―――…もういらないや!


 苦労して手に入れたはずの紋章とタグ。この世界に来た時に手にしたデジヴァイス。ぽいっと、まるで簡単に、投げ捨てた。トコモンは、目の前が絶望的に真っ黒に染め上げられた。それは、二人の唯一の絆を象徴する大切なものだった。ぶわっとこみあげた想いは止められず、「行こう!ピコデビモン!」「ふん」どこかへと立ち去って行く二人の背中を見ることすらも出来ず、泣き崩れた。


―――…ばかっ、ばかばか!タケルのばかー!!


「それでトコモンが独りぼっちになって…」
「うん…」
「…ヤマトも心配だけど、」


 脳内にぽっと浮かんだのは、トコモンの横に必ず居たタケルの姿だった。デジヴァイスと紋章を握りしめ、太一は栞を見やる。


「まずはタケル、だな」
「…そう、だね。…タケルくん、心からそんなこと言ったわけじゃない。だから、凄く、傷ついてると思うし…。ヤマトくんのことでも、傷ついてると、思うな」
「オッケー。…トコモン。タケルの居る遊園地へ案内してくれ」
「うん!」


 栞はイヴモンを抱え、トコモンはアグモンの頭の上へ乗せられ、増えた人数で再び歩き出した。目的地は遊園地だ。
 遊園地までは大した距離ではなくて、直ぐに見えた大きな観覧車に、幼い日の記憶がよみがえる。父と兄と三人で行った遊園地はとても楽しかった。遊園地は辛い場所じゃない。想い出を作るために、楽しむ場所だ。――ちらりとトコモンを見て、再び観覧車を見た。どれほど傷つけられようとも、トコモンはタケルのことだけを真摯に思っている。痛いほど、真っ直ぐに。しかし、タケルにはまだその思いが理解し切れていない。


「…早く、―――…て欲しいな、」
「…うン?何カ、言っタ?」
「―――…何でもない」


 緩やかに首を振って、小さな笑みを浮かべる。
 遊園地は、すぐそこに迫っていた。


17/07/27 訂正

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