こんなに可愛らしい姿になってしまったのだよ{emj_ip_0792}」



と言うと太宰は、自身の外套のポケットから何かを取り出しふみの目の前に差し出した。


ふみ「………







なんですか、この龍之介と人虎に似たもちもちとした奇妙なマスコットは。」


ふみの前に差し出されたのは、片割れである龍之介と人虎・中島敦に似た手足の短いもちもちとした可愛らしいマスコットであった。


ふ「太宰さん。巫山戯ているのであれば、殺しますよ。」


キッと太宰を睨みつけるふみに太宰は焦りながら「本当だよ{emj_ip_0792}本当なんだって{emj_ip_0792}芥川くんと敦くんが追っていた敵の異能力の所為で二人は、こうなってしまったのだよ{emj_ip_0792}」と一生懸命言うがふみは、疑いの目で太宰を睨みつけた。




そんな時だった。




「ふみさん…」




ぐすぐすと涙声でふみの名を呼ぶ敦の声が聞こえた。
ふみは、突如聞こえた敦の声に辺りをキョロキョロと辺りを見渡すが姿が見えず、ふみは不思議そうに首を傾げていると太宰の手の平に乗っているもちもちした敦似のマスコットがぴょんぴょん飛び跳ねた。



「ふみさんんんっ{emj_ip_0792}うぇぇん、ふみさぁぁぁんんんっ{emj_ip_0792}」



目の前の敦似のもちもちしたマスコットがふみの名を涙を流しながら呼んだ。
ふみは、急に動き出したマスコットに目を見開き驚くとぴょんぴょん跳ねる敦似のマスコットを太宰の手から持ち上げた。

敦似のマスコットは、可愛らしいつぶらな瞳からポロポロと涙を流しながらふみの手にすりすりとすり擦り寄ると再び「ふみさぁん…」とふみの名をその小さな口で呼んだ。



ふ「まさか…ほ、本当に人虎なの…か?」



信じられないと言う様に恐る恐る尋ねるふみにふみの掌の上にいるマスコットは、「そうです…ふみさんの中島敦ですぅ…」と答えた。


ふ「な、何故この様な奇妙な姿に{emj_ip_0793}」


太「其れがね…私達が依頼で追っていた人物と芥川くんが任務で追っていた人物が同じ人物でしかも異能力者だったみたいでね。
其奴を捕まえようと二人が突撃したらこんなもちもちしたマスコット…うん、長いからもちますと命名しよう{emj_ip_0792}

もちますになってしまったのだよ{emj_ip_0792}



ねー、芥川くん。」


芥「むぎゅっ{emj_ip_0793}」


ふ「あぁぁぁっ{emj_ip_0792}龍之介{emj_ip_0793}」


太宰がふみに此れまでの経緯を話すと太宰は手の平に乗り黙ったままだったもちます姿の龍之介を鷲掴みにした。
ふみは、慌てて太宰の手の中から片割れである龍之介を救うと太宰から守るように潰れない低度の力で自身の胸に抱き抱えた。


ふ「龍之介大丈夫か{emj_ip_0793}内臓は、出てないか{emj_ip_0793}」


ふみは、心配そうにもちますの姿になってしまった片割れの龍之介に話しかけると龍之介は少しぷるぷる震えながら「…心配無用だ」と答えた。
その言葉にふみは、ホッとすると目の前でヘラヘラと笑う太宰を睨むと「太宰さん{emj_ip_0792}」と怒る様に太宰の名を呼んだ。


そんなふみに太宰は、顎に手を当てながら考える素振りを見せると「ふみちゃんなら、敦くんも喜ぶし良いかな?」と独り言を呟いた。


太宰の言葉の意味が理解出来なかった敦とふみと龍之介三人は、頭にハテナを浮かべていると太宰が突然、にっこりと笑みを浮かべた。
その笑みは、太宰の性格を知らない一般女性が見れば見惚れてしまう程に麗しい笑みを浮かべているのだが太宰の性格をよく知る三人は、その笑みが何かを企んでいる様にしか見えず、太宰が苦手なふみにとっては、背筋がぞわぞわする程嫌な笑みに見えた。



太「ふみちゃん。






敦くんと芥川くんが元に戻るまでお世話宜しくね。」



語尾に星が付きそうな程、爽やかに言った太宰にふみ達は一瞬固まると三人一斉に「「「はっ?」」」と声をあげた。


ふ「私がお世話…{emj_ip_0793}龍之介なら兎も角、何故人虎まで私が面倒見なければ成らぬのですか{emj_ip_0793}
貴方が見れば良いでしょう{emj_ip_0793}」


太「えー?無理。私は二人をこんな風にしてしまった異能者を捕まえないといけないし面倒くさいし。」


ふ「本音をサラリと言いましたね。
私は、嫌です。人虎の面倒を見るなど言語道断です。」


敦「ふみさ、ちょっ…もにゅもにゅ揉まないでください!

あ、でもふみさんに触られてる{emj_ip_0792}嬉しい{emj_ip_0792}」


太宰の提案をそっぽを向きながら否定するふみだったが手は、もちます姿の敦をもにゅもにゅと揉んでおり、その感触を存分に堪能していた。


太「口では、否定しつつ手は感触を楽しんでいるようだけど?」


ふ「{emj_ip_0793}じ、人虎が悪いのです{emj_ip_0792}こんなもちもちな身体になりおって、このメタボタイガーがっ{emj_ip_0792}」


自身の想い人であるふみに揉まれながら喜ぶ敦に敦を罵りながらももにゅもにゅと揉む手を止めない片われに龍之介は、はぁ…とひとつ重いため息を吐いた。


太「ふみちゃんも気に入ってくれている様だし、何かあったら連絡するから」



“宜しくね〜”


と言うとふみ達に背を向け片手をひらひらと振りながら去って行ってしまった。



敦「……ふみさんの家に初のお泊まり{emj_ip_0792}」


龍「ふみ、此奴を此処に捨てて行け。」


敦「煩いぞ!お前は黙ってろよ{emj_ip_0792}」


龍「誰が貴様の様な人間など家に入れるものかっ{emj_ip_0792}今、此処で羅生門の餌食にしてやるっ{emj_ip_0792}」


”羅生門”


龍之介が異能を使うが使い手がもちますの姿だからなのか、黒獣も小さく可愛らしい姿になっていた。
ふみは、好奇心から龍之介の外套から伸びる黒獣を指で弾いてみると黒獣はぴょーんと簡単に弾かれてしまった。


龍「ふみ{emj_ip_0792}」


ふ「すまぬ。つい出来心で」


龍之介は叱るようにふみの名を呼んだがふみの楽しそうな表情にこれ以上叱る事が出来ず、溜息を吐き、
そんな芥川双子を見て敦は、“ふみさん可愛い{emj_ip_0792}”とニコニコしていた。



とりあえず、ふみの「動く人形…ふふっ」と楽しそうな笑みにより芥川家に連れて帰られる事になった敦とそれに対して不服そうな表情の龍之介は何とかふみの鞄の中で揺さぶられながら芥川家へと辿り着いた。


家に入り、ふみの鞄から机の上へと乗せられた龍之介と敦にふみは「其処で待っていてくれ」と声を掛けるとリビングから去って行ってしまった。
そんなふみの背中を見送った敦は、きょろきょろと芥川家のリビングを見渡した。

少し広いキッチンに食卓テーブル。
リビングには、敦の寮の部屋にあるテレビより大きい薄型テレビと3人がけのソファーが置かれていた。
シンプルに白黒で統一された必要最低限の物しか置かれていない部屋をきょろきょろと見つめる敦に芥川が「人の家を物色するな。人虎」と注意した。


敦「煩いぞ、芥川」


龍「他人の家を物色する躾のなっていない野獣に口を出して何が悪い。」


敦「いずれ、ふみさんと夫婦になるんだから他人じゃない。」


龍「ふみは、嫁に出さぬ{emj_ip_0792}」


敦「なら、婿養子になるっ{emj_ip_0792}」


龍「認めぬっ{emj_ip_0792}貴様など認めぬぞ{emj_ip_0792}」


ぺしぺしぺしっとお互いに叩き合い喧嘩するもちます敦と龍之介に小さな銀色の四角い空き缶を持ってリビングに戻って来たふみは、驚き、慌てて二人を引き離した。


ふ「喧嘩は、止めろ。怪我をしたらどうするつもりだ。」


敦「だって芥川が…」


龍「人虎が…」


ふ「言い訳は聞かぬ。元の姿に戻るまで大人しくしていろ。」


そう言うとふみは、二人の前に小さな銀色の四角い空き缶をぽんっと置いた。
龍之介と敦は、突如目の前に置かれた箱に不思議そうに首を傾げると箱の中にふわふわのタオルを敷き詰め始めたふみに敦が尋ねた。


敦「ふみさん、この箱何ですか?」


ふ「人虎と龍之介の寝床だ。
一緒の寝床だと喧嘩するだろう?
かと言って私と一緒の床に入り、もし潰したりしたら大変だからな。」


敦「ふみさん、この箱から香ばしい匂いがしますよ。御煎餅みたいな匂い。」


ふ「煎餅が入っていた空き缶だからな。こっちは、クッキーの空き缶だ。」


龍「……ふみ、また、貴様部屋に食い物を隠していたな?
あれだけ、部屋にカップ麺やレトルト食品やお菓子を隠すなと注意しただろう{emj_ip_0792}」


ふ「{emj_ip_0793}ぜ、全部食べるもん…っ{emj_ip_0792}」


龍「期限など別に気にしておらぬ。
妙齢の女性の部屋が食べ物の買い置き部屋なっている事を心配しておるのだ。」


ふ「ぬ、ぬいぐるみもあるもん!可愛いぬいぐるみが{emj_ip_0792}」


龍「可愛さなど感じられぬ、鱈場蟹と鮪のぬいぐるみがな。」


うぅっ…と唸り片割れに何も言い返せないふみは、抵抗とばかりに机の上にいるもちます姿の龍之介の頭を指でぐりぐりと撫でた。


龍「こらっ{emj_ip_0792}ふみっ…やめ、{emj_ip_0792}止めろ、ふみ{emj_ip_0792}」

ぷんぷん怒る龍之介と口を尖らせ拗ねた様にもちます姿の片割れを撫で続けるふみに敦は、とことこっと近づくと龍之介を撫でるふみの手にすりすりとすり寄った。


ふ「どうした、人虎」


ふみが問いかけると敦は、くりくりの大きな瞳を潤ませると「ふみさん…僕も撫でてください」と可愛く言った。


ふ「{emj_ip_0793}し、仕方あるまい…っ{emj_ip_0792}」


うりうりっと指先で敦を撫でるふみとどんな形であれ、ふみに触れられて喜ぶ敦を見て龍之介は「ふみっ{emj_ip_0792}」と叱るがふみは、ちらりと龍之介に視線を向けると敦を撫でる手とは反対の手で龍之介をうりうりっと撫でた。


龍「ふみ…っ{emj_ip_0792}」


敦「ふみさんもっと撫でてください{emj_ip_0792}」


ふ「………」


楽しそうな表情を浮かべるふみに結局、片割れである龍之介は、これ以上何も言えずふみが満足するまで撫でる行為が続けられた。









あっという間に時間は過ぎ時計の針が夜11時半を指した頃、ふみは二人を抱えるといつも自身と片割れである龍之介が共に眠っている寝室へと足を運んだ。
ふみは、自分の部屋が有るには有るのだが、服と書籍とお菓子をストックしておく物置場と化しており、そして元々ふみの部屋にはベッドが置いておらず、基本寝る時は龍之介の部屋のダブルベットで寝る事になっていた。

そんなふみは、寝室の扉を開け、ベッドの横にあるサイドテーブルに二人が乗っている空き缶で出来た寝床を置くと満月の月明かりが窓から差し込む中、3人は眠りについた。













深夜2時過ぎ。
眠っていたふみは、ふっと目を覚ました。
月明かりが差し込む窓にふみは、チラリと視線を向けると美しい満月が夜空を照らしているのが分かった。
ぼーっと満月を数秒見つめた後、サイドテーブルに置かれたふみが用意した寝床で寝ているだろう、もちます姿の龍之介と敦に視線を向けると龍之介は、すやすやと眠っていたが敦は起きており、ふみに背を向けるような形でじっと満月を見つめている事に気がついた。


ふ「じんこ…っ?」


寝起きの掠れた声でふみが敦を呼ぶと敦は、ふみの声に気がつき、くるりと振り向いた。


敦「起こしちゃいましたか?」


ふ「いや、勝手に目覚めただけだ。」


「そうですか…」と言う敦が落ち込んでいる様に感じたふみは、横になったままスッと自身の手を敦に伸ばすと敦の頬をするりと撫でた。


ふ「どうした?」


敦「いえ、その…別に…」


もごもごっと濁した様に話す敦にふみは、「そうか。」と答えると敦の頬を撫でる手を止めるとベッドから起き上がり、龍之介のクローゼットをガラッと開けると中から黒のカーディガンを取り出し、羽織った。


ふみの突然の行動に敦は、不思議そうに首を傾げるとふみはペタペタと敦の元へ行きもちます姿の敦を持ち上げた。


敦「ふみさん?」


ふ「付き合え。夜の散歩だ。」


自身の名を呼ぶ敦にふみは、そう言うとベランダに繋がる扉を開け、ベランダにあるサンダルを履いたかと思うとマンションの8階から飛び降りた。


敦「うわぁぁぁぁぁぁぁっ{emj_ip_0793}」


マンションの8階から飛び降りたふみに驚き、敦は叫び声をあげた。
風圧でふみの手からふわりと浮く敦の軽い体をふみは、離れない様に両手でキュッと包み込む様に優しく握ると自身の異能を発動させた。
半透明の糸がふみの羽織るカーディガンから伸びたかと思うとふみの落下地点に落下防止ネットの様なものが異能力を具現化した糸で作られた。


異能力で出来た落下防止ネットの上に慌てる事無く、慣れたように着地するとふみは、異能を解き、トンッと華麗に地面に足をつけた。


敦「ふ、ふみさん…っ{emj_ip_0792}」


怖さでぶるぶると小さな体を震わせる敦にふみは、首を傾げると「怖かったのか?」と平然と問いかけた。


敦「し、死ぬかと思いました…」


ふ「そうか。」


ふみは、そう言うと敦をカーディガンの胸ポケットに入れると夜の街を歩き始め、胸ポケットからひょこっと敦は、顔を出すと辺りをキョロキョロと見渡した。


慣れた様に深夜の静かな横浜の街を歩くふみに敦は、「ふみさんは、よく夜にお散歩するんですか?」と問いかけると「偶にな。それに任務で遅くなる日もある故に」と応えた。


敦「こんな時間に徘徊してたら襲われちゃいますよ{emj_ip_0792}僕なら絶対襲います{emj_ip_0792}」


ふ「徘徊って言うな。後、私は一般人とは違うので大丈夫だ。不審者など直ぐに吊るし上げれる。」


敦「ふみさんを襲えば、ふみさんとSMプレイ…」


ふ「妄想するな。このまま握り潰すぞ」


敦「ふみさんとSMプレイもしてみたいですが、愛する人には優しくしたい主義なので…」


ふ「そんなにSMプレイがしたいなら私が貴様にしてやろう。」


ふみは、異能を発動させるともちます敦をシュルシュルと亀甲縛りで縛り上げ、自身の手にぷらぷらとぶら下げた。


ふ「ほら、こうされたかったのだろう?この淫獣が」


敦「ふみさん素敵…{emj_ip_0792}」


ふ「このまま、木にぶら下げてやる。さよなら人虎」


敦「調子に乗ってすいませんでしたぁ{emj_ip_0792}」



本当に木に敦をぶら下げようとしたふみに敦は、素早く謝るとふみは、小さくため息を吐き異能を解いた。




こんな事をしているうちにいつの間にか横浜港へと辿り着いていた。
ふみは、近くにあったベンチに座ると自身の隣にそっと敦を降ろした。


ベンチに降ろされた敦は、じっと目の前の海面に映る満月を見つめた。

小さい体が何処か落ち込んだ様に見えたふみは、何も言わず、ただ敦の隣に黙って座っていた。


ふわりと風がふみの髪を揺らした時、敦がポツリと呟いた。




敦「元の姿に戻れますよね…?」


敦の言葉にふみは、「さぁな。」としか応えなかった。



敦「もし、元の姿へ戻れなかったらどうしよう…」


少し震えている敦の声にふみは、何も言わなかった。


敦は、不安だった。
太宰や探偵社のみんなを信じていない訳では、無い。
だが、いつ元に戻れるか分からない状況に不安を隠しきれなかった。


元に戻れず、やっと出来た探偵社と言う居場所を失ってしまったらどうしよう。


大好きなふみが離れてしまったら…?


今の小さな自分では、どうする事も出来ない。


敦の中では、大きな不安となっていた。



ふるふるっと震える小さな体の敦をふみは、自身の手でするりと撫でた。


ふ「人虎。私は、有能では無い。
故に絶対に戻れるなどと言う言葉を軽々しくは、言えぬ。
そして、貴様を励ます様な言葉も私は思いつかない。」


月が浮かぶ海面をただジッと真っ直ぐ見つめふみは、言った。





ふ「でも、



もし、貴様が元に戻れなかったら……









このまま私が貴様の面倒を見てやる。」





そう言ったふみに敦は、目を見開いた。


敦「えっ…?」


ふ「……貴様が不満なら、別に構わぬがな。」


ふいっと顔を背けたふみに敦は慌てて「面倒見て欲しいです{emj_ip_0792}一生{emj_ip_0792}」と言うとふみは、「一生は嫌だ」といつもの会話が始まった。


敦「えへへっ{emj_ip_0792}結婚{emj_ip_0792}婿養子{emj_ip_0792}」


ふ「何故、そんな話になる。」


敦「だって、面倒見てやる=結婚ですよ{emj_ip_0792}プロポーズですよ、さっきの。」


ふ「プロポーズ違う。握り潰すぞ、人虎」


敦「ふみさんの手の中で死ぬ…ある意味良いかもしれない…っ{emj_ip_0792}」


ふ「貴様、そのまま海へ投げるぞ」



いつも調子を取り戻し、ふみに話しかける敦にふみは、ホッとした様に小さく微笑んだ。
ふみの小さな笑みを見た敦は、ピタリと話しかけるのを止めるとふみの手にするりと擦り寄った。



敦「ふみさん」


ふ「何だ、人虎」


自身の名を呼んだ敦にふみは、チラリと視線を向けると敦は更にふみの手にすりすりと擦り寄った。


敦「ふみさん、本当にありがとうございます。





大好きです。」


そう言う敦にふみは、フンッと鼻を鳴らすと再びふいっと顔を逸らした。
黒い髪の間から覗くふみの耳は、赤く染まっていた。





そんな時だった。

いきなり、ふみは自身の手に違和感を感じた。



今まで、敦が触れていたふみの手がいきなりぎゅっと握られた。
それに驚いたふみは、逸らしていた顔を自身の手の方へ向けると目を見開いた。


目の前には、ふみと同じく目を見開いた、元の姿の敦がふみの手を握りベンチに座っていた。


敦「も、戻ったっ{emj_ip_0792}ふみさん、戻りました{emj_ip_0792}」


やったぁ{emj_ip_0792}っと喜びのあまりふみを抱きしめる敦にふみは、突然戻った敦に驚き固まっていたので反応に遅れてしまった。


ふ「は、離せ人虎{emj_ip_0792}」


敦「此れで正式に結婚出来ますね{emj_ip_0792}式はいつにしますか{emj_ip_0792}」


ふ「人の話を聞け{emj_ip_0792}殺すぞ{emj_ip_0792}」


怒るふみに敦は、ふみを抱きしめたままニコニコとご機嫌に言った。



敦「面倒見てくれるのでしょう?」




ふみは、その言葉に顔を真っ赤にさせながら異能を発動させると敦目掛けて攻撃したのだった。