061 楔の在り処




「…っいた」
「あらラ。足、ヒねっタ?」
「おいおい、大丈夫かよ、栞」
「ね、太一。戻ってきたね」
「ああ」
「…本当に良かったの?」
「…また、必ず帰るよ」


 一人置き去りにしたヒカリのことが気がかりであるが、太一は落ちた衝撃でずれたゴーグルを右手の甲で持ち上げ、小さく笑って、座ったままの栞にそと手を差し出した。




「おーいみんなどこにいるんだ」
「おーい」


 砂嵐が吹き荒ぶ中、彼等は離れ離れになってしまった仲間を探し続けた。向こうにいた時間はほんの数時間。だが、自分たちがデジタルワールドに行っていた日数は、現実では全くと言っていいほど時間が動いていなかった。それを考えると、たった数時間とはいえど、こちらでは何日―いや何カ月経っているか分からない。


「みんなどこに行ったんだ…」
「どこ行っちゃったんだろうね、太一」
「栞はなんかその――守人のうんたらで分かることとかないのか?」
「…ごめん…曖昧なことしか…」


 返ってきた言葉は謝りの一言だった。眉根を寄せて俯いているところから、本当に何も感じることができないのだろう――砂漠に居続けても仕方ない。とりあえず探しながら歩こう、と太一が口を開きかけた時、栞が顔をひょこりとあげた。ぱちぱちと何度か目を瞬かせ、ある一定の方向を見つめている。「どうした、栞?」と太一が問いかけた瞬間、ピピピと電子音が砂漠の中で響いた。太一からその音は発信されている。


「ん…、太一、何か鳴ってるよ」
「へ?…あ、デジヴァイスだ」


 太一は、デジヴァイスを持ち上げ、手のひらに乗せる。まるで何かを知らせるかの如く鳴りつづけるデジヴァイスを覗きこめば、赤い点が二つばかし光っていた。


「デジヴァイスが何かに反応してる!」


 しかし少しだけ位置をずらすと赤い点は一つになる。また戻せば二つ点が赤く点滅している。驚くことに、それは栞が見ていた方向を合致していた。


「…どういうことだ?」
「おそらく、一つ――こっちネ。コレは己たちのもノ。そしてモう一つハ、同じくデジヴァイスを持ってイる者の位置を示しているンじゃなイかナ」
「じゃあみんなあっちの方にいるんだよ!そうだよきっと!」


 アグモンが嬉しそうに言えば、ようやく栞の顔も三人の方へと向けられた。


「なんか分かったか?」


 太一が思わず問いかけると、栞は少しだけ悩み、それから首をゆるゆると横に振った。

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