カラフルなキミ - 問題児の困惑

 自転車で山道を越えると、少し汗ばむような季節になった。いくら東北といえど、気温が上がるときは上がる。学ランの下にパーカーを着てきたことを若干後悔しながら、日向翔陽はペダルを踏みこんでいた。交通ルールの範囲で全速力で急ぎ烏野高校へ。朝の空気は透明だ。

「朝練!」

 ジャージとシューズを持って部室棟へ駆ける。が、あまりにも急いでいたため曲がり角でぶつかってしまった。「あっ」と思った頃にはばしゃんと水が地面に叩きつけられる音がした。日向はズボンの裾を濡らした程度で済んだが、相手はそうはいかなかった。どうやら水の入ったじょうろを抱えていたらしい彼女の胸から下はぐっしょりと濡れてしまった。

「ご、ごめん!」

 慌てて日向が謝ると、しばらく呆けていた彼女は何が起こったのか理解できたらしくくすりと笑った。

「大丈夫。濡れただけでケガとかないし。そっちは?」
「おれも大丈夫、です」

 まだ尻もちをついたままの彼女を助け起こして、ぎくっとする。

「あの、これ!」

 今朝物干し竿からとってきたばかりの黒いジャージを相手に押し付ける。

「え?あ。」

 日向の反応に自分の状況に気付き、素直に差し出されたジャージを受け取る。

「ごめん、今日借りてても大丈夫?私体育ないから持ってきてなくて。」
「は、はい、だいじょうぶ、です」

 タオルで軽く水気を拭いてから彼女はジャージに袖を通した。

「えっと、洗ったら返すから。一年生、だよね?」
「はい、日向翔陽っていいます。クラスは」
「あぁ、やっぱり。」

 「やっぱり?」日向がオウム返しをすると彼女はまた笑った。

「なんでもない。なるべく早くに返しに行くね。」

 そう言って彼女は来た道を戻ってしまった。名前、聞きそびれた!と日向が気付くのは朝練が終わってからのことだった。


***


「あれ?桶川いつからウチに入ったんだ?」
「ん?ふふ、今朝かな?」

 澤村の隣の席で彼女は笑った。
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