月の海辺で踊りましょう - 甘口ポークカレー

 いただきます、と手を合わせて飛雄はスプーンを握った。銀色に光る窪みで白米とルーをすくって口に運んだ。もぐもぐと咀嚼するのを見て、私は「どう?」と声をかけた。

「うまい」

 簡潔な答えに私はおいおいと力が抜ける。何を作ってもうまいとしか言わないんだから。まぁ、美味しいならそれでいいんだけど。

「彼女が手料理つくってくれてもうまいしか言わなかったらつくりがいがなーいって言われちゃうよ?」

 は?と眉間に皺を寄せる弟の行く末を案じながら私も一口食べた。我ながらうまい。
 今日の試合、すごかったね。日向くん速いしよく跳ぶし、先輩たちもしっかりレシーブとかしててすごかった。すごかった、としか言葉が出てこない辺り、私のボキャブラリーも貧しすぎる。飛雄は温泉卵の黄身をスプーンで崩しながら聞いていた。

「そういえば、背の大きくて眼鏡かけた子はなんていう名前なの?」

 尋ねるとぴくりと微かに反応したのち、眉間の皺が深くなった。え、聞いたらまずかったかな。

「………しま」
「ん?何しま?」
「つきしま」
「月島くん?」

 確認のために繰り返したら飛雄は何も言わず黙々とカレーを食べた。訂正されなかったから、きっと合っているのだろう。
 月島、月島くん、ね。なんだか聞いたことあるような気がするな。

「……なんで」
「え?」
「…やっぱなんでもねー」

 何で、と聞いておきながらなんでもないとはなんだ。口の端っこに米粒がついてるの、教えてやらないんだから。
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