もちあつみにふみクリスマス


「サンタクロースはクリスマス・イヴに眠っている良い子の枕元にクリスマスプレゼントを届けに来る人なンだよ」


12月に入った頃、武装探偵社社員である谷崎潤一郎は探偵社の自身のデスクにサンタクロースの絵本を広げながら敦とその恋人であり、元ポートマフィアでリストラされ現在・喫茶うずまきで働くふみが拾って来た不思議生物である敦とふみに似た不思議生物であるもちあつとみにふみに絵本を読んであげていた。

何故、絵本を読んであげる事になったかと言うと太宰の「12月か、クリスマスだね」と言う言葉に国木田のデスクの上で鉛筆と消しゴムを持ち、お仕事のお手伝いをしていたもちあつとみにふみがクリスマスと言う言葉に反応し「くりすます?なんだそれ」「たべもの?たべもの?」と言う様に「ちー?ちー」「うー?うー?」と首を傾げながら鳴いていたからであった。

それに気がついた谷崎は二匹に近づくと声を掛けた。

「もちあつくん、みにふみさんはクリスマスは初めてかな?」

谷崎がそう言うと机の上にいる小さな二匹は、こくこくと首を縦に振ると「うー?」「ちー?」とお互いに顔を見合わせて二匹にだけ分かる会話をするとみにふみは手に持った自身より大きな鉛筆で近くにあったメモに文字を書き始めた。

“くりすます、たべもの?”

小さい子が書いた様な文字で書かれたその言葉に谷崎は微笑むと「そう言えば…」と何かを思い出したかの様に書庫へと足を向けた。

二匹は再び顔を見合わせると首を傾げたのであった。

数分後、二匹の元へ再び谷崎が現れた。
片手には赤い背表紙の絵本があり、谷崎は二匹に「クリスマスの絵本だよ。前に書庫にあったのを持って来たンだ」と言うとデスクの椅子に座り、絵本を机に置くと二匹はとてとてと谷崎の手元に近づき絵本に視線を向けた。

谷崎は二匹が絵本に視線を向けた事を確認するとクリスマスについて描かれた絵本を開き、二匹に読み聞かせ始めたのであった。



「はい、お終い」


そう言いながら谷崎が二匹に視線を向けると二匹はキラキラと目を輝かせていた。
二匹は、谷崎の読んでくれた絵本を再び捲るとサンタクロースの話が描かれたページで捲る手を止め、小さなその手でぺしぺしとサンタの絵を叩くと谷崎にキラキラとした視線を向けた。

「サンタクロースの話が気に入ったのかな?」

“二人とも良い子だからきっとサンタさんが来るよ”と言いながら二匹の頭を指で撫でると二匹は「うー!」「ちー!」と嬉しそうに鳴いた。

「もちあつ、みにふみさん、谷崎さん」


はしゃぐ二匹と谷崎の背後から依頼で探偵社を出ていた敦が声を掛けた。

「お帰り、敦くん」

「うーうー{emj_ip_0792}」
「ちーちー{emj_ip_0792}」

谷崎が敦に声を掛けるとそれに続いて二匹も「おかえりなさい」と言う様にふりふりと手を振った。
敦も二匹と谷崎に「ただいま帰りました」と挨拶すると何かを思い出したかの様に自身のデスクまで歩き、引き出しから何かを取り出すと再び二匹と谷崎の元へ戻り、小さな便箋と封筒を二匹に差し出した。

「う?」
「ちぃ?」

「なにこれ?」「なんだ?」と言う様に不思議そうに首を傾げる二匹に敦は微笑み、口を開いた。

「サンタクロースにどんなプレゼントが欲しいかお手紙を書くんだよ。そしたらサンタさんがクリスマス・イヴの夜に枕元にクリスマスプレゼントを置いてくれるんだ」

敦が二匹にそう説明すると二匹は更に目をキラキラと輝かせると敦の手に持つ便箋と封筒を「かく!おてがみかく!」「ちょうだい!かみちょうだい!」と小さな両手を広げるとぴょんぴょんっと飛び跳ねた。
そんな二匹の姿に敦と谷崎は顔を見合わせてニッコリと微笑んだ。



「うー?」
「ちー??」
「うーう!」
「ちーぃちーちー」
「うー{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}{emj_ip_0793}」

自身たちにのみ解る会話をしながら楽しそうに手紙を書く二匹を見つめながら同じく隣に居た谷崎に敦は「ありがとうございます」とお礼を言った。
突然の敦からのお礼に谷崎は「え?」と返事をすると敦は困った様に眉を八の字にすると「実は…ふみさんと一緒に二匹にクリスマスプレゼントを挙げようって話になったんですけど…」と言うと気まずそうに視線を逸らした。

「僕もふみさんも聴きだすのが下手過ぎて…」

「中々、聞き出せなかったんだね…」

谷崎が敦にそう言うと敦はコクリと頷いた。

実は、敦とふみは11月後半ごろから二匹に対して『何か欲しいものは無いか?』などと聞いていたのだが二人とも聴き出し方が悪く、また、クリスマスを知らなかった二匹は「ほしいもの?はかたとおりもん!はかたとおりもんがたべたい{emj_ip_0792}」「ぼくは、ちんすこう{emj_ip_0792}」と現在、自身が食べたいものを紙に書き、うーうーちーちーと鳴きながら強請って来た。

しかも何故か旅行に行かないと買えない品物ばかりであった。

そんな失敗ばかりを繰り返した二人は困り果て、ふみは『矢張り、シルバニアファミリーの赤い大きなお家を…』と自分が二匹に買って遊んで欲しい物をプレゼントしようとしていた。

「二匹は、普段うーとちーしか鳴かないので何が好きなのか嫌いなのか読み取るのが大変なんですよね…」

“ふみさんの好きな物や欲しいものは幾らでも分かるんですけどね”


やっと振り向かせる事が出来、しかも現在同棲までしている自身の大好きで愛おしい彼女を思い出したのか敦は幸せそうに笑うと再び、机の上にいる二匹に視線を戻した。


「クリスマスは、ふみさんと二人きりじゃなくていいの?良ければウチで二人を預かるよ?」

“ナオミも喜ぶし…”と谷崎が言うと敦は「ありがとうございます。でも大丈夫です」と言った。


「二匹を含めての大切な人達との特別な日ですから」


その言葉に谷崎は微笑んだ。




その後クリスマスの事を知ってからもちあつとみにふみは、毎日の様に谷崎が読んでくれた絵本を持って来ては読んでくれと言わんばかりに谷崎に頼み込み、街中でクリスマスのツリーや小物を見ては楽しそうに目をキラキラと輝かせ、はしゃぐ二匹にふみが手作りでサンタの衣装とトナカイの角と鼻を作ってやると更に二匹は喜び、毎日つけて出社しようとする程、クリスマスを楽しみにしていた。


12月24日
武装探偵社では、探偵社員と其々の大切な人達を招き、クリスマス会が行われていた。
その中に普段は喫茶うずまきで働く、敦の恋人であるふみも二匹と共にクリスマスパーティーに参加していた。
この日の為に設置された大きなクリスマスツリーに二匹は興奮した様に頬を染めながら周りをウロウロとうろつき、みにふみがもちあつに跨るともちあつは、そのまま全力疾走でクリスマスツリーを駆け上ろうとしたのを敦とふみは全力で止めたのであった。

その後、谷崎が作った手作りケーキを二匹は幸せそうに頬張っていると敦とふみを除く、探偵社員の皆から名前を呼ばれた二匹は口元に沢山のクリームをつけたまま「うー?」「ちー?」と返事をすると皆から「はいっ{emj_ip_0792}どうぞ{emj_ip_0792}」とクリスマスプレゼントを渡された。

「うー{emj_ip_0793}」
「ちーちぃ{emj_ip_0793}」

驚きながらも皆からのクリスマスプレゼントに目を輝かせ、二匹で自身達より大きな箱のプレゼントを受け取るとお礼を言う様に「うーうー{emj_ip_0792}」「ちーちー{emj_ip_0792}」と鳴きながら何度も二匹は頭をぺこりぺこりっと下げた。

「良かったね{emj_ip_0792}もちあつ、みにふみさん{emj_ip_0792}」
『大切にするんだぞ』

敦とふみがそう言いながら二匹の頭を撫でると二匹は嬉しそうにぎゅっと箱に抱きつき、ふにゃりと笑った。


夜の10時を過ぎた頃、クリスマスパーティーを終えた敦とふみは二匹をいつも探偵社に行く時に運ぶ小さな手提げに入れながら探偵社の寮で一人暮らしを始めた鏡花を送り届けると自身達も部屋へと帰宅した。
帰宅して一息をつく敦とふみに対して二匹は一生懸命、自分達より大きなプレゼントの包装紙を外しては中身を見てぴょんぴょんと喜び、敦とふみにまるで小さい子供が貰った事を自慢するかの様に「みてみて{emj_ip_0792}もらったの{emj_ip_0792}」と見せた。

そんな二匹に敦とふみは顔を見合わせて微笑んだ。


一時間後、風呂に入り、髪を乾かし終えた二匹は普段は9時ごろに寝ていた為、眠気に対して限界を迎えていたのか、みにふみは座ったままコクリコクリと船を漕ぎ始め、もちあつに至っては、机の上でべたーんと寝そべっていた。

『こら、寝るなら自分達の寝床で寝ろ。風邪を引くぞ』

ふみが二匹を指でツンツンと突くと二匹は「*ー…」「ぢぃー」と眠たい目を擦るとふみの手にすりすりと擦り寄り、おやすみの挨拶をするともちあつは、みにふみの首根っこを咥えるとずりずりと引きずりながら自身達の寝床である部屋の隅に置かれたふわふわのハンカチを敷いたパ●の実の箱へともぞもぞと潜り込んで行ったのであった。

「よっぽど眠たかったんですね。みにふみさんなんて何時もは、あんな運ばれ方したら怒るのに抵抗しなかったですよ」

ふふっと笑う敦にふみも優しげに目元を細めた。

『普段は九時には就寝するからな、だが今日は余程楽しい日だったのだろう。
何せ、あれだけ楽しみにしていたクリスマスだ、眠気も吹き飛ぶ程に楽しかったのであろう』

そう言いながらパ●の実の箱の中から聞こえる「ぷすぅ〜ぷすぅ〜」「くぅ…くぅ…」と言う寝息に敦とふみは顔を見合わせるとどちらからとも無く顔を見合わせて、額をコツンと重ねるとお互いに微笑み、唇を重ねた。


「メリークリスマス、ふみさん」

『メリークリスマス…敦』







時計の針が深夜二時を過ぎた頃、敦とふみが眠る枕元に小さな影が二つあった。

小さな影は眠る敦とふみの様子を伺う様に覗き込み、よく眠っているのを確認した後たたたたたっと窓際まで走ると窓を少し開けて小さな二つの影は、ぴょーんっと外に飛び出して行ったのであった。






朝、四時半
目を覚ました敦は隣に居るであろうふみに視線を向けた。
其処には敦の隣ですやすやと眠るふみの姿があり、その姿に敦は幸せそうに頬を染め微笑むとぎゅっとふみを自身の腕の中に閉じ込める様に抱きしめた。

『んっ…なんだ、じんこ…』

息苦しさから目を覚ましたふみは敦に何事かと問いかけたが敦は「あはは、すいません。ぎゅってしたくなりました」と人の睡眠を邪魔したのに悪びれた様子も無くふみに笑いながらそう言うと再びふみを抱きしめた。

『貴様…その為に私をいつもより早く起こしたのでは無いだろう』

ふみがジロリと敦を睨みつけると敦は当初の目的を思い出したのか「そうでした」と言うとふみは呆れた様に溜息を吐いた。

『サンタさんを信じてるちびーずの為、早起きしてプレゼントを枕元に置くと言ったのは貴様だろうが』

「えへへ、起きたらふみさんが居たので嬉しくて、つい忘れてました」

嬉しそうに笑う敦にふみは再び呆れた様に溜息を吐くと上半身を起こし、枕元に置いていた目覚まし時計で時間を確認しようと視線を向けた時であった。

ピタリと動きを止めたふみに敦は不思議に思い「ふみさん?」と名を呼びながら自身も上半身を起こし、ふみの視線を辿ると…


其処には小さな手乗りサイズのリボンが付いた小さな箱が置かれていた。


昨日の夜に目覚ましを設置した際には無かった物が其処にある事にふみと敦は、お互いに顔を見合わせて目をキョトンとさせるとふみは、そのリボンが付いた手乗りサイズの箱を手に取った。

『何だこれは…』

「昨日は無かったですよね…?」

敦の言葉にふみはコクリと頷くと恐る恐る、箱のリボンを紐解、意を決して蓋をパカリと開けた。


「え…{emj_ip_0793}」

『此れは…』


開けた箱の中身に敦とふみは目を見開いた。


箱の中身は、ビー玉・おはじき・飴の包み紙・ピノの食べる棒やアイスの当たりの棒…紙風船や折り紙の鶴…そして綺麗などんぐりなどが沢山詰め込まれていたのであった。

側から見ればガラクタに見える中身に敦とふみには見覚えがあった。

其れは敦とふみと共に住む小さな不思議な生き物である、もちあつとみにふみがとても大切にしていた品々であったからだった。

どんぐりは二匹がト●ロを見て、「どんぐりどんぐり!」「ほしい!どんぐりほしい!」と影響された二匹が秋に公園に連れて行ってもらった際に拾い、ビー玉やおはじきは二匹と遊んでくれる乱歩に強請り貰ったものであり、アイスの当たり棒に至っては、ふみと同じくよく食べるみにふみのへそくりだった。

そんな大事な物が箱に一纏めにされていた事に敦とふみは驚いていた。

『ちびーずの大切な物が何故この箱に…』

ふみがポツリと呟いていると隣に居た敦は、ハッと箱の中に小さな白い紙が入っているのが見えた。
敦は箱の中から白い紙を拾い、広げると其処にはメッセージが書かれていた。



“だいすきなおおきいじんこ と だいすきなおおきいふみさん へ”

“いつも ありが と ぅ ”

“こ れから も いっ しょ に いて くだ さい{emj_ip_0792}”

“ぷれぜんと おくります”


“さんたく ろーすより”


明らかにもちあつとみにふみが書いたであろう文字に敦とふみは胸が温かくなり、二匹の一生懸命に思いを伝えようとする姿に嬉しさで涙が溢れそうになった。


『大切な物なのに…私達にくれるのだな』

「大切にしなきゃいけませんね」


そう言うとふみは自身の手の中にある小さいけれど大きな想いの詰まったプレゼントをぎゅっと胸に抱締めると隣に居た敦に『人虎』と呼び掛けた。

敦は、ふみの呼びかけに微笑むと押入れから包装されたプレゼントを取り出すとふみと共にゆっくりと二匹の寝床へと近づいた。

其処には、眠る前には着ていなかったサンタの格好をしたみにふみとトナカイの格好をしたままのもちあつが「ぷすぅ〜ぷすぅ〜」「くぅ…くぅ…」と大の字になって眠っていた。


敦とふみは、その姿に顔を見合わせると微笑み、小さなサンタとトナカイの枕元にプレゼントを置いたのであった。









「う?うぅぅぅっ{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}{emj_ip_0793}{emj_ip_0793}」
「ち?ちぃぃぃぃぃぃぃっ{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}{emj_ip_0793}{emj_ip_0793}」

朝起きたもちあつとみにふみは、枕元に置かれていたプレゼントに気がつくと驚いた様に目を見開いていた。
「なんで{emj_ip_0793}なんでぷれぜんとがあるの{emj_ip_0793}{emj_ip_0793}」「さんたか{emj_ip_0793}さんたがきたのか{emj_ip_0793}{emj_ip_0793}」と言う様に驚き、鳴いた後、プレゼントの包装を剥がした。

そしてプレゼントの中身にキラキラと目を輝かせた。

「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}」
「ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}」

プレゼントの中身は二匹が欲しがっていた大好きなト●ロの中ぐらいの大きさのぬいぐるみであった。
中ぐらいのサイズと言えど、小さな体の二匹には大きく、二匹は目を輝かせながらト●ロのぬいぐるみのお腹へと抱きついたのであった。


その後、探偵社に出社した皆から敦とふみは、もちあつトナカイとみにふみサンタが探偵社全員の家にプレゼントと言う名の飴玉と小さな手紙を届けに行っていた事を知るのであった。




「うーうー!」
「ちーちー!」



めりーくりすます{emj_ip_0792}