宿泊研修!

 しばらく続いた大雨が嘘のように、カラッと晴れ渡った空。
 集団宿泊研修の当日にぴったりの日和だった。

 昨日の夜は今日のことを考えて洗濯物も全部乾燥させたりしていたから、あまり眠っていない。朝も忙しかったけど、二人暮らしだから手を抜けない。

「……若桜」
「ふぁ……んぅ?」

 通学路を歩いている途中で欠伸が出る。そのタイミングで綾崎くんが声をかけてきた。

「大丈夫か?」
「え……うん、大丈夫だけど……」

 欠伸で目に溜まった涙を擦って返すと、綾崎くんは眉を寄せた。

「綾崎くんも、三日間もいろんな人といて大丈夫?」
「……」

 無言になる綾崎くん。

 やっぱり大丈夫じゃないか。ここ数日で私と紅羽に慣れてくれたけど、親しくない人とはまだまだ時間がかかるかもしれない。
 この宿泊研修で、何か得られるものがあるかもしれない。でも、それで心労になったら意味がない……。

「じゃあ、家に帰ったらゆっくりしようね。食べたいもの、いっぱい作るから」

 ストレス発散できないと、いろいろとつらくなるからね。
 そんなことを思っていると、綾崎くんが私の頭を撫でてきた。

「……若桜も、無理はするな」

 ぽつりと呟くように言った綾崎くんの声は、すごく優しかった。
 驚いて顔を上げれば、綾崎くんは私の頭から手を離して何事もなかったかのように歩く。

 ……綾崎くんって、さり気なく優しいよね。

「ありがとう」

 クールなようでいて、実は不器用。そんな彼の優しさが心地良くて、すごく……嬉しくなる。

 温かな気持ちを持ちながら学校に行き、四台のバスが並んでいるところに集まっている1年生の団体へ加わった。

「それでは、点呼しますね。綾崎翼くん」
「……はい」

 美咲先生が点呼をとってA組のバスに乗り込み、私は車窓側、隣に紅羽が座る。
 学校から宿泊施設まで小一時間はかかるらしいから読書でもしよう、と思ったけど……流れる景色を見ているうちに、眠ってしまった。


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