今はこの幸せに浸るだけ
·····ぱちぱちしていて、きらきらしていて、とても綺麗だと思った。
俺の彼女である火花の個性は『半電気・半グリッター』の個性。
·····俺と同じ、個性婚の結果に持った個性。
幼い頃はその個性がその時の感情に引っ張られてしまうことが多くて、特に火花は俺よりよく泣く子だったから、よく個性を漏らしながら泣いていることが多かった。
「·····焦凍くん、来ないでよぉ·····電気で感電しちゃったら、どうするの·····」
そう言って泣きながら両手を前に出して震える火花の手を、ゴム手袋を付けた手で握りしめてやった記憶がある。
「ほら、これなら感電しねぇから·····俺が、そばに居るから·····泣くな」
俺が慰めるようにそう言うと、火花は今度はグリッターの個性を漏らしてしまって、俺も火花もラメまみれになっていたのをよく覚えている。
ただそのあとは親父や稀羅々さんに二人とも大目玉を食らいまくったが、俺は不思議とその時間が嫌いじゃなかった。
火花がぱちぱち弾けて、グリッターがキラキラ輝いてて、とても綺麗で·····ずっと眺めていたいって、よく思ったっけな。
「·····焦凍?どうしたの?」
「あぁ、いや·····何でもねぇ」
「ふふ·····変なの。」
くすっ、と火花が笑うと、ラメの絡んだ金髪がきらきらと星空のように揺れて光り輝く。
この光景を見ると胸の奥がきゅっと締め付けられるような気がするなと思いつつ、そんな笑顔を見て俺は改めて火花が心の底から愛おしいと思う。
今はもう、火花の手に触れるのにゴム手袋は要らないし、ラメまみれになることもない。
·····でも、一つだけ変わらないことがある。
それは·····火花がこれから先も、俺のそばに居てくれるということ。それが嬉しくてたまらなくて、俺は自然とその言葉を口にしていた。
「·····好きだぞ、お前のこと·····誰よりも、すげぇ好き」
だからもっと笑ってくれというように頬に触れれば、一瞬きょとんとした表情を浮かべた火花だったがすぐに頬を赤くしてオロオロし始めた。
「·····きゅ、急に言うなんて反則だわ·····」
顔を真っ赤にして俺から視線を外す彼女に思わず笑いそうになるがぐっと堪える。こういう時は慌てる姿を見る方が楽しいからだ。
「そっか·····悪い。もう一回言えばいいか?」
わざとらしくそう聞いてみれば彼女はますます慌ててしまい、「うぅ〜!」とか何とか言いながらもじもじしている。
本当に可愛い奴だと思った矢先、彼女が上目遣い気味に見上げてきたのだ。そして恥ずかしそうな顔をしながらこう言った。
「えーと、あのね·····私も、ずっと焦凍が好きよ、大好きなの」
はにかみながらそう言われてしまった瞬間、心臓が止まるんじゃないかっていうくらいぎゅーんときてしまい俺は無意識のうちに彼女を抱きしめてしまっていた。
その瞬間火花のキャパシティが吹っ切れたのか、ぽふん!と音を立てて火花の体から赤と白のグリッターが弾けた。
·····ん?赤と白?
「·····俺の、髪色?」
「ひゃ、はわわわ·····!!!」
まるで花火みたいだと思いながら、そのラメがキラキラと舞い落ちる様子を見ていると、火花は慌ててそのラメを個性で操作して自分の体に戻そうとする。
俺はそれを見ながらやっぱり綺麗だと思うと同時に少しもったいないなと感じてしまう。だってこんなにも綺麗なのに、このまま戻すなんざ勿体ねぇじゃねぇか、と。
·····なので俺も彼女の個性を真似してみた。指先に氷結の個性を発動させて、ラメを包み込むようにして固めるイメージで操作するとラメが氷に混じって少しずつ固まっていく。
すると火花が目を丸くして驚いていたのが面白くなって、そのまま固まるまで続けてみることにする。
「しょ、焦凍!?まっ、ちょ、何して·····」
あわあわする彼女を見下ろしているとラメと氷がだんだん形を成してきて綺麗な球状になっていって·····やがて飴玉くらいのサイズの、赤白のラメがキラキラ光るクリスタルみたいな小さな氷の球体が完成して·····それを俺は口の中に放り込んでみることにした。
「·····あっ、こら焦凍!!だめ、そんなもの食べちゃダメよ、吐いて!!吐き出して!」
火花がラメを戻しかけていたのを一旦中止させてそう言ってくるが、俺はそれを聞かずそのまま氷を口に含んだ。
ガリゴリと音を鳴らして噛んでみると、氷と共にラメが溶けるようになくなって、その代わりにほんのりと甘い味がしたような気がした。
「·····あまい」
俺がそう呟くと火花は再びぽかんとして、それから呆れたようにため息をついたあとくすっと笑ってきた。
「·····あぁ、焦凍ってばもう·····このラメは着色した金粉っぽいから、多分大丈夫だろうけど·····お腹壊しても知らないんだから」
「まぁ大丈夫だろ、多分」
「ふふっ·····何それ」
火花が可笑しそうに笑うから俺もつられて笑い出す。
ラメまみれになったまま二人揃ってベッドの上で転げ回ってはまた笑って、しばらく二人でラメまみれになりながらきゃーっとはしゃいでいた。
「·····ふぅ、そろそろ片付けなくちゃ。ラメまみれのままって訳には行かないからね」
火花がしばらくしてそう言うと、火花は改めてラメを個性で操作して自分の体に戻していく。
自分の髪色のラメがふわふわと舞っている様は、本当に星空のようで、俺は思わず見惚れていた。
「·····?どうしたの?·····もしかして、私の顔にまだラメがついてる·····?」
「あ、あぁ·····いや、別に何でもない」
俺がじっと見つめていることに気付いた火花に不思議そうな顔をされて慌てて視線を外す。
·····何だか恥ずかしくて、まともに顔を見られなかったのだ。
そのうち辺りに散らばっていたラメを全て戻し終えた火花は、今度は俺の体についているラメを戻そうと近寄る。
それを見た俺はつい、火花の手を引いて抱き寄せてから顔を覗き込んだ。
突然のことに驚いた様子だった彼女は、けれど次第に頬を赤く染めていきながら慌てる様子が可愛かったのだが、それでも構わず唇を重ね合わせた。
·····触れ合うだけのキス。
でもそれが心地よくて、ずっとしていたいなと思った矢先に胸元を押し返されてしまったので仕方なく離れることにする。
たださっきよりかは距離感が近くなったのでもう一度軽くキスをしてみた。
「んっ·····もう、焦凍!キスはう、嬉しいけど·····ラメを戻せないでしょ!」
それは真っ赤な顔で怒られてしまったが、俺はその反応も愛しく感じてしまい小さく吹き出してしまった。するとますますむくれる彼女にごめんと言いながら頭を撫でる。
その後ようやく落ち着いてから火花は個性を使って俺についたラメを戻していく。
そしてすっかり綺麗に戻った自分の体を見て満足していると、火花は薄く笑ってこう言った。
「·····焦凍、ありがとう」
「ん?」
いきなり礼を言われてきょとんとしていると、火花が照れくさそうにもじもじしながらこう言った。
「·····私と一緒に、いてくれて。焦凍と一緒に訓練したからこうやってラメも電気も、上手く使えるようになったし·····強くなれた気がする」
嬉しそうに微笑んでくる彼女の言葉を聞いて、そうかと相槌を打ちつつ、なんだかくすぐったい気持ちになって。
「·····なら良かった」
そう言って彼女を引き寄せてぎゅっと抱きしめる。すると火花もまた、俺の背中に腕を伸ばして優しく包んできた。
·····きっと、俺たちはこれからも一緒にいられる。
何があっても、お互い支え合っていけると確信できたからこそ、これから先どんな困難が待ち受けていようと、大丈夫だと思えた。
·····だから今は、ただ目の前の幸せに浸るだけだ。
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とどひばてぇてぇ。
現実で普通の食用じゃないラメを口に入れると、ジャリジャリしまくるし場合によっては誤嚥したり窒息するから注意な!!
20220214
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