063 傷つくことを選んだ日




「…八神くん、」
「うん?」


 遊園地に辿り付いた瞬間、二人のデジヴァイスが反応し始めた。赤色の光を放つそれは、おそらくタケルの居場所を示していた。


「デジヴァイスが反応してるな…」
「タケルくん、近くに居るんだよ」
「なら、早く見つけ出さないと!」


( このまま行けば、恐らくアイツがそこにいる。アイツと栞を引き合わせるわけにはいかない。けれど、理由も無しに行きたがらなければ栞は疑問に思う。…どうすればいいんだ。どうすれば、きみを、守れるの――? )

 
 高い瞬発力を足に秘める太一に、必死に着いていこうと足を動かす栞の頬は軽く赤く染まっていた。運動なんて、得意じゃないのだろう。その愛らしい姿に思わず頬が緩む。


( それでも。守らなきゃ )


 そっと目を閉じた。思い浮かぶのは、小高く涼やかな丘の上に凛と立つ少女の姿。


( たとえ、この身を滅ぼしたとしても )


 再び会えることだけを祈って、待って、生きてきた。その孤独だった年月のことを思えば、今はどれだけ幸せな日々なのだろう。


( 君さえ、守れれば――― )


★ ★ ★




「タケルー!!」


 太一とアグモンが叫び続けて数分、栞は目の隅っこに緑色の帽子をかぶった少年の姿が目に映った。思わず、前を走る太一の服の裾を引っ張り、それを示す。


「八神くん、あれ!」


 引っ張られた衝撃で太一の体がそちらへと傾き、彼の瞳にもその少年の姿が映し出された。


「タケルっ!!」


 太一の顔にも栞の顔にも優しい笑みが浮かんだ。
 テーブルにうつ伏せて眠っていたタケルは、その聞きなれた声に思わず飛び起きる。――夢?それとも。椅子から降りれば、目の真ん中には、あの優しい二人がいた。あの日のことが思い浮かぶ。砂嵐が吹きすさぶ中で消えてしまった二人と二匹。「探そう」と言った空に、「諦めろ」と言ったヤマト。そこから全員の心が離れ、道が違ってしまった。タケルとしても、兄として、また姉として慕っていた二人が消えてしまったことが凄く悲しかった。だからこそ、奇跡のように感じた。


「太一さん、栞さん!!」
「タケルッ!」
「生きてたの!?」
「当たり前だろ、死んでたまるかよ!」


 夢では、なかった。
 タケルの顔に、愛らしい笑みが浮かぶ。そのまま駆けだし、目の前に立った太一の腰に抱きついた。


「良かったっ、生きてて、良かった!心配したんだよ?僕、すっごく心配したんだよ?」
「心配掛けてごめんね、タケルくん」
「でも、生きてて、良かったっ」
「タケル、」
「っ?…トコモンも、一緒だったの?」


 いつもの調子で答えてくれたタケルに、トコモンは嬉しくなって、うん、と答えた。


「分かってくれたんだね。自分が悪かったって」
「悪いことなんてしてないもん!」
「トコモン!いつから君はそんな風になっちゃったんだ!」
「まあまあ…。話はトコモンから聞いたよ。今は内輪もめなんてしてる場合じゃないだろ?ヤマトや他のみんなを探しに行こうよ」


 タケルの肩に触れ優しく諭す太一だったが、タケルは想いに反してそっぽを向いて後ろを向いた。

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