それでもヤキモチは焼く

「·····」


その日の弔はすこぶる機嫌が悪かった。
·····理由としては、弔の彼女である纒が異能解放軍の男性たちに囲まれていたからである。

弔にとって彼女は何にも変え難い大切な存在だ。
だから、彼女が他の男に言い寄られている光景を目にして気分が良いわけがないのだ。
·····だが、弔にはどうすることもできない。


なぜなら·····その男性達は禍神教の信者であったからだ。



「あぁ·····禍巫女さま、ご無事だったのですね·····!!」

「禍神の御加護に間違いありません·····ありがたや、ありがたや·····」


·····禍神教の信者にとっては、禍巫女は生き神であり崇拝の対象。

そして大禍村の事件を知っている者達は、禍神教の大切な巫女である纒が生き残っていたことに歓喜し集まっていた。
纒自身も、大禍村の事件で絶えてしまったと思っていた信者がまだ残っていたことを喜び、丁寧に話をする。

·····そんな光景を見て、弔の心の中は黒い感情でいっぱいだった。


「(なんなんだよアイツら·····ふざけんなよ)」


次第にイライラし始めた弔は、まだ話をしている纒に近づいてグイッ、と腕を掴む。


「·····弔?」

「いつまで、話してるんだよ」

「えっ?あっ·····もうこんな時間なのね。ごめんなさい、久しぶりだったから、つい話し込んじゃったわ。」

「別にいいけどさ·····早く行こうぜ」


そう言って弔は彼女の手を引いて歩き出す。


「そういう事だから·····失礼するわ。禍神様の御加護があらんことを」


その様子を見ていた禍神教徒たちは『おぉ·····』と感嘆の声を上げていた。


「今代の禍巫女さまの連れということは·····彼が今代の禍巫まがかんなぎさまですね·····」

「生きて今代の禍巫女さまと禍巫さまを見られるとは·····ありがたや、ありがたや·····!!」


そんな彼等の言葉を聞きながら、弔はチラッと後ろを振り返る。
そこには、未だに頭を下げている禍神教徒の姿があり、その姿を見た弔は心の中で舌打ちをする。


「·····おい、纒」

「どうしたの?」

「お前が禍巫女として崇められてるのは知ってるけどさ·····俺の前では俺だけのものでいろよ。他の男にヘラヘラすんな」

「·····もしかして、妬いてるの?」

「うるせぇ」


弔は不機嫌そうな表情を浮かべると、ぷいと顔を背ける。
そんな彼の様子にクスッと笑みを浮かべた彼女は、そっと手を握り返した。


「ふふっ·····大丈夫よ、私は貴方だけのものなんだから。彼らには禍神教の信者以上の関係はないわ。それに、私だって本当は弔以外の男の人に笑顔なんて向けたくないんだから」

「·····なら良い」


弔は満足げに笑うと、そのまま気になっていたことを聞いた。


「なぁ、禍巫ってなんだよ」


それを聞いて、纒の頬が少しだけ赤くなる。


「そ、それは·····禍神教では、禍神個性を持った女性は禍巫女と呼ばれて、男性だと禍巫になるんだけど·····」


そう言うと、纒は顔をさらに赤くして口ごもる。その反応を見て、弔は何となく察したがあえて聞かず、わざとらしく首を傾げた。


「へぇ、それで?」

「うぅ·····その·····禍巫女か禍巫がもう居て、なおかつ呼ばれた人の個性が禍神個性じゃなければ、意味が変わるの·····」

「へー·····じゃあ、俺が禍巫ってことは?」

「えっと·····その·····私の旦那様、ってことになるわね·····?」


恥ずかしそうに言う彼女に、弔は思わずニヤけてしまう。


「なるほどねぇ·····つまり、アイツらにとって俺は、お前の男ってわけだ。まぁ、俺がアイツらにどう思われようと関係ねぇけど·····」


弔はそう言うと、纒の頬に手を添えて手のひらで優しく撫でる。


「·····そう呼ばれることで、お前には俺がいて、お前が俺のものだって知られるのは悪くないな」


弔は嬉しそうな表情で微笑むと、耳まで真っ赤に染めて照れる纒に再びキスをした。



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ヤキモチ妬いちゃう弔が書きたかった!!!

20220524

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