差し出されたその手は
……授業中の、この時間。
取り巻きの女子も、自分をじろじろと見つめる女子もいない、周りに誰もいない時間。

その時間にサボって、屋上で空を仰ぎながら何かしらするのが、
雪女が学校で心が落ち着く、数少ない時間だった。


「……んー、ここはやっぱ吹雪と豪炎寺をツートップにするか」

「GKはやっぱり……円堂だな!」

「ここに染岡と風丸を置いて、栗松と壁山も……」


雪女がやっているソフトは「イナズマイレブン」。
……雪女が、小学生のころから大好きなサッカーゲームで、アニメ化もされ、
グッズもたくさん出ている大人気のゲームだ。


「……あー、やっぱみんなカッコいいなあ!!俺も、イナズマイレブンの世界に行って……超次元サッカーができたらいいのに……」
「円堂や豪炎寺や吹雪たちとサッカーできたらいいけど……でも、あっちはゲームだし……無理にもほどがあるよな……」


雪女はそう言って嘲笑すると、プレイ途中だったゲームをセーブしてゲーム機の電源を切った。


「あー、空が綺麗だな……」


雲一つなく綺麗に晴れているせいか陽の光であたりが暖かく、優しいそよ風も吹いていた。
そのせいでうとうとと眠気がやってきて、ついつい居眠りしそうになる。
そして、程よい眠気にとうとう抗えなくなった雪女は、眠そうな顔でこう呟いた。


「ん〜……少しだけ、うたた寝するか……」


そう言って雪女は一つ大きなあくびをすると、
ゲーム機を懐に仕舞って、自分の腕を枕代わりにして眠りはじめた。










……

………


…………









……そして、しばらくして雪女が目を覚ますと、そこは真っ暗な闇の中だった。
自分の指先がやっとかすかに見えるほどの暗さで、少し動くのもままならない。


「(あれ、まさか俺……夜まで寝ちまったのか?)」


予想外の出来事に困った雪女は、今持っている携帯かDSを懐中電灯代わりにしようと
制服のポケットに手を伸ばすが……気づけば、着ていた服はいつもの制服ではなかった。


「!?」


触れた服の手触りが違う事に驚いた雪女は、
目が少しずつ闇に慣れてきたところで、じっと着ていた服を見つめた。

すると雪女が着ていた服は、いつものだぼっとした長袖長ズボンの制服ではなくて、
いかにも動きやすそうな半袖半ズボンのサッカーユニフォーム。
……しかも雪女はそのユニフォームに、嫌と言うほど見覚えがあった。


「これって、雷門中のユニフォーム……な、何で俺が、雷門中のユニフォームを……!?」


雪女が困惑の表情を浮かべて、ユニフォームを見続けていたその時。

急に目の前がぱあっ、と白い光で明るくなった。


「Σ……うわっ!?」


闇に慣れていた目で急に光を見たためか、雪女は目が痛くなり反射的にぎゅっと目を閉じる。









……!



……雪女!




雪女!!




雪女!!




「えっ……?」





……その時。
どことなく聞き覚えのある声で急に名前を呼ばれ、雪女は恐る恐る目を開けた。
すると、逆光で顔は全く見えないが、白く眩しい光の中で少年が雪女に手を差出している。

その少年は、まるで雪女を「こっちに来い」と誘っているように見えた。



「(俺に……こっちに来いって、言ってるのか……?)」


雪女はその手を掴もうと、そっと自分の右手を伸ばす。

……なぜなら、その少年は―









「兄ちゃん……?」





















―そして雪女は、その手を掴んだ。





















「……くん……」


「雪女くん!」


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