「…靄がかかってて分かりにくいんだけど…誰か、いるみたいな感じがする…」
「分かった。兎に角行ってみようぜ!」


 暫く歩くと、砂漠だらけだった足もとに草が生え、碧が多くなってきた。少し顔を横にずらせば、青色の川もきちんと流れている。


「こんなトコに川が流れてるなんて…」
「川があるってことは、砂漠も終わりに近いってことかな?」
「タぶんネ。…栞?ヘーキ?」
「う、うん。大丈夫だよ」


 控え目に笑みを浮かべれば、イヴモンも笑顔で答えた。どうして安否を聞かれたのか栞には分からなかった。しかしイヴモンのことだ。何か考えてあり、そして栞も自分で気づかない間に体調を崩し始めているのかもしれない。気づかれないようにそっと額に手をあてるが、特に熱もないので、あまり気にしないようにした。
 ピピピと鳴りつづけるデジヴァイスから顔をあげ真正面を見れば、アグモンの言葉通り、もう砂漠地帯は終わっており、見渡す限り新緑で包まれて、少し先を行けば爽やかな青が新緑を囲んでいた――それは湖だった。
 目の前には川を渡るための橋もかかっており、向こう側にも行けるようだ。


「橋が架カってるネ」
「あ…れって、海、なの?」
「海じゃない、湖だ!」
「あの湖に何かあるんだよ!」


 誰かがいるかもしれない――確かな情報ではないが、それだけでも十分だった。太一はサッカーで鍛えた脚力で一気に駆けだしたが、もちろん栞はそのスピードについていくことが出来ない。のろのろと走る彼女だったが、太一はその手をとり、走り出した。驚き顔をあげた彼女の眼前に映ったのは、キラキラと輝く太陽の光をあびている太一の姿だった。一瞬のうちに心臓が跳ねあがり、頬が少しだけ熱くなった。己の些細な変化は、太一に気づかれていないだろうか。そ、と視線を上げて太一を見たが、彼の瞳は湖へと向けられている。ほ、とした。
 橋を渡って、湖目掛けて一直線に駆け抜ける。その間にも、デジヴァイスの反応は強さを増していた。


「反応が強い!近いぞ!」


 そうして顔をあげた先に、見覚えのあるシルエットがあった。「あ、」と言葉を洩らす太一。思わず、急いでその場まで駆け抜けていく。


「トコモンだ!」


 ピンク色の体に、愛らしい寝顔は、見間違えるわけもなかった。タケルのパートナーであるトコモンは、静かに寝そべっていた。


(…タケルくん、は?)


 栞は辺りを見回し、あの愛らしい金色の髪をもった少年を探した。ここにトコモンがいるのなら、タケルだって近くにいるはずだ。しかしその姿はうかがえない。首をひねって、そっと視線をずらした先――トコモンの横にはタケルのものと思われる紋章とタグ、そしてデジヴァイスが無造作に置き去りにされていた。

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