「おやすみ」しよう

ソファの上で静かに読書をしていた纒にちょっかいをかけるように、弔は擦り寄り纒の膝の上に頭を乗せた。


「·····どうしたの?今日の弔は甘えん坊さんね」


纒はその様子に口元を緩ませると弔の頭を優しく撫で、そう呟いた。


「·····ん、今日は、そういう気分」

「ふふ、仕方ないわねぇ·····ほら、ここ狭いでしょ?ベッドで構ってあげるからちょっと起きて·····」


そう言うと纒は1度弔に起きてもらい、ソファから立ち上がって手に持っていた本を律儀に本棚に収め、その後弔の手を引いてベッドへと誘導する。

そしてそのままベッドにころん、と寝転がり、両腕を広げて弔を誘った。


「·····ほら、おいで?いっぱい甘やかしてあげるわ」


その言葉に誘われるように、弔はベッドに寝転がる纒の豊満な胸元に顔を埋め、ゆるりと目を薄く閉じる。
片手は纒の左手を握り、もう片方の手は纒の腰の下へ回してぎゅうっと自分に引き寄せた。


「(あらら、こんなに甘えるなんて·····相当お疲れなのね)」


いつも2人は相思相愛で、弔も弱みを見せたり甘えたりすることはあるがここまで甘えることは珍しく、纒はその様子を目の当たりにして、弔の頭を撫でながら少し心配そうな表情を浮かべた。


「(·····大丈夫かしら)」


弔は基本的に人前では気丈な態度を取り繕っている節がある為、こうして自分だけに見せてくれる姿はとても嬉しいことなのだが、やはり無理をしているのではないかと思うところもあり、それが余計不安になってしまうのだ。


「ねぇ、弔·····私って頼りないかしら?」


弔は1番頼ってほしい相手にこう言われてしまうとは思いもせず「何言ってんだこの馬鹿女」、と言いそうになったもののぐっと堪えて、静かに首を横に振った。


「そんなわけ無いだろ·····お前には、昔から感謝してもしきれないぐらい世話になってんだよこっちは」

「それならいいんだけど·····あまり無茶、しないでね?」


弔は突然の纒の爆弾発言に驚いたものの、自分の身体を心配してくれていることを察したのか、弔はこくりとうなずき「(こうやって素直に感情を見せられる相手がいるというのは良いものなんだな)」などと思いつつ、
今はまだもう少しこうしていよう、と再び纒の胸にネコのように顔を押し付けた。



「死柄木弔、私の愛しい一番星·····あなたをそんなに疲れさせたのは一体だぁれ?」

「·····全部」

「そっかぁ、弔は全部に疲れたのね。じゃあ今日はもう、「死柄木弔」はお休みしましょうか。」

「?·····どういう、ことだよ」

「私も少し休むから、今は何もかも忘れて一緒にいましょ。·····今だけでいいのよ、少しだけでいいの」


そう言う彼女に対して一瞬理解が遅れるも、何を言いたいかを察すると、ゆっくりと顔を上げて彼女の瞳を見つめ返した。
そこには慈しみの色を含んだ優しい笑みが浮かんであり、彼女は繋がれていない方の手で優しく弔の目尻に触れ、涙袋のあたりを親指でさすってやる。
そうすれば徐々に目の奥にあった眠気が押し寄せてきたようで、ふわりと瞼が落ちていくのを見て取った彼女は繋いでいた手を離すと、両手を伸ばして彼の頭を抱え込むようにして抱きしめると、耳元で囁くように言った。


「·····私がちゃんとお布団をかけてあげるから安心して眠りなさい。今はただ目を閉じて休めば、それでいいわ」


その言葉を聞くと同時に弔は何も考えられなくなり意識が微睡んでいく中、何とか声を振り絞った。


「·····あり、が、とぅ·····」


そして弔はそのまま完全に力を抜いて彼女に身を預けるように倒れ込み、規則正しい寝息を立て始めた。

その様子を見たあと、纒は禍神に小声で「電気を消して、お布団をかけてくれる?」と呟き、そのまま弔の額にキスを落とした。

禍神は静かに2人の足元で崩れていた掛け布団を2人にかけて消えた。
そしてその光景を最後に、部屋の中には静寂が訪れたのだった。



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甘えん坊な弔とバブみが強い纒のコンビが好き。
すーぐ甘えさせるのよくないだろうけど、大好きなんですこのシチュエーション·····。



20211110

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