試し好意
·····ひた、と纒の首筋に弔の4本指が当てられる。
あと一本、指が触れれば崩されるという状況下でも、纒はなんでもないように、いつものように、弔を見つめていた。
「·····怖くねぇの」
弔がそう聞くと、纒は小首を傾げて不思議そうな顔をする。
「いいえ、全然·····私の命なんかが欲しいのなら、弔にあげるわ」
そう言い、腕を広げてにこっと微笑む纒の姿は、まるで聖母のようだった。
その表情を見て、弔は目を見開く。
·····弔はたまに、こんな風に纒に対して無意識に試し行動のようなことをすることがあった。
たまにそれがエスカレートして、纒の指先や肌を少し崩すこともあったが·····それでも纒は叫び声1つ上げずに、ただ愛おしそうに弔を見つめる。
弔に生殺与奪の権をすべて握られているというのに、そんなことお構いなしに。
「·····どうしたの、弔·····気分でも悪いの·····?」
黙りこくった弔を心配してか、纒が不安げな顔でこちらを見る。
·····今もまだ、弔の4本の指が纒の首に添えられたままだ。
それでも自分より弔を気遣うような言葉をかけてくる彼女に、弔は思わず笑みを浮かべて纒の首から手を離し、今度は掌で彼女の頬を撫でる。
「んふふ、なぁに?くすぐったいわ·····」
弔の行動の意味がわからず、しかしどこか嬉しそうな声で笑う彼女を見ながら、弔は言う。
「·····お前さ、俺に殺されてもいいのかよ」
「ええ·····あなたが、それを望むなら。」
「俺に、ぐちゃぐちゃに犯されてもいいのか?」
「私なんかであなたが満足できるなら、いくらでもどうぞ」
「·····俺と一緒に地獄に落ちろって言ったら、一緒に堕ちてくれるのか?」
「?·····もちろん、あなたの行くところなら·····どこへだって着いていくわ」
当然と言わんばかりにニコッと笑って即答する彼女に、弔は再び呆れたようにため息をつく。
幼い頃から共に育ち、共にお互いを想いあってきた2人には、世間一般で言う普通の恋愛感情などない。
ただ互いを愛しているだけという、子供のように純粋すぎるが故に歪んだ愛情だけが、この2人を繋ぎ止め、お互いを深く結びつけていた。
·····だからこそ、互いの全てを理解しているのだ。
「·····お前も大概に狂ってんな」
「それはお互い様でしょう?」
纒がそう言ってくふくふと笑うと、弔もつられて小さく笑い出す。
そしてそのままぎゅっと抱きつき、その細い身体を抱きしめると、彼女は抵抗することなく弔を受け入れた。
「·····お前だけは絶対に手放さないから、覚悟しろよ」
「あら、嬉しいわ·····手離したくないほどに私を必要としてくれるなんて!」
2人は互いに見つめ合い、どちらともなく唇を重ねる。
口づけを交わしながら、弔はずっと思っていた疑問を口に出した。
「·····なぁ、なんでいつも俺を受け入れてくれんだよ」
すると彼女はキョトンとした顔をして、すぐに優しく微笑む。
「私は、弔のことを心から愛してるから·····それだけじゃダメかしら?」
そう言うと、纒はさっきのお礼と言わんばかりに弔の頬を掌で優しく撫でる。その手にすり寄って甘えるように目を細めると、弔はそのまま再び彼女とキスをした。
「·····もういいや、考えるのやめた。お前がいればそれでいいや·····」
「きゃっ!?」
そう言い、弔は彼女を抱きしめたままベッドへと倒れ込む。
突然のことに驚きながらも、特に抵抗せずに彼の胸元に擦り寄るようにして収まる彼女の頭を、弔は大きな手でそっと撫でた。
「お前が俺のものになってくれるなら、俺はなんだっていい·····」
「ふふ、弔ったら·····大好きよ、私の一番星·····」
「ああ·····知ってる。」
弔の胸に顔を埋めて幸せそうに笑う彼女の髪を、弔はその大きな手のひらでゆっくりと撫で続けると、次第に2人の瞼が落ちてくる。
「·····おやすみなさい、弔」
「·····おやすみ、纒」
そう囁き合って、2人は眠りについた。
まるで、最初から1つだったかのように寄り添う2つの影が、月明かりに照らされていた。
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試し行動·····子供が相手に向けて自分をどの程度まで受け止めてくれるか探る行為のこと。
弔は絶対纒ちゃんに対して試し行動やるタイプだ(偏見)
20220403
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