(FGOパロ)
僕の名前は、中島敦。
故あって孤児院を追い出され餓死寸前だった所を人理継続保障機関フィニス・カルデアで働いていた太宰さんに拾われ、マスターとしての素質があったらしい僕は太宰さんの推薦により、あれよあれよと言う間にカルデアで働く事になったのだが、カルデアや聖杯・サーヴァントについての知識に関しては全くの素人であり、しかもマスターとしての素質はあるのに英霊召喚が出来ないという最悪な展開しか僕を待っていなかった。
レイシフト実験…霊子化した魔術師を過去へタイムトラベルさせるシステムの稼働実験に他のマスター候補達と携わる予定だったのだが僕は出来が悪かった為、最初のレイシフト実験からは、外されてしまった。
何をやってもダメな僕は、他のマスター候補や職員の人から哀れに見られた。
特に同じマスター候補であった芥川には「貴様は太宰さんに才能を見出していただきながらこんな事も出来ぬのか」と鼻で笑われ罵られながらも僕の鍛錬(と言う名の芥川のストレス発散)などに付き合ってくれたが結局、他のマスターや芥川の様にサーヴァントを呼ぶ事が出来ずに居た。
折角、太宰さんに拾ってもらい、働ける場所も見つかったのに僕は、役に立つ事も出来ず、自信もない…。
もう、カルデア職員も辞めてしまおう。
新しく自分に合った職業を探そう。
いつになるか分からないけど少しの間、カルデアで働いたお金あるから何とかなる筈だ。
僕は、そう思い太宰さんの元へ話をしに行こうと決心した。
そんな時だった。
カルデアで謎の爆発事故が起き、僕が目を覚ました時にはカルデアの外は…世界は…滅亡同然となってしまっていた。
僕と同じく爆発事故に巻き込まれながらも生き残った数名のマスター達は、同じく生き残った太宰さんと乱歩さん、与謝野先生のサポートを受けながら自身の召喚したサーヴァントと共に人類を救う為に特異点へとレイシフトを行い、戦う日々が始まった。
だが、僕はサーヴァントを召喚出来ない役立たず。
ましてや、カルデアを辞めようとしていた。
だけどもカルデアの外は人類…いや世界が滅亡状態の為、僕は大人しくカルデアに残るしか無かった。
他のマスター達がレイシフトでタイムトラベルをしている間、僕は、太宰さんと乱歩さん・医療チームの与謝野先生とカルデアへ残り雑用をこなし、マスターとしての力がありながら何も出来ずにただ、命を賭けて戦う皆さんの背中を僕はただ見つめる事しか出来なかった。
“マスターのなりそこない。”
其れが僕、中島敦である。
何処へ行っても孤児院の院長先生が僕に言った様に天下の何処にも僕の居場所なんて無いのだ。
僕は、そんな事を思いながらベッドに横になり何時ものように眠りについた。
深い眠りについた時、僕は不思議な夢を見た。
夢の中で僕は、暗闇の中に立っていた。
僕の夢の中なのに何故か恐ろしく、恐怖を感じた僕は、一人その場に座り込み膝を抱え顔を伏せた。
現実世界でもお先が真っ暗なのに夢の中までも先が見えない程の真っ暗闇とか本当に勘弁してほしい…。
僕が何をしたって言うんだよ。
孤児院でも役立たず扱い。
カルデアでも……僕に居場所は無い。
このまま、真っ暗闇に溶けて消えてしまえたら良いのに何て考えながらいつの間にか朝を迎えていた。
僕は、身体を起こすと寝不足で眠たい目を擦りながら服を着替え身支度を済ませた。
でも、その日は何かが違っていた。
いつもならレイシフトしたマスター達とサーヴァント、其れをサポートする太宰さんと乱歩さん達の声が聞こえる筈なのに一切声が聞こえず、静けさだけが続いていた。
僕は不思議に思い、太宰さん達がいつも居る部屋の中をひょこっと覗き込むと真剣な表情の太宰さんと乱歩さんと与謝野先生が無言で椅子に座っていた。
いつもと違う雰囲気に即座に何かが起こったのだと察した僕は、恐る恐る「何かあったんですか…?」と問い掛けると太宰さんは、何とも言えない表情で僕に言った。
「特異点へレイシフトした皆が行方不明になった。」
僕は驚き目を見開いた。
太宰さんと乱歩さんから詳しく話を聞くとレイシフトした芥川達をいつもの様にサポートしていたのに突然、芥川達と通信が切れてしまったのだと言う。
此方の何か接続が悪いのか確認したが、特に異常は見られず、もしかすると芥川達の方で何者かにより通信を妨げられているのかもしれないと太宰さん達は考えた。
皆と連絡が取れず、皆の状況がどうなっているのか生死も不明な今、此方もどうする事が出来ずに困っている状態だと乱歩さんは、飴を口に咥えそっぽを向きながら僕に教えてくれた。
敦「そんな…どうする事も出来ないだなんて…
誰か様子を見に行けないんですか?」
乱「僕達は、マスターとしての素質は無いからレイシフトしてもサーヴァントを呼ぶ事が出来ない。
武器を持たずに丸腰で戦場に行く様なものだ。」
そう言う乱歩さんの感情が表情から読み取れず、其れを聞いた太宰さんが靴の踵をコツコツと鳴らすと真剣な表情で僕の顔を見つめた。
太「現在、他のマスター達と連絡が取れない。
だが、私達は私達で如何にかしなければならない。
だから、敦くん。
君にこんな事を頼むのは、大変心苦しいのだが…。
特異点へレイシフトをしてくれないかな。」
敦「はっ{emj_ip_0793}」
突然の言葉に僕は驚き声をあげた。
だって…今…
敦「乱歩さんが丸腰で戦場に行く様なものだって言っていましたよね{emj_ip_0793}」
目を見開き驚く僕を他所に真剣な表情でじっと僕を見つめる太宰さんに僕は少したじろいでしまった。
だが、太宰さんは僕から視線を逸らすことをせず、僕に「君にしか出来ない」と言った。
敦「僕は…僕には出来ません」
太「出来るはずさ。敦くんになら」
敦「だって僕は…サーヴァントを呼ぶ事が出来ません…」
そう言うと視線を逸らす僕に太宰さんは、小さく溜息を吐いたのが僕には分かった。
あぁ、折角拾って頂いたのに…
居場所をくださったのに……
失望させてしまった。
そう、僕は思った。
太「敦くん、よく聞くんだ。
君に足りないものは自身と
一歩踏み出す勇気だ。」
敦「自身と一歩踏み出す勇気……」
鸚鵡返しのように僕が呟くと太宰さんは、コクリと頷いた。
僕は少し黙った後、「太宰さん…僕…」と口を開いた。
太宰さんは、微笑んでくれた。
太「敦くん初めてのレイシフトは、どうだい。体に異変は?」
敦「うっぷ…ちょっと気分が悪いです」
初めてのレイシフトで気分が悪くなった、僕は正直に太宰さんに言うと太宰さんは、「初めは、そう言うものさ」と笑っており、
僕は、むかむかとする胃を摩りながら木々が生い茂る森の中をキョロキョロと見渡した。
敦「森の中…ですね。」
太「気を付けてね。
此方でも敦くんが敵と遭遇しない様に色々と計測などはするけど、もしかしたら、敵により通信が妨げられる場合もあるかもしれない。」
敦「はい、気をつけながら芥川や他のマスター達を探します」
“頼んだよ”と言う太宰さんの言葉に返事をすると僕は、森の中を歩き出した。
奥へ進んで行く毎に戦った後なのか木々は倒れ地面は抉られ、焼け焦げた跡と匂いが広がっていた。
この後の先にみんなが居るのでないかと思った僕は、歩く足を早めた。
太「敦くん、周りに何が見える?」
敦「倒れた木々と焼け焦げた跡しか見えません。」
太宰さんの言葉に歩きながら答えると太宰さんは、「うむ…」と頷いた後、乱歩さんの声で「周りに洞窟とか洞穴とかは見当たらないかい?」と言う問い掛けに僕は、キョロキョロと辺りを見渡し、少し遠くに洞穴らしきものがあるのを見つけた。
敦「あります…{emj_ip_0792}洞穴らしきものが」
乱「その中に避難しているかもしれない。確認して敦くん」
乱歩さんの言葉の通り、僕は頷くと洞穴の元へ走り出し洞穴の中を覗き込みながら声をあげた。
敦「芥川{emj_ip_0792}国木田さん{emj_ip_0792}谷崎さん{emj_ip_0792}中原さん{emj_ip_0792}居らっしゃいますかぁぁ{emj_ip_0792}
敦です{emj_ip_0792}居たら返事してください{emj_ip_0792}」
叫んだが、シーンとする洞穴の中に僕は居ないのか…と思ったのだが中から聞こえたパキリっと枝の様な物を踏む音に僕は「誰か居ますか…?」と言うと「敦か…?」と聞き慣れた声が聞こえた。
敦「国木田さん{emj_ip_0792} 太宰さん{emj_ip_0792}国木田さんがいらっしゃいました{emj_ip_0792}」
太「本当かい{emj_ip_0793}あぁ、良かった…」
洞穴の中から姿を見せた国木田さんの姿を見て僕は、驚いた。
姿を見せた国木田さんはボロボロで切り傷擦り傷など、医療に関しては素人な僕でも国木田さんが負傷しているのが分かった。
敦「国木田さん…怪我を…」
国「くっ……予想以上に敵の数と力が俺達を上回っていてな…。
皆、命かながら逃げ出し身を隠していたところだった。」
“付いて来い、皆の所へ案内する”と言う国木田さんの後を僕は、遅れを取らない様に一生懸命足場の悪い中をついて行くと、少し歩いた先に明かりが灯されているのが見えた。
其処には、芥川に中原さんに谷崎くんとサーヴァントの方々が傷だらけの姿で座っていた。
みんな、僕の姿を見て目を見開き驚いた様な表情をしており僕は、そんなみんなの表情を横目に担いでいた鞄から与謝野先生から預かった道具を取り出し手当を始めた。
中「悪りぃな、中島。」
敦「い、いえ…僕には、此れしか出来ないので」
谷「本当に敦くんが来てくれて助かったよ。
太宰さん達と連絡がつけれなくて魔力供給も回復も出来なくて困ってたんだ。」
中原さんの手当てをしながら横にいた谷崎さんが困った様に笑う姿に僕は、こんな事しか出来ない自分は、本当に役立たずだと思い知らされた。
芥「ふん……サーヴァントを召喚出来ぬ癖にレイシフトなど命を無駄にしに来た様なものだ。役立たずは、早く帰れ」
みんなより傷だらけの芥川がそっぽを向きながら僕に言ったが僕は、言い返す事はしなかった。
だって本当の事だったからだ。
“君に足りないものは、自身と一歩踏み出す勇気だ”
やっぱり僕には…。
そんな時だった。
太「みんな聞こえるかい?今すぐその洞穴から出て逃げるんだ{emj_ip_0792}
敵が近くに迫っている。」
突然、太宰さんの焦った様な声が聞こえ、僕達は目を見開き太宰さんの言葉に驚いた。
敦「嘘っ{emj_ip_0793}本当ですか{emj_ip_0793}」
太「残念ながら本当だよ。
早くその洞穴の中から出ないと皆、生き埋めになってしまう{emj_ip_0792}」
太宰さんの言葉に僕達は、急いで洞穴の中から逃げ出し走り出したが逃げた先には敵が居り、前も後ろも敵に囲まれ逃げ場が無く僕達は、如何する事も出来なくなってしまった。
中「チッ……魔力が回復してねぇがやるしかねぇか…」
芥「……人虎、貴様は下がっていろ。」
何も出来ない役立たずの僕を芥川や中原さん達は、背に隠す様に前に出た。
国木田さんや谷崎さんもサーヴァント達に指示を出し敵に立ち向かって行ったが負傷者ばかりの此方に比べて無傷で多数である敵に対して力の差は歴然だった。
倒れていくみんなのサーヴァントに更に傷を負うマスター達。
そして何も出来ずに立ち尽くす僕。
そんな僕に傷だらけの芥川が言った。
芥「貴様だけでも逃げろ」
敦「そんな事…っ{emj_ip_0792}出来るわけないじゃないか{emj_ip_0792}」
叫ぶ僕に国木田さんは、僕の肩を掴み言った。
国「俺達は、負傷している。逃げる事は難しいだろう。
だが、此処でマスターが全滅してはならないっ{emj_ip_0792}
何故なら未来を守る為に戦わねばならないからだ{emj_ip_0792}」
“だから、敦。お前は、逃げろ。”
“俺達の為に…”
“未来の為に”
傷だらけなのにそう言う皆んなに僕は、頬に涙が伝うのが分かった。
僕は、自分の事ばかり考えていた。
未来とかそんな事よりただ、自分は役立たずだと決めつけて周りを見ようとしなかった。
そんなんじゃ、サーヴァントなんて召喚できないのは当たり前じゃないか。
国木田さん達は、逃げろと言った。
だけど、僕は逃げたくない…っ{emj_ip_0792}
お願いです。
僕の声を聞いてください。
僕に力を貸してください。
僕は、如何なってもいいから…
“皆さんを助けてください{emj_ip_0792}”
そう、祈った時だった。
“その想い、忘れるなよ”
何処からか透き通った様な少女の声が聞こえた。
その瞬間、辺り一面が目を開けれない程の光に包まれ砂煙と凄まじい地を割る様な音が聞こえた。
あまりの眩しさに目を瞑る僕達を他所に眩い光は、次第に収まり僕達は恐る恐る瞑っていた目を開けると砂煙の舞う真ん中に一人の黒髪の少女の後ろ姿が見えた。
唖然とする僕達に黒髪の少女は、ふわりと黒い髪を揺らしながらゆっくり振り返る姿に僕は、ドキンっと心臓が高鳴るのが分かった。
光がないのに黒真珠の様に美しい瞳に芥川と同じく黒い髪に毛先の色素が薄い横髪、
そして、芥川と似た顔立ち…
芥川にそっくりだが芥川には無い丸みを帯びてしっかり凹凸のあるスラリとした身体に艶やかな唇と白い肌が彼女が僕の知っている芥川では無いと証明していた。
どくどくっと早まる心臓に僕は戸惑い胸を服の上から抑えたがその動悸は、止まる事が無かった。
黒髪の少女は光の無い瞳を僕に向け、スッと目を細めるとフリルのついた服の袖で口元を隠しながら口を開いた。
「お初にお目に掛かる。
私の名は、ふみ。
クラスは、アサシン。
其処の男により召喚されしサーヴァントだ。」
ふみと名乗ったサーヴァントは、スッと白い指を僕へと向けた。
敦「ぼ…僕が…っ?」
サーヴァント…ふみさんは、コクリと頷いた。
ふ「“貴様が皆を助けたい”と願ったから、私は其れに応えた。
さぁ、命令を…マスター。」
僕のサーヴァントだと言った彼女は僕をじっと見つめ、僕はギュッと自分の手を握ると叫んだ。
「みんなを護りたい…っ{emj_ip_0792}
だから、僕に力を貸してくださいっ{emj_ip_0792}」
そう言うと彼女は、不敵に微笑んだ。
「御意」
彼女は、くるりと辺りを見渡し笑うと美しく何処か不気味さを含んだ声で言った。
「生きて帰れると思うなよ。」
彼女が呟いた瞬間、彼女の足元に光のサークルが現れたかと思うと敵は、いつの間にか半透明の糸の様な物が巻きつき逆さに吊るし上げられていた。
そして…
「一度捕らえた相手は絶対に逃さぬ…。」
【宝具・蜘蛛の糸】
そう言い、彼女がクイッと指先を動かすと敵は、半透明の糸に切断されバラバラと無残な姿となり、そして、いつの間にか傷だらけだった芥川達のサーヴァントの傷が消えていた。
中「攻撃に回復を兼ね備えた宝具か…」
谷「凄い…」
唖然とする僕達を他所にふみさんは、その美しい黒髪を揺らしながら倒れていく敵に微笑んでいた。
そう、此れが僕のサーヴァントで僕の愛しい人になったふみさんとの出会いであった。
敦「ふぅぅぅぅぅぅみぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁんんんん{emj_ip_0792}」
太宰がコーヒーを飲みながら次の特異点へのレイシフトに向けて情報を集めている時であった。
突如聞こえた敦のふみを呼ぶ叫び声と共に乱暴に開かれた扉に太宰は驚いた表情を見せる事無く、苦笑いすると「如何したんだい?敦くん」と敦の名を呼んだ。
敦は、太宰に近づき太宰の肩をがっしりと掴み「ふみさん、見ませんでしたか{emj_ip_0793}」と太宰に問いかけたが太宰は、ヘラリと笑い「見てないよ」と答えた。
あの日、ふみのお陰で無事に聖杯を回収した敦達は誰一人欠ける事無く、カルデアへと帰還した。
マスターである敦に手を引かれながら訪れたカルデアにふみは特に驚く事もせず、敦は初めてのサーヴァントを召喚出来て嬉しかったのかニコニコとしており、ふみがブンブンと手を上下に振っても離そうとしなかった。
敦の行動に不思議に思った太宰が「敦くん、彼女の手を離してあげたら?」と言うと敦は、輝かしい笑顔で「夫婦が一緒にいるのは、当たり前だと思うんです」と言い放った。
その言葉に太宰と乱歩と与謝野は、驚き、ふみを見るとふみは、嫌そうな表情を浮かべていた。
ふ「貴様らこの螺子の外れた奴と同じ機関の者だろう。
先程から、“一目惚れしました{emj_ip_0792}”や“一生添い遂げますね{emj_ip_0792}”とか訳の分からぬことを言い始めたのだが如何にかしろ。」
再び、敦と繋がれた手を嫌そうに上下に振るふみに敦は、うっとりとした表情を見せると「不敵に笑い…戦う姿が美しく僕の心を鷲掴みにし離してくれませんでした。そう、僕は、ふみさんに一目惚れしたんです{emj_ip_0792}」と普段の敦からは、想像も出来ない様な姿に太宰達の開いた口が塞がらなかったのを太宰は、思い出していた。
少し前迄は落ち込み、自分は役立たずだと言って嘆いていた少年が今は嬉しそうに自身のサーヴァントを追いかけ回すだなんて…
敦「ちょっと、太宰さん?聞いてますか?」
太「んっ?あぁ、なんだい?」
話し掛けているのにボーッと考え事をして返事に応えない太宰に敦は痺れを切らし、太宰の目の前で手を振ると太宰は、ハッとした様に我に返り敦の言葉に反応を見せた。
敦「ふみさんを見てないなら、ふみさんが行きそうな場所知りませんか?」
太「食堂は?」
敦「一番最初に行きましたが居ませんでした。」
太「医務室」
敦「居ませんでした。」
太「談話室は?」
敦「居ませんでした」
太「なら…芥川くんのところかなぁ?」
“何故か芥川くんとふみちゃん似てるしふみちゃんなんか芥川くんに懐いてるし”と太宰が言うと敦は、ムッとした様な表情を見せた。
敦「芥川に似てるとか別に其処は、如何でも良いんですが、芥川に懐いてるのが凄くムカつきます{emj_ip_0792}」
僕のサーヴァントなのにぃ…と嘆く敦に太宰は苦笑いすると項垂れる敦の頭をポンと撫でた。
太「大丈夫だよ、敦くん。
ふみちゃんは芥川くんなんかより君の事が大好きさ。」
太宰の言葉に敦は、少し落ち込んだ様に微笑み「そうですかね…?」と呟いた。
太「敦くん。
ふみちゃんが本当に君の事が嫌いなら君を暗殺して亡き者にし今頃、消えているはずさ」
“それ程の力があるし実力もあるのにそれをしない”
太「少なからず、ふみちゃんは君を認めているんだよ。」
ニッコリと微笑む太宰に敦は、コクリと頷くと「ふみさんの事、探して来ます{emj_ip_0792}」とバタバタと慌しく部屋を出て行ったのだった。
太「ふぅ…やれやれ。
もう行ったよ、ふみちゃん。」
太宰の机の下がガタリッと音を立てたかと思うと机の下からのろのろと長髪黒髪の少女が這い出てきた。
黒髪少女もとい敦のサーヴァントで敦の永遠の嫁(敦が勝手言っているだけ)であるふみは、不機嫌そうな表情を浮かべていた。
ふ「人が出れないことを良い事に好き勝手言いおって」
眉を寄せるふみに太宰は、机に肩肘を付きながら「おや?私は何か変な事を言ったかな?」と惚けたように笑った。
ふ「“認める”と言う言葉は、理解出来るが“嫌い”や“好き”などの感情などサーヴァントとマスターの間には不要な感情だ。」
口元を服の袖で隠し、そっぽを向くふみに太宰は、笑顔を向けたまま「恋は良いものだよぉ〜」と戯けた様に言うと身振り手振りを交えながらふみに恋や愛について語り始めた。
ふみは、太宰の話に鬱陶しそうな表情を浮かべた。
ふ「サーヴァントとマスターが恋をしたところで全てが終われば私達は消える存在。
故にその様な感情は、必要ない。」
太「でも、少なからず敦に何かを感じたから彼の元へ来たのだろう?」
太宰に言われた言葉がふみの図星をついていたのかふみは、ピタリと話すのを止め無言になった。
そんなふみに太宰は、「恋って素敵だよ。」と再び言った。
だが、ふみは何も言わずに目を伏せるだけだった。
太「ふみちゃん…
君が望むなら聖杯で“人間なりたい”と願う事も可能だよ。」
しんっとする室内に太宰の声が響き渡った。
ふ「………。
嘗て……
サーヴァントだった貴方がそう願った様に?」
ふみがチラリと視線を太宰に向けながら言った言葉に太宰は、一瞬だけ目を見開き驚くと直ぐににこやかな笑みを浮かべた。
太「何の事かな?」
笑う太宰にふみは、ふっと意地の悪い笑みを浮かべると「貴方が余計な事を言わなければ、私も何も言わぬ。」と言うとくるりと踵を翻し太宰に背を向けると扉の元へと歩いて行った。
扉のノブに手を掛け一歩足を踏み出した時、ふみがピタリと足を止めた。
そして振り返る事なく口を開いた。
ふ「………もし、
もし…この戦いが終わり、その後、
彼奴が本気で私が欲しいと望むなら……。」
“その時は、人間になる事を考えてやらん事もない”
そう言うとほんのり赤く染まった耳を隠す様にふみは、勢いよく扉を閉めて出て行った。
扉の向こうから「ふみさん{emj_ip_0792}見つけましたよ{emj_ip_0792}」と言う声に太宰は、一人微笑んだのだった。
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