愛は鳴き声に乗せて!

「ひとしく〜ん、た〜しゅけて〜·····」


心操が突然上から聞こえてきた声にビクッと体を震わせ上を見上げると、そこには木に引っかかってぶら下がっている鶚がいた。


「鶚、お前何やってんだ!?」

「あのにぇ〜、飛んでる最中に〜、木に引っかかっちゃったのよにぇ〜」

「お前·····それでもハーピー個性なのかよ·····」

「そうだよにぇ〜、私もしょ〜思う〜」


くぁっはっは、と気の抜ける笑い声で笑う鶚に呆れながら、心操は捕縛布で器用に鶚を木から下ろす。

下ろしてもらった鶚はぶるる、と首を震わせると、にへぇと笑って心操にお礼を言った。


「ありがとにぇ〜、さしゅがひとしくんだにぇ」

「·····どーいたしまして。それより鶚は俺が通りかからなかったらどうするつもりだったんだ?」

「·····しょ〜だにぇ〜、他の鳥しゃんにたしゅけて貰うか〜、ひとしくんが来るまで待ってたかもにぇ〜」

「おいこら、そこでなんで俺の名前が出るんだよ」

「·····ん〜?だって私の彼氏のひとしくんにゃら絶対に私の事、たしゅけてくれるもんにぇ〜」


当たり前のように言い切った彼女に、心操は一瞬だけ言葉を失った。そして、その言葉の意味を理解するとボッ!と顔が赤くなる。

そんな彼の様子に気づいていないのか、それとも気にしていないのか、鶚は腕の羽に絡まった葉っぱや小枝を口でもそもそと取りながら羽繕いを始めた。


「(ああもう、そういうところだよほんと·····)」


心の中で悪態をつく心操だが、不思議とその表情はどこか嬉しそうである。


「(鶚はマイペースで、俺はいっつも振り回されてばっかだけど·········こういうところが好きなんだよなぁ)」


彼女である鶚の奔放さに心底惚れている心操は、少しだけ悔しそうに笑みを浮かべると、「枝が口に刺さるぞ」と言って彼女の頬についた泥汚れをハンカチで拭き取ってやった。


「んふ〜·····」


心操の手が触れる度に、気持ちよさそうに目を細めてほちょぴほちょぴ、ちよちよと小鳥のように鳴く彼女が可愛くて仕方がない。


「小鳥みたいな鳴き声上げて·····俺に求愛してんの?」

「·····えへへぇ〜、バレちゃったかにぇ〜」

「そりゃあな·····こんな至近距離で可愛い声出されたら誰だって気づくって」

「だってこれ、鳥の習性だからにぇ〜、求愛のおうたは勝手に出ちゃうにょ〜」


そう言って笑う彼女に、心操は呆れたように息を吐いて肩を落とす。


「(本当にこいつは·····自分の魅力を理解してないにも程があるだろ·····)」


心操はチラリと隣にいる彼女を見つめるが、彼女はいつも通りニコニコ笑顔で楽しげにしているだけだ。

きっと自分がどんな目で見られるかなんて分かってないだろうな、と思うと心操は再びため息をついて頭を掻いた。
·····そうしていると、心操の手に鶚のふわふわの羽毛に包まれた羽根が重ねられる。


「ねぇねぇひとしくん〜、ついでに教室まで送って行ってくれにゃいかにゃ〜?」

「·····はいはい、分かったよ」


心操はそう言って鶚の腕の羽を軽く掴んで、そのまま歩き出した。
そんな彼にくっつくようにして歩く彼女からは、相変わらず無邪気で能天気に鳥の鳴き声のような声で歌を歌っている。


「機嫌良すぎだろ·····そんなに俺と一緒に居れて嬉しいか?」

「うんっ、しゅっごく嬉しいにぇ〜!」

「·····あっそ」


心操は素っ気なく返事をするが、内心ではめちゃくちゃ照れていた。
それが少し悔しいのか、心操はペルソナコードを起動させると、鶚の歌を·····鳥の鳴き声を真似して返す。


「にぇっ!?」


突然聞こえてきた声に驚いたのか、ピタッと歌うのをやめた彼女が心操の方を振り向く。
すると彼は悪戯っぽく笑って、そのまま歌を続けた。

ほちょぴほちょぴ、ちよちよと文鳥のような、セキレイのような、小さな鳥の声で歌い続ける心操。
そんな彼の姿にポカーンとしていた彼女だったが、やがてクスクスと笑い出す。


「·····あははっ、しょれ、しょんなことも出来るんだにぇ〜!」

「だいぶ練習した」

「んふふ、鳥しゃんの言葉としてはカタコトだけど〜、ちゃんと喋れてたにぇ〜」

「·····え?あれ言葉なのか?」


心操としては鳥の鳴き声という「音」を真似しただけなので、てっきりただの歌だと思っていたのだが·····どうやら違うらしい。


「えっとにぇ·····『しゅき』『だいしゅき』『一緒に居て欲しい』『愛してる』『番になって欲しい』·····ってあたりだにょ〜」

「え、マジで?俺そんな事言ったの?」

「しょ〜だにょ〜」

「·····うへぇ」


心操は思わず顔を耳まで赤くして、片手で顔を覆う。
まさか自分がそこまでストレートに告白していたとは思わなかったのだ。

·····しかし、そう考えると色々と納得出来る事がある。


「もしかして、お前がさっきからずっと鳥の鳴き声みたいな声で鳴いてたのって·····」

「うん!私もしょ〜言って歌ってたにぇ〜」

「お前は鳥じゃなくて人間だろうが·····」

「鳥しゃんの本能なんだからしょ〜がにゃいにぇ〜」


そう言うと、鶚は再び心操に甘えるように擦り寄る。
·····そんな彼女に心操はやれやれと肩をすくめた。


「ほんと、マイペースだよなぁ·····」

「えへへ〜、私しょんな風に言われても嫌じゃないよぉ〜」

「はいはいそーですか」

「むぅ、ひとしくんつれないにぇ〜」

「別にそんなんじゃないって」


そう言いつつも、心操は彼女の腕の羽を握って優しく引っ張ってやる。そんな彼の優しさに、彼女は嬉しそうに笑って彼の腕に抱きついた。


「あははっ、ひとしく〜ん!しゅき〜!!」

「はいはい、分かったから静かにしてくれ·····」

「ん〜!しゅきぃ〜!!」

「分かったから黙れって·····」


心操はそう言ってため息をつくが、その表情はどこか優しげだった。
ちなみにこの光景を見たB組女子達は「あの二人、あんな仲良かったっけ·····?」と不思議そうに首を傾げていたという。



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マイペースな女の子って·····いいよね·····!!

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