誕生日夢

バレンタインも終わった二月後半。

「もうすぐ、ふみさんの誕生日だなぁ」

猫じゃらしで仕事をサボる太宰をべしべしと叩いていたもちあつとみにふみは太宰の隣のデスクで仕事をしていた敦の呟きにぴたりと手を止めた。

「あぁ、もうそんな時期かい。敦くん今年は何をプレゼントするんだい?」

先程まで仕事をサボり猫じゃらしで小さな二匹にべしべしと叩かれていた太宰が敦に問い掛けると動きを止めている二匹に気づく事なく「今年は、お揃いの物をプレゼントにしてみました{emj_ip_0792}」とにこにこと笑いながら書類を作成する手をの止めない敦に二匹は我に返ると叫ぶ様に鳴きながら敦の手に飛びついた。

「うー{emj_ip_0793}(なんていった{emj_ip_0793})」
「ちー{emj_ip_0793}(なんて{emj_ip_0793})」
「わぁ{emj_ip_0793}何々{emj_ip_0793}どうしたんだ{emj_ip_0793}」

突然、引っ付いて来た二匹に敦は驚きながら問い掛けるが二匹は敦の手をぺしんぺしんと叩きながら「いいから{emj_ip_0792}」「さっきのことばをもういっかい{emj_ip_0792}」と言わんばかりに鳴くが敦には通じておらず、ただ二匹が怒っている様にしか見えなかった。

「め、メモ{emj_ip_0792}メモに何が言いたいか書いて{emj_ip_0792}」

敦がそう言うと二匹に鉛筆とメモ帳を渡すと二匹は素早く受け取り、かりかりと敦に伝えたい事を書き始めた。
数秒後、書いた文字を見せる様にみにふみともちあつはメモをべしべしと叩き、敦と隣で様子を見ていた太宰がそのメモに視線を向けた。

【おっきいわたし もうすぐ たんじょうび?】

二匹は敦に視線を向け「うー?」「ちー?」と尋ねる様に首を傾げた。

「そっか…もちあつとみにふみさんは知らなかったね。


そうだよ、三月一日は、ふみさんのお誕生日だよ」

“あ、後、芥川もね”と言う敦に二匹は、知らなかった…と言う様にガーンっと落ち込んだ様に肩を落とした。
そんな二匹に太宰と敦は顔を見合わせると首を傾げ、敦は二匹に「そ、そんなに落ち込まなくても…」と声をかけるもちあつはメモに何かを書いた。

【ふみさん ぼくを みつけてひろってくれました

あのひ ぼくは ふみさんがみつけてくれなかったら しんでたかもしれない

ふみさんのおかげで みにふみさんにも あえました

いのちのおんじんの うまれたひ ちゃんと おいわい したいです】

もちあつが書いた文字にみにふみが続ける様に文字を書いた。

【おてつだいした おかね ある おっきいわたしにぷれぜんとしたい{emj_ip_0792}

ごはんつくってくれてありがとうしたい{emj_ip_0792}

やさしくしてくれてありがとうしたい{emj_ip_0792}

わたしとあってくれてありがとうもしたい】

したい{emj_ip_0792}したい{emj_ip_0792}とやりたがりの小さい子の様に手をぶんぶんと振るもちあつとみにふみに敦は微笑むと一つのある提案をした。

「なら、みんなでふみさんの誕生日会しようか{emj_ip_0792}」

その言葉にもちあつとみにふみは大きく頷いた。




その日のお昼過ぎ、何時もの様にお昼を食べた後、もちあつとみにふみは早速、誕生日会に向けて行動し始めた。
以前、鏡花から貰った折り紙を探偵社の隅に設置された棚にある玩具箱から取り出すとふみの誕生会をする為の飾りを作り始めた。
次の日もまた次の日もお昼寝の時間さえも使って作業をするもちあつとみにふみを見ていた探偵社社員達が仕事の空いている時間に大切な人の誕生日をお祝いする為に頑張って準備をする小さな頑張り屋さん達の為に飾りを作ったり準備するのを手伝ってくれたのであった。

そして、また武装探偵社社長・福沢諭吉もその様子を見ていたのか…それとも誰が社員から話を聞いたのかふらりともちあつとみにふみが作業している机の場所に現れたかと思うと「当日は社の会議室を使うが良い」と伝えると二匹に煮干しを手渡し、二匹はキラキラと目を輝かせながら煮干しを片手にありがとうございます{emj_ip_0792}と言う様に「うー{emj_ip_0792}」「ちー{emj_ip_0792}」と鳴くと何度も頭をぺこぺこと下げた。



そして、三月一日、ふみの誕生日当日。

自分に無頓着であるふみは自分の誕生日である事など気に止めることも無く、朝、起床すると何時もの様に隣に幸せそうに眠る敦と寝相の悪い二匹を起こし朝食を食べ、敦とふみと二匹は、それぞれの職場(お互いに同じビルだが)に出勤する為に家を出た。

ふみが喫茶うずまきの扉を開けて中に入って行くのを敦ともちあつとみにふみは手を振りながら見送ると敦が「さぁ、もちあつにみにふみさん{emj_ip_0792}準備、頑張ろう{emj_ip_0792}」と言うと二匹は大きく頷き、鳴いた。

「うー{emj_ip_0792}(がんばります{emj_ip_0792})」
「ちー{emj_ip_0792}(びっくりさせてやる{emj_ip_0792})」









時計の針が夕方の五時を示した頃

いつもと同じ時間にふみは探偵社で預かってもらっている二匹を迎えに行く為に探偵社がある階へと続く階段を上り、探偵社の扉を叩くと扉を開けのだが、いつもとは違い、探偵社の中に人の姿は無くシンと静まり返っていた。

様子がいつもと違う事にふみは首を傾げながら『鍵を開けたまま皆、留守にするとは不用心だな』と呟くとポケットから携帯電話を取り出し、恋仲である敦に連絡を取ろうとアドレス画面を開いた時であった。

「うー{emj_ip_0792}」
「ちー{emj_ip_0792}」

突然聞こえたもちあつとみにふみの鳴き声にふみは携帯電話に向けていた視線を鳴き声が聞こえた方へと視線を向けると其処には敦に与えられた作業机の上にもちあつともちあつに跨ったみにふみがちょんっと乗っていた。
ふみは、二匹の姿を確認すると『失礼する』ともちあつとみにふみしか居ない室内に一応
断りを入れてから足を踏み入れ、二匹の元へと近づいた。

『ちびーず、他の物は皆出払っているのか?』

ふみが二匹に尋ねると二匹は否定する様に首をぶんぶんと横に振った。

「うー!(ふみさん!)」
「ちー!(ついてきて!)」

『あ、こらっ{emj_ip_0792}ちびーず何処へ行くつもりだ{emj_ip_0792}』

二匹は、ふみに向かって鳴くともちあつは、みにふみを背中に乗せたまま、たたたたっと机の上を素早く走ると机からぴょーんと飛び降りて、少し足を進めてからピタリと足を止め、くるりとふみを振り返るともちあつともちあつの背に跨っているみにふみは「はやくはやく{emj_ip_0792}」「こっちこっち{emj_ip_0792}」と言う様にふみを手招きした。

『おい…その先は、関係者以外は立ち入り禁止だろう。
貴様等は良いかも知れぬが私は探偵社の人間ではないぞ』

ふみが眉を顰めながら言うと二匹は「いいの{emj_ip_0792}いいの{emj_ip_0792}」「はやく{emj_ip_0792}はやく{emj_ip_0792}」と「うー{emj_ip_0792}うー{emj_ip_0792}」「ちー{emj_ip_0792}ちー{emj_ip_0792}」と鳴くのでふみは小さく溜息を吐くと『怒られても知らぬぞ』と呟きながら二匹の後を追った。

たたたたたっと走る二匹を見失わない速度でふみも後を追いかけると二匹は、少し隙間が開いた扉の前で一度ピタリと止まり、ふみを振り返ると二匹は元気良く「うー{emj_ip_0792}」「ちー{emj_ip_0792}」と鳴き、二匹は開いた扉の隙間からするりと中に入って行ってしまった。
その光景にふみは、またしても困った様に溜息を吐くと扉の前まで足を進め、二匹が入って行ってしまった部屋の扉をノックをすると扉の取っ手に手を掛けた。


『失礼する。此方にうちのちびーずが……{emj_ip_0793}』


ふみがそう言いながら扉を開けると突然、破裂音が響き渡り、目の前では色取り取りの紙吹雪と紙テープが綺麗に舞った。


「「「「「「お誕生日おめでとうございます{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}」」」」」

紙吹雪で視界が遮られる中、聞こえてきた声と飾り付けされた部屋を見てふみは訳が分からずピシリと固まってしまい目を丸くさせる事しか出来なかった。

『あ…え、あ…??』

“な、何だ。この状況は{emj_ip_0793}”

探偵社社員が勢揃いする光景に目をキョロキョロとさせながら頭に疑問符を浮かべるふみに皆が顔を見合わせて笑うと敦が状況を説明する為にふみに近づいた。
その敦の肩には先程、ふみをこの部屋迄連れて来た二匹が乗っており、二匹とも嬉しそうな表情を浮かべているのが分かった。


『人虎、此れは…一体…』

「今日は三月一日、ふみさんのお誕生日でしょう?」

敦の言葉にふみは『え?…あぁ、そうだが』と軽く応えると敦は、ふふっと微笑んだ。

「もちあつとみにふみさんが大好きなふみさんのお誕生日をお祝いしたいって言ったんです」

“ね、もちあつ、みにふみさん!”と敦が肩に乗っている二匹に同意を求める様に問い掛けると二匹も同意する様にこくこと頷きながら「うー{emj_ip_0792}」「ちー{emj_ip_0792}」と元気良く鳴いた。


「この部屋の飾り付けも皆さんに手伝ってもらいながら殆ど、もちあつとみにふみさんが作ったんですよ{emj_ip_0792}」

『殆ど…』

ふみがそう呟くともちあつとみにふみは、床にぴょんと飛び降りたかと思うと料理の並んだ机の下へと潜り込んでしまった。

二匹の不思議な行動に皆が首を傾げていると二匹は、すぐさま机の下から何かを包みを持ちながら戻って来たかと思うとふみの前でピタリと止まり、もじもじしながら「うー」「ちー」と鳴いた。

ふみは、もじもじとする二匹の前にしゃがみ込むと二匹に『どうかしたのか?』とまるで母親が自身の子供に優しく問い掛けるかの様に問い掛けると二匹は頬を紅く染めながらもじもじとした後、机の下に隠していた包みをふみにそっと差し出した。

ふみにとっては小さいが二匹の身長からすれば大きい包みを二匹から受け取ると二匹は満足そうに鳴いた。

『私にか?』

「うー{emj_ip_0792}(そうです{emj_ip_0792})」
「ちー{emj_ip_0792}(おたんじょうびぷれぜんと{emj_ip_0792})」

コクコクと首を縦に振る二匹にふみは、自身の胸にじわりと暖かい何かが流れるのが分かった。

その暖かい何かを表現するのは難しく言葉に出来ない感情であったが、目の前にいる小さな二匹を今すぐにでも抱きしめてあげたいと言う気持ちでいっぱいになり、目が少し潤むのがふみ自身でも分かっていた。


「二匹が頑張って俺の手伝いをして貯めたお金で買った物だ、大切にしてやってくれ」


そう言ったのは二匹が良く、仕事のお手伝いをする国木田独歩からの言葉であった。
ふみは、このプレゼントが二匹のお手伝いを頑張ったお金で買った物だと言う事実に更に胸がきゅっと苦しくなった。

暖かいのに苦しい、この矛盾な感情はまるで自身の恋人である敦といる時にも感じるものである。

“あぁ、私はこの子達が…”


そう心の中で解決させるとふみは、二匹の頭を指の腹でするりと撫でると優しく微笑んだ。


『もちあつ、みにふみ…大好きだよ。



私と出会ってくれてありがとう』


ふみがそう言うと二匹は、ふみの指にすりすりと擦り寄りながら嬉しそうに鳴いたのであった。


「ちー(こちらこそ、うまれてきてくれてかんしゃする)」

「うー(ぼくをひろってくれてありがとうです)」


「「うー!/ちー!(だいすき!)」」








ふみの誕生日パーティーを終え、敦とふみともちみにの二人と二匹は寮へと帰宅した。

風呂に入り終えた頃には時計の針は九時半を指しており、もちあつとみにふみは何時もであればこの時間は就寝時間であり、
また、ここ数日間、ふみの誕生日パーティーの飾り付けを作るためにお昼寝を我慢していたからなのか、眠気が限界を迎えていた。
べちゃっと机の上にだらけているもちあつを背凭れにする様にみにふみは座り、何度も首がかくんかくんと船を漕いでいるにも関わらず、寝床に行かない二匹に敦は「こんな所で寝たら風邪引くよ」と言い、隣に居たふみも『もち人虎、小さい私、寝るなら自分達の寝床で寝ろ』と声を掛けたが二匹は眠たい目を擦りながらいやいやと言う様に首を横に振ると「う〜」「ち〜」と鳴いた。

敦とふみは、顔を見合わせて困った様に溜息を吐くと二匹を寝床まで運ぼうと立ち上がった時であった。


ピンポーン


突然、鳴り響いた呼び鈴の音に敦とふみは驚き、目を見開くとお互いにこんな時間に誰だっと言う様に眉を顰め、このまま無視をしようとしたのだが再び鳴った呼び鈴の音に二人は、とある人物の姿が思い浮かんだ。

「もしかして…」

『あり得るな…』

二人は溜息を吐くと扉のチェーンを外し、扉をガチャリと開けるとそこには二人が想像していた人物がにこやかに立っていた。

「やぁ、夜遅くにすまないね」

夜遅くに敦とふみの部屋の呼び鈴を鳴らしたのは太宰であった。

太宰も一度、寮へと帰宅したのか、何時もの砂色の外套を身に纏っておらず、ベストのみと言う楽な格好をしていた為、敦は「何しに来たんだこの人…」と思っていたのだが、少し後ろに居たふみが嫌そうな顔をしながら『何しに来たんですか、こんな夜遅くに…迷惑人間』と言った。

「え?私、凄い言われようだよね{emj_ip_0793}」

「何しに来たんですか、太宰さん」

「敦くんまで冷たい{emj_ip_0792}」

しくしくと顔を覆い泣き真似をし始めた太宰に敦とふみは冷やかな視線を向けると太宰は直ぐに泣き真似を止め、優しく微笑んだ。

「私がこんな夜遅くに部屋を訪ねたのは小さな二匹を迎えに来たからだよ」

「『小さな二匹…?』」

敦とふみが太宰の言葉に首を傾げて鸚鵡返しをすると敦とふみの後ろから「ちー」「うー」と鳴き声が聞こえ、敦とふみは自身の背後を振り返ると眠い目を擦りながらぽてぽてと言う足音を立ててもちあつとみにふみが玄関へと近づいて来た。
その手には何時も寝る時に使用している枕と布団代わりであるハンカチを持っており、二匹は太宰を見るなり「うー」「ちー」と再び鳴くと太宰の肩にぴょんっと飛び乗った。

「もちあつ?みにふみさん?」

『如何言う事だ』

敦とふみが二匹に問い掛けると二匹は、おやすみーと言う様に片手をふりふりと振り、その光景に太宰は笑うと目の前で意味が分からないと言う様な表情を浮かべる二人に対して昼間会った事を話し始めた。


昼間、探偵社の会議室にてふみの誕生日パーティーの飾り付けを手伝うと言うのを口実に仕事をサボって居た太宰は、飾り付け中の二匹に突然、話しかけられた。

「うー{emj_ip_0792}(だざいさん{emj_ip_0792})」
「ちー{emj_ip_0792}(だざいさん{emj_ip_0792})」

「おや、もちあつくんにみにふみちゃん如何かしたのかい?」

元気いっぱいに太宰の名を呼んだ二匹に太宰は優しく問い掛けると二匹は会話をする為にメモ帳と鉛筆を持ってくるとすらすらと文字を書いて太宰に見せた。


【きょう おとまり いっても いいですか?】


いい?いい?と言う様に「うー?」「ちー?」と首を傾げる二匹に太宰も首を傾げ、「別に良いけど、何かあるのかい?」と尋ねた。

すると二匹は再びカリカリと文字を書き始め、太宰は二匹の書く文字を読む様に上から覗き込んだ。


【きょう おおきいわたしのたんじょうび】

【あつしくんとふみさんなかよし かっぷるです!】

【ふたりいっしょのじかんほしいはず】

【ふみさんといっしょにいたいけど あつしくんにゆずってあげます{emj_ip_0792}】

【だから だざいさんのところ おとまりさせて{emj_ip_0792}】


書いた文字を誇らしく太宰に掲げる二匹に太宰は二匹の敦への優しさと気遣いに笑うとお願いしますのぽーずのままでいる二匹の頭を撫で、「良いよ、私が夜に君達を迎えに行くからお風呂に入って待っててくれ給え{emj_ip_0792}」と言うと二匹はキラキラと目を輝かせて大きく頷いたのであった。


その約束通りに風呂に入り終えた頃を狙って太宰は、二匹を迎えに来たのであった。


「もちあつくんとみにふみちゃんは私の部屋でお泊りさせるから…


敦くんとふみちゃんは二人で熱い夜を過ごしてくれたまえ{emj_ip_0792}」


キラリと光る程の笑顔を見せる太宰にふみはイラッとした表情を見せたのだが夜と言う事もありグッと耐えるとふみは眠気がピークなのか既に目が閉じかけの二匹に声をかけた。


『ちびーず、お布団はきちんと被るんだぞ。

春とは言え、朝晩は冷え込むからな』


ふみは優しくそう二匹に言うと二匹は「わかったー」と言う様に片手をふりふり振ると太宰は二匹を肩に乗せたまま自身の部屋へと帰って行った。


久しぶりの二人っきりの部屋にふみは少し動揺しながらも変に意識してしまう思考をテレビへと向け、敦もテレビの前に座るふみの隣に座ると畳に触れていたふみの右手に自身の右手をそっと重ねた。

「えへへ…何だか、夜にふたりっきりて言うのが久しぶりで照れますね」

頬を染めながらそう言った敦にふみは内心、考えないようにしていたのになどと思いながら小さく溜息を吐くとポツリと呟いた。


『出会った頃は、まさか貴様を好きになるとは思わなかった』

「え?そうですか?僕は、ふみさんに出会った瞬間から“あ、この人は僕の運命の人だ{emj_ip_0792}”って思いましたけど?」

『貴様の思考回路は特殊過ぎてついて行けぬ』


飽きれた顔をするふみに敦は気にすること無く「そんな表情も素敵です!ふみさん」と恍惚とした表情を浮かべる敦を無視してふみは言葉を続けた。


『…昼間、龍之介に会った』


その名に敦は目を見開いた。

敦と付き合い始めたふみはポートマフィアをリストラされ、そして双子の兄である龍之介に「人虎と別れろ。さも無くば、家で飯など食わさぬ」と言う言葉を言われたふみは怒り、家を飛び出し敦の部屋に転がり込み同棲を始めてからは一切会う事も連絡を取り合う事もしていなかったのを敦は知っていた。

其れが今日、ふみの口から会ったと言う言葉が出た事に敦は驚いていたのと同時に少しの不安が頭を過ぎり、ふみの手を少しきゅっと握りしめてしまった。

そんな敦の気持ちを感じ取ったのかふみは、ふっと笑うと『安心しろ、今更ポートマフィアには戻らぬ』と言った。

『誕生日だから…と言ってな、龍之介から連絡が来たのだ。
一応、あれでも私の片割れで兄だからな。誕生日プレゼントを用意していたので渡すのに丁度良いかと思い、会う事を承諾した』

ふんっと鼻で笑うふみに敦は“ふみさん、芥川に会えて嬉しかったんだなぁ”と口には出さなかったが心の中で呟くと少し兄である龍之介に嫉妬心の様なものを感じてしまった。

敦がふみに「芥川、僕の事を何か言ってましたか?」と尋ねるとふみは小さく溜息を吐くと『相変わらず、人虎と別れろと言っていた』と応え、敦はふみの言葉に“彼奴、次会ったら覚えてろよ{emj_ip_0792}”とこの場に居ない芥川に闘志を燃やした。

そんな敦の肩にふみは寄り添う様に頭をぽすんと乗せた。

『…別れぬと龍之介に言った』

「え?」

ふみの言葉に敦は、驚いた様に目を丸くした。


『私と龍之介は、幼少の頃からお互いが離れない様に手を握り合い、悲しみも苦しみも喜びも全てを分け合って生きて来た。

私と龍之介は双子だ。だが、双子だからと言ってずっと共に居る事は出来ぬ。

いつかは手を離す時が来る事は理解していた』


“龍之介は、まさか私が先に手を離すとは思っていなかったのだろう”


『そして、離した手が直ぐに誰かに繋がれるのを見て寂しくなったのかも知れぬ。

龍之介の気持ちも理解出来る。
多分、逆の立場であれば私も寂しかったと思うからな。

龍之介の事は大切だ。だか、それ以上に私は…』


“貴様と居る今を大切だと思っている”


少し頬を染めながら恥ずかしそうにそう言ったふみに敦は自身の心臓がドクンと高鳴ったのが分かった。
心音が早くなり、じわじわと頬が熱くなっていくのと同時に胸の奥から溢れ出す暖かな気持ちと目の前のふみを愛おしくて仕方がないと言う気持ちに頭がくらくらとして思考回路が鈍くなって行くのが敦には理解出来た。

敦は自身の肩に寄り添う様に頭を寄せるふみの体に手を回し、抱きしめるとふわりと香るふみの香りに恍惚とした表情を見せた。


「もう、ふみさんの馬鹿…これ以上可愛い事言っちゃダメです」

『何故だ?」

ふみが敦の顔を覗き込み、少し意地悪そうに微笑みながら尋ねる姿に敦は自身の中の何かがグラグラと揺れているのが分かった。

『人虎」

「何ですか、ふみさん」

『私はまだ、貴様にプレゼントを貰ってないのだが?』

ふふっと妖艶に笑うふみに敦もにこっと笑いながら「プレゼントは…僕ですとかベタですよねぇ?」と問いかけるとふみは、笑みを浮かべたまま口を開いた。


『プレゼントならば…受け取らなければバチが当たるな』


そう言うとふみは敦の唇に自身の濡れた唇を重ねたのであった。


「お誕生日おめでとう、ふみさん。



僕の為に生まれて来てくれて、僕は幸せです」





2018/3/1ふみちゃんハッピーバースデー!