泣きたい夜もある

·····夜遅く、ロディがふと目を覚まして気づくと、ロロとララの向こうで寝ていたはずのフォクシーがいなくなっていた。

ロディは寝ぼけ眼で「(トイレにでも起きたのか?)」と思ったが、一向にフォクシーが戻ってくる気配がない。

気になったロディはロロとララを起こさないようにベッドから抜け出して、フォクシーを探しはじめた。
それに気づいたピノも、寝ぼけ眼でロディの後ろをついて行った。

·····だが、トレーラーハウスの中には彼女の姿は見当たらない。


「まさか外か·····?」


そう呟いたロディがトレーラーハウスから外に出ると、辺りはまだ真っ暗闇だった。


「……あいつ、こんな時間にどこ行ったんだ?」


ロディが首を傾げて呟くと、「Yelp」と鳴き声を上げて、フォクシーの相棒である狐のハニーがロディの前に現れる。
それを見たピノはハニーの傍に飛んでいき、「Pi!」と嬉しそうに鳴き声を上げた。


「·····あぁ、ハニー。お前も起きちまったのか?」

「Yelp」

「フォクシーは?」

「Yelp!Yelp!」


そう鳴くと、ハニーは前足で屋根を指す。
ロディがハニーの指差す方向に視線を向けると、そこには屋根の上に座っているフォクシーの姿があった。

·····だが、様子がおかしい。
三角座りになって俯いているフォクシーの狐耳はいつもと違ってぺたんと倒れているし、しっぽをぐるんと体に巻き付けている。その姿を見た瞬間、ロディはハッとした表情を浮かべた。


「(·····あぁ、なるほど)」


その姿を見て、ロディはすぐにあの行動はフォクシーが落ち込んだ時の癖だと理解した。


「ピノ、ハニーと一緒にいろよ」

「Pi?Pi〜♪」


ロディの言葉を聞いたピノは元気よく返事をして、ハニーと共にトレーラーハウスの中へ戻って行く。
それを確認したロディは、ゆっくりとフォクシーがいる屋根上に向かって歩き出した。

·····そして、フォクシーの隣に座って声をかける。


「落ち込んでんな、フォクシー」

「ロディ·····起きちゃったの?」

「お前がいねぇとベッドが寂しいからな」

「ふふっ·····ありがとう」


ロディの言葉を聞いてフォクシーは小さく笑みを浮かべるが、すぐにまた顔を伏せてしまう。
そんな彼女を見て、ロディはため息をつく。


「何があったんだよ?」

「·····えっとね、ちょっと夢見が悪くて·····眠れなくなっちゃった」

「悪夢か?」

「うん、そう·····ロディと会う前の夢を見ちゃったの·····せっかく、忘れてたのに·····」


ポツリと呟きながら、フォクシーは膝を抱える腕に力を入れる。
フォクシーにとって、ロディと出会う前は本当に辛い日々が続いていた。

日本で生まれた彼女は異国のオセオンでしばらくは幸せに暮らしていたが、突然母親を亡くし、父親がヒューマライズに連れ去られてからは、幼い子供1人で生きていくためになんでもやった。時には盗みやスリなども行い、必死にお金を稼ぐ毎日だった。

同じ境遇のロディやロロとララに出会ってからは、3人のおかげで孤独感がなくなったものの、それでも失った悲しみが消えることはなかった。

ロディと結婚して家族になってからも、たまにフォクシーは昔のことを思い出して塞ぎ込むことがあるのだ。
そんな時、決まって彼女は屋根の上で星空を見ながら泣いている。

·····いつも気丈に振る舞う彼女は、誰にも泣き顔を見せないようにしながらいつも泣く。それを知っているのは、彼女の幼なじみであり夫である、ロディ1人だけだった。


「ねぇ、ロディ·····私のこと嫌いにならないでね·····あなたに嫌われたら私、本当になんにも無くなっちゃうの」

「·····バカだなぁ、フォクシー。俺がお前のことを嫌うわけないだろ?」


そのままロディはフォクシーを引き寄せて、まだ涙に濡れている頬にちゅっとキスをした。


「·····だから、泣くなよ。俺はお前のことを心から愛してる。ロロとララだって同じ気持ちだ」

「·····うん、知ってるわ」

「なら、もう寝ようぜ。明日も仕事なんだし」

「·····そうね、ごめんなさい。起こしちゃって」

「気にすんなって」


そう言うと、2人は屋根から降りてトレーラーハウスの中に戻る。

ドアを開けると、ベッドの下で丸くなって眠っているハニーと、その中でくっついて眠るピノが視界に入る。
その光景を見て微笑んだ後、フォクシーとロディはベッドに戻り、またロロとララを挟むように横になった。


「おやすみ、ロディ」

「あぁ、おやすみ·····」


ロディの優しい声を聞きながら、フォクシーは再び眠りについた。
だが、今度は悪い夢を見ることはなかった。
翌朝、目を覚ましたロロとララは、幸せそうな顔をして眠っているフォクシーとロディの姿を見つける。
そして、お互いの顔を見ると嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。


――――――――
(補足)
ハニーが都合よくロディの前に現れたのは、ロディに慰めて欲しかったフォクシーの深層心理の現れからです。
それを見つけたピノが嬉しそうにしてたのは、フォクシーがいなくなったのでは無いと知って安堵したからです。

ロディフォクは·····いいぞ·····

20220217

next
index
top

ALICE+