「…そうだ、八神くん。さっき――…」
話をすり替えるように、先ほどの空のことを伝えようと、栞は口を開け―――そのまま、目を見開いた。とてつもない悪寒が、彼女に襲いかかる。何かに怯えるように、自分自身を抱きしめ、音を立てて震えだした。
「お、おい、栞!」
『何か』なんて、明確なことは解らなかった。それでも、恐れていたものが『訪れてしまった』。目の前が、赤く染まっていくのが分かる。まるで真っ赤な太陽をその瞳に映し出していくかのように、赤いフィルターがかかった。己のものではない何かに、乗っ取られるような感覚さえ否めない。――果てない空に、憧れていたんだ。真っ赤な太陽が、羨ましかった―――ぞわりと身の毛がよだつような思いに、心が震える。
「―――…来て、しまう……、『 』が……やってくる、」
「おい、栞!平気か!?」
「…がみ、く…、ん?」
太一の暖かい手が、栞の肩に触れた途端、焦点の合っていなかった彼女の瞳が、ゆっくりと真正面を向いた。気の抜けたように、急に荒い息を繰り返す栞は、何の考えもなく目の前の温もりに縋った。
己の体が、まるで真冬の湖に飛び込んだかのように、冷たく凍えている。その体を、温めて欲しかった。優しく包み込んで欲しかった。
「ちょ…っ、お、おい!」
急なことに驚く太一は、戸惑った。タケルを受け入れるときとは、少し訳が違う。それでも、縋る栞を拒否することなど出来なかった。その自負しているほどに暖かい手で、彼女の二の腕に触れ、少し乱雑ではあるけれど、腫れ物に触るよう包み込んだ。
( そう。ヤマトには身体的な部分を― )
( 更に、空には、精神的な部分を― )
( そして、太一には、心の深い部分を― )
彼は、空色の瞳を伏せる。
何もできない自分が歯がゆくて。悔しくて。
だからこそ、全てを、託すことに決めた。
( …どうか。栞を―――… )
太一は、次第に落ち着きを取り戻した栞を宥め、地面に座らせて少し休ませることにした。その間に、タケルとパタモンに分かってもらえる範囲で事情を説明した。
「この世界の歪みが、現実世界にも影響を及ぼしている。だから、元の世界に戻る前に、こっちの世界の歪みを何とかしなきゃならない。それには、みんなの力を合わせなきゃ!」
その笑顔の裏には、あの瞬間、置き去りにした妹の姿がちらついている。再びあの家でヒカリに会う為に、己たちが出来ること、すべきこと、それが何なのかようやく分かり始めた。
「タケルの力もだ!」
「うん、僕頑張るよ!」
「そう!そのいきだ!じゃあ、他のみんなを探しに行こう!」
「「「うん!」」」
離れ離れになった仲間たちを探し始めた三人と三匹は、再び歩き始めた。
ヤマトや空の行動、他の仲間の居場所、突然の栞の震え――不可解なことは、まだまだ多く有った。
17/07/27 訂正
11/04/12
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