それを見送ったアグモンの体も、ゆっくり、浮上し始めた。
「アグモーンッ!!」
太一の叫び声がアグモンに届いたのか、彼は身を翻して、遥か遠くにいる彼らへと視線を向け、柔らかく笑った。その身体は透明さを帯びていた。
「太一、ヒカリ」
名を呼ばれた2人は目を見張る。
「バイバイ―」
その言葉が表す意味と同じように、アグモンの身体はすうっと色味を消した。
「アグモンッ、待って、俺も!」
勢いで追いかけようと手を伸ばす太一は、ぱし、と反対側の手を取られ立ち止まった。
振りかえらずとも分かる、暖かくて幼い手のひら。
「ヒカリ…?」
やがて。その小さな額が、そっと彼の背中に押し付けられた。
太一は俯いて、手をぎゅっと握りしめた。
「…必ず、戻る」
「…っ」
ヒカリは額を離した。は、と、兄の何かを感じ取った。
猶も光りつづけるデジヴァイスを、太一はぎゅ、と握りしめた。
「やっぱ、アイツには、俺が付いてないとさ」
なるべく、明るく。そう言って、太一は、笑った。デジヴァイスを軸に徐々に浮かんでいく体を牽制することなどできず、掴んだ右手など意味を為さないことをヒカリは気づいていた。けれど。最後の我がままのように、ヒカリはその手を握りつづけていた。
「風邪」
その声に、ヒカリはくしゃりと顔をゆがめた。
「はやくなおせよ」
声なき声が宙を舞う。するりと抜け落ちた兄の手のぬくもりを、その場に残されたヒカリは、ただ感じていた。
17/07/26 訂正
11/03/06
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