手のひらに 

日も沈み、窓の外が暗くなり始めた頃。
自室で明日の授業で行われる漢字テストの勉強をしていたら、ラインの通知音が鳴った。

送り主は…岳人だ。
夕方頃にジロちゃんを起こした報告と、とっておきの起こし方を伝授した返事だろう。

画面をスワイプしてラインを開くと【ぜったい嘘】と、ジト目の小鳥スタンプが送られてきていた。

【百聞は一見にしかず!またの機会にやってみせてしんぜよう。】と送り、勉強道具をしまった。
今日は早めにお風呂済ませて晩ご飯食べて、寝よう!

漢字は完ぺきに覚えれたし!明日は満点確実さ!抜かりないね!!
………別に小テストのためというよりは、何かに没頭してたかっただけなのだが…

帰宅している間、ずっと考えていた。ジロちゃんの謎の目覚めの原因。古典の授業中に、ふと思いついた憶測のひとつ。

彼女がいるから、妙に浮ついていたのでは?

突拍子もない考えだということはわかっている。わかってるはずなのに、あれからずっとそのことだけが頭の中をぐるぐる駆け巡っていた。たぶん昼間、岳人にガールフレンド自慢された(してない)ことから変に結びつけてしまったのだと思う。

キスなんかよりもっとずっと特別なことがあったから古典の授業で起きてたんじゃなかろうか。
お昼休み終わり直前にしたキスは関係ないんじゃないか。私のおかげなんかじゃない、絶対そう、もう、なんかもう違う。

そんなことを考えているうち、だんだんとわかってきた。
キスのせいで起きていられたのかなという可能性を、どうして全力否定するのか。
何の根拠もないのに、ジロちゃんに彼女ができたなどと思うのか。
どうしてこんなにもやもやするのか。

やっと気付いた。私はジロちゃんのことが好きだったんだなと。
親友としてではない、恋愛感情のほうでだ。

今頃になってこれは遅すぎる。何人ものキスフレが存在するというのに、何してるんだ、マジで。


「取り返しつかね〜」


自分に向かって鼻で笑ったあと、タンスの中の着替えを手にお風呂へ向かった。

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わらびもち

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